まもなくバレンタイン。以前は手間のかかるお菓子を作ることもあったが、ここ数年は気づけばゴーフルが続いている。理由は、各々がトッピングを好きなようにアレンジして楽しめるから。家族が増えた今、以前よりも柔軟な食卓に変わりつつあるように思う。
ゴーフルに出会ったのは、フランスで料理の勉強をしていた頃のこと。あつあつでサクサクの軽い生地に、クリームやチョコ、そしてコンフィチュールを思う存分のせて、週末のご褒美としてしばしば食べていたことを思い出す。すでにお腹はいっぱいなはずなのにいくらでも食べられてしまう、甘いものは別腹とはよく言ったものだ。
そもそもフランスのゴーフルとは、英語でいうワッフルのこと。日本でゴーフルというと、クリームの入った薄くてサクサクしたものをイメージしやすいし、ワッフルといえば、ふかふかの生地にクリームが挟まれて折りたたまれているものや、駅構内で売られている丸型で甘い香りのものを想像する方が多いのではないか。
ゴーフルやワッフルなどとイメージが混同しているのは、その成り立ちに由来があるように思う。ゴーフルの原型は古代ギリシア時代にすでに完成していた。穀物を粥状にした生地や小麦粉の生地を、2枚の鉄板の間に挟んで焼いたという。しかし、この頃は今のような、凹凸の模様があったわけでもなく、またふかふかの厚みを出すこともできなかった。それは14世紀、オランダでワッフルメーカーが登場するのを待たなければならなかった。wafelとはオランダ語で蜂の巣を意味しており、ワッフルの凹凸は蜂の巣のイメージから来ていることがわかる。
ゴーフルの原型、古代ギリシアのオベリオスをヨーロッパ中に広めたのはキリスト教の宣教師で、各地で独自に発展した。有名なところでは、ベルギーのブリュッセルとリエージュ、それからベルギーと国境を接するフランスのリールのものがある。ブリュッセルゴーフルは、長方形の生地にトッピングをあれこれしていただくもの、リエージュは酵母を使用したブリオッシュ生地にパールシュガーや粉砂糖を加えて焼いた丸くて甘いタイプのもの。リールのものは薄くてサクサクしたタイプのものを指す。今回ご紹介するゴーフルはブリュッセルスタイルのもの。ちなみにゴーフルの語源は模様を型押しするgaufrerから来ているのだとか。


今回はヘレンドのアポニーグリーンをご紹介する。ヘレンドはハンガリーを代表する磁器メーカーで1826年に設立された。ヘレンドが世界的に周知されたきっかけは、イギリスのヴィクトリア女王が、世界初の万国博覧会でヘレンドのディナーセットを一式注文したことによる。このヴィクトリアシリーズは、今でもイギリス王室に献上されているそうだ。ヴィクトリアのようにヘレンドの食器には注文者の名前が冠されることが多い。例えばロスチャイルドとかバッチャーニとか、そしてアポニーもその例に当てはまる。
ハンガリーの有力貴族アポニー家に来客があることになり、大急ぎでヘレンドに食器を注文した。納期が短かったため、できるだけ早く作れるようにと慌ててインドの華のモチーフの一部を抜き出して完成させた。これが今ではアポニーと呼ばれるシリーズになり、世界中で愛されている。ヨーロッパの王侯貴族に愛された上品で優美なデザインのヘレンドの食器は、今回のようにカジュアルな料理をもグレードアップさせてくれるような魅力がある。
ゴーフル

―材料(3枚分)
- 小麦粉 100g
- 砂糖 10g
- 塩 1つまみ
- ベーキングパウダー 6g
- 卵 1個
- 牛乳 50g
- ビール 20g
- バター 20g
クレームフエッテ
- 生クリーム(36%) 100g
チョコレートソース
- チョコレート(カカオ44%) 100g
- 生クリーム 100g
- バター 10g
りんごのコンフィチュール
- りんご 180g
- 砂糖 60g
- すだちの搾り汁(レモン、カボスなど柑橘類) 8g

①ゴーフルの生地を作る。分量の小麦粉、砂糖、塩、ベーキングパウダーをあらかじめ合わせておき、ここへ卵1個、牛乳50gと分量外の水50gを加えて混ぜる。ビールを加えてさらに混ぜる。
②溶かしバターを作る。耐熱皿にバターを入れて、電子レンジにかける。600wで20秒、まだ全体が溶けていなければ、溶けるまで10秒ずつ足しながら様子を見る。溶けたら、①に加えてしっかりと混ぜてラップをかけて2〜3時間休ませる。
③クレームフエッテを作る。生クリームを泡立て器でひたすら混ぜて、ツノがしっかりと立つようになったら冷蔵庫で冷やす。
④チョコレートソースを作る。チョコレートと水20g(分量外)を片手鍋に入れて火にかけ、チョコが溶けたら火から下ろして、生クリームとバターを加えて泡立て器でよく混ぜておく。ラップを直接かけて冷蔵庫で休ませる。使う時に改めてよく混ぜる。



⑤りんごのコンフィチュールを作る。りんごを薄い銀杏切りにして、塩水につけておく。鍋にりんご、砂糖、柑橘の搾り汁を入れて中火にかけて、弱火で炊く。



⑥ワッフルメーカーを熱して、油を軽く全体に伸ばす。ここへ片面がいっぱいになるように②の生地を流し入れて、焼く。途中で裏返して両面焼く。好みの焼き色がつくまで繰り返す。


⑦ゴーフルを食べやすくカットして、好みで粉砂糖をかける。付け合わせに、クレームフエッテ、チョコレートソース、コンフィチュールを。
多めに焼いておき、冷凍庫で保存しておくと重宝する。食べたいタイミングで、トースターで温め直せばボリュームもあり朝食にも適している。卵やスモークサーモンなど塩気のものとも相性が良いのでおすすめだ。

料理家 千 麻子
学習院大学文学部哲学科および経済学部経営学科を卒業し、史料館に勤めた。また美味しいもの好きが高じて美食の街、リヨンのポールボキューズ料理学校をはじめ、国内外問わず料理を学び、フランスではミシュラン3つ星のレストランの厨房でも研鑽を積む。
Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/