ホテルやリゾートとは少し目的の違う新たなジャンルとして、リトリートはじわじわと世界的に広がりを見せています。リトリートとは、一言で言えば、リラックスしてゆったりと過ごせるリゾートホテルや、食事に思いを込めて食を自慢とするオーベルジュのような宿泊施設の融合に、さらに、自分と向き合い心身をリセットする、昔から日本でも言われている‘転地療法’のような意味を持つ施設のことを言います。つまり、観光旅行やショッピング、遊びに特化されず、住み慣れた場所を離れて疲労困憊した心身を休め、素の自分を取り戻す過ごし方の提案がなされている施設のことを言います。だからこそ、ロケーションの重要性は必至なのです。

ここ由布院温泉の町はずれに広がる豊かな森の中に、山の傾斜地を利用したリトリートが誕生しました。その名は、「ボタニカル・リトリート・ENOWA YUFUIN」と言います。



広大な自家菜園「ENOWAファーム」で野菜を育てるエグゼクティブシェフのタシ・ジャムツォ氏。FARM TO TABLE の哲学を世に流行らせたNYのレストラン「ブルー・ヒル・アット・ストーンバーンズ」で研鑽。そのフィロソフィーを受け継ぐ。



リトリート内のレストラン内観。


「ENOWA YUFUIN」の建つ環境はリトリートとして完璧であり、静けさや、空気の澄んだ大自然の中で過ごせること、ラグジュアリーな設備、そして何よりも注目度が高いのは食の優れた提案です。リトリートには欠かせない食の充実は、滞在中の人々に内面からの元気を取り戻し、精神をリラックスさせて安定させるという喜びでもあるのです。

リトリートの大切な食のコンセプトとして、低カロリー食、ヘルシー志向のメニュー、野菜を多く使うなどは語るまでもありませんが、ここでは実際に料理長が、これまでにはなかった食材と食の新たな取り組みに挑戦中です。食の総責任者であるタシ・ジャムツォ氏は、野菜のおいしさを極限まで味わうために、リトリート開業の数年前から‘ENOWAファーム’を作り、オーガニック野菜生産のためにそこで土づくりから始めたといいます。そして館内のレストラン「JIMGU」では、旬を迎えたその日に、収穫されたばかりの野菜料理が提供されるのです。「その日のメニューは、ファームが決める」「食材を育んだ土、地球の力、その生命観までを伝える料理を」というのがタシ氏の哲学です。そして「FARM DRIVENの真髄を味わってほしい」と語っています。

FARM DRIVENには‘農場主導’の意味があり、その日一番の食材からメニューを作り、すべてのおいしさはファームにありとする考えです。食材の見た目や大きさではなく、旨味の凝縮された旬の野菜を収穫し、ファームからテーブルへ最速で供給するという鮮度が生み出す味わいなのです。今後、世界中で食糧難や危機が来るかもしれないと言われる現代、何よりも贅沢で、何よりも安心安全な考え方ではないでしょうか。



収穫直後の野菜がずらり。土づくりは野菜作りの魔術師と言われる京都の石割照久氏の指導の下、安心安全な野菜を有機肥料で栽培。野菜本来の甘みがあり美味しい。



その日収穫された野菜の新鮮サラダ。


一方、滞在用の客室はいずれもラグジュアリーな空間づくりが印象的です。この日、私が滞在したのは最も広い部屋プレミアムスイート「HILL TOP SKY PAVILION」(165㎡)でした。傾斜地の敷地の最上部に造られ、由布院の町を見晴らします。テラスには大きなインフィニティプールと露天温泉風呂を設えた、見晴らしのいい快適な部屋でした。客室は他にも様々なタイプが用意され、贅沢にも滝が流れる「HILL SIDE WATER FALL VILLA」(108㎡)や、ヴィラとは別に78㎡の客室が揃っています。いずれの部屋もゆったりと過ごせる造りがリトリートらしく、どの部屋に滞在しても、大きな窓から見える周囲の森との一体感がたまりません。

4万4千㎡という壮大な敷地面積を誇るリトリートでは、勇壮な由布岳の麓で日常から離れて自分をリセットする、絶好の場所。敷地全体の最上部には「HILL TOP SAUNA」が作られ、天空のサウナとして大空と視野の開けた情景が楽しめます。特に好天の日の夕焼けは素晴らしく、この貸し切りサウナのデッキでプライベートな時間を過ごすことも可能です。全19室という限られた客室、プライベートな時間、素晴らしい食事。人生の一休みに、こんな静謐な時を自身のために過ごせることは、これ以上ない真のラグジュアリーではないかと思えるのです。



「HILL TOP SKY PAVILION」(ヒル・トップ・スカイ・パビリオン)ROOM.01の室内。インフィニティプール、露天かけ流し温泉が設置されたゴージャスなテラス付き。



「HILL TOP SKY PAVILION」(ヒル・トップ・スカイ・パビリオン)ROOM.01の室内。大きな窓からは由布院の町も一望できる。



サウナのテラスから由布院を眺める。澄んだ空気の中で貸し切りで過ごせる‘プライベートサウナ’。

取材・文/せきねきょうこ

Photo: ENOWA YUFUIN





せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。

http://www.kyokosekine.com


DATA

ボタニカル・リトリート

ENOWA YUFUIN

大分県由布市湯布院町川上丸尾544

📞:0120-770-655(予約センター 9:00~17:45)

https://enowa-yufuin.jp/


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