はじめまして、都内の法律事務所で弁護士をしている菅原草子です。出会った人によく言われる「弁護士っぽくない!良い意味で。」。これが本当に良い意味なのかどうかはさておき、悲しいかな、どうやらまだまだ多くの人から敬遠されるらしい我々の職業。法律とは全く関係のない世界から弁護士になった私なので、その感覚もとてもよくわかります。わかるからこそ、法律や弁護士が少しでも親しみある存在になることで相談することへの抵抗をなくしてもらいたい、早期に悩みを打ち明けてよりよい人生への一歩を踏み出してもらいたい、という思いを強くしていたところ、幸運にもその思いをSUMAUさんと共感できました。
そこで本連載では、肩肘張らずに、みなさんの生活に寄り添う、いつかに備えて頭の片隅においておきたい法律知識をお届けしていきたいと思います。
さて、今や当たり前のように存在する、SNSやインターネット上における誹謗中傷。ネット上のトラブルから発展することはもちろん、実生活におけるご近所トラブルが、ネット上でのトラブルに発展することもあります。
自分がいつ誹謗中傷の的になるかわからない時代。残念なことに、どうやったって犯罪がなくならないように、インターネット上の誹謗中傷や嫌がらせが、ここまで日常になってしまった今、世の中から消えることはないでしょう。犯罪や交通事故のように、それは突然あなたにも振りかかってくるかもしれません。そうだとすれば、次に考えておくべきは、被害に遭ったときにどうやって対処するか。
1 誹謗中傷を「削除」したい
いわれのない誹謗中傷の書き込みがあれば、拡散を防ぐためにも、投稿を削除したいですよね。何よりも書き込みを見るたびに、とてもつらい気持ちになります。
誹謗中傷を削除するには3段階の手順が考えられます
①SNSや掲載サイトの掲載削除依頼フォームなどから削除を要請してみる
②弁護士に依頼して弁護士からサイト管理者に削除を求める
③仮処分という裁判所の手続を申し立てる
①はまず、誰もが無料で取り掛かることのできる手段です。功を奏さない場合には②弁護士へ依頼します。それでも難しければ③裁判所へ申し立てをし、必要性が認められれば裁判所からサイト管理者に削除が命令される、といった方法も考えられます。
ご自身で削除依頼をされる場合には、フォームからの簡易的な請求ではなく、一般社団法人テレコムサービス協会が作成したガイドラインに従った書式を用いる請求もあります。
プロバイダ責任制限法 関連情報WEBサイト:https://www.isplaw.jp/
また、相談先としては、総務省から委託運営されている相談窓口もあります。
違法・有害情報相談センター:https://ihaho.jp/aboutus/index.html
しかし、誹謗中傷が繰り返される場合には、1つ1つの投稿に対し削除を求めていては切りがありません。また、多くの誹謗中傷は匿名で行われれるため、根源である加害者本人に直接誹謗中傷をやめるよう忠告したり法的措置を取ったりするのが難しいのも厄介なところです…。
そこで、加害者を特定し、直接加害者に対してアクションを起こす手段があります。
2 「誰」が誹謗中傷をしているのか明らかにしたい
それを可能にするのが、プロバイダ責任制限法(正式名称「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)が定める、発信者情報開示請求です。人を死にも追いやる昨今の誹謗中傷の深刻化から、2022年10月に改正法が施行されることでニュースになったため、昨年は多くの方が耳にしたかもしれません。
そもそも、発信者情報開示請求って?今回の改正では、何がどのように変わったのでしょうか?
発信者情報開示請求とは?
発信者情報開示請求とは、SNSやウェブサイト上で誹謗中傷など他者の名誉・権利を侵害する投稿をした人の住所、氏名などの情報をSNS事業者・サイト運営者やプロバイダに開示するよう求める手続きです。権利侵害がある等の要件を充たせば、裁判手続きによらず直接SNS事業者等に請求する権利がありますが*、任意に情報が開示されることは多くありません。そのため一般には、裁判手続を経る必要があります。
*削除請求と同様に、テレコムサービス協会がひな形を公開しています。
――これまでの発信者情報開示請求
1)SNS事業者やサイト運営者に対する発信者情報開示の仮処分を申し立てる。
※申立書とあわせて客観的証拠を提出する必要があります。問題となる誹謗中傷の投稿について、スクショや画面キャプチャを保存しておくようにしましょう。
↓
裁判所の判断により申立てが認められれば、問題となる投稿についてのIPアドレス、接続日時の開示を受けることができます。
2) 1)で開示された情報を使用し、インターネット接続事業者(@nifty、auひかり、ドコモ光などのプロバイダ)に対する、投稿者の氏名や住所の開示を請求する訴訟を提起する。
※投稿者の情報が消去されてしまうことを防ぐため、同時に発信者情報消去禁止の仮処分を申し立てることも考えられます。
↓
裁判所が投稿内容が名誉棄損に該当すると判断した場合に、開示を認める判決が下され、プロバイダから投稿者の個人情報の開示を受けることができます。
このような2段階の裁判手続きが必要であるため、開示までの期間や費用について被害者の負担が大きく、ログインを伴うようなSNSにおいては開示対象に該当しない場合があるなどの課題がありました。
――改正後の発信者情報開示請求
そこで、改正法では以下の点が見直されました。
<ポイント1>
「発信者情報開示命令に関する裁判手続」という1つの手続きの中で、誹謗中傷の投稿者を特定できる柔軟かつ迅速な手続きの創設
→具体的には、裁判所に発信者情報の開示命令を申し立てることで、①SNS事業者等とプロバイダに対する開示命令に加え、②SNS事業者に対する申立人・プロバイダへの情報の提供命令、③プロバイダに対する情報の消去禁止命令、の3つの命令が出せる仕組みとなりました。
なお、従前の手続きも継続され、判断が難しいケースなどは既存の手続きが用いられることが予想されます。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000836903.pdfより
<ポイント2>
ログイン型サービスの提供事業者に対しても発信者情報の開示を請求できるような対象範囲の見直し
これらの改正により、開示が認められる範囲が広がり、期間や費用も縮小されることが期待されています。新制度により1か月を待たず開示された例もあるようです。
3 加害者に民事上・刑事上の責任追及をしたい
このように投稿者の氏名、住所を取得できてはじめて、①投稿者に対して警告書面を送る、②損害賠償を請求する、③刑事告訴をする、といった手段を検討できることになります。
これらの手続きも自分で行うことができますが、弁護士に交渉や裁判を依頼される方が多いかもしれません。
被害者として損害賠償請求まで考えるとなると、訴訟の場合は1年以上かかることも多く、まだまだ被害者の負担は大きいものです。しかし、一人ひとりの被害者が然るべき対応を取っていくことで、被害を軽減させることができる、加害者を減らすことができると信じています。
今回、誹謗中傷にも対抗していく手段があるんだ、ということを知っていただけたかと思います。悩んだときには抱え込まずに、まずは相談してみることを考えていただければ嬉しいです。
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弁護士 菅原草子(スガワラソウコ)
仙台市出身。都内法律事務所所属。個人から企業の相談まで分野を問わず依頼をうけている。
大学院農学研究科で食品成分の研究をしていた異色の経歴から、食品関係企業の取締役も務める。
趣味は、ビールと美味しいごはんと海外旅行。
instagram:@sooco_s328
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