スタイリッシュでミニマルなデザインが印象的なホテル「SHISHI-IWA-HOUSE KARUIZAWA」(ししいわハウス軽井沢)は、2019年2月の開業以来、ホテルの建築デザインの特異性や環境の良さに魅了される感度の高いゲストが訪れています。森に包まれるように建つホテルのユニークなデザインを造り上げたのは環境に優しい作品で知られる建築家、坂茂氏でした。
坂氏と言えば、アメリカで建築を学び、紙管(紙の筒)やコンテナなどを使用する新しい発想の建築を次々と世に出し、災害支援活動や環境型建築としても高い評価を受けています。2014年には建築分野の国際的な賞であるプリツカー賞を受賞、フランス芸術文化勲章コマンドゥールも受章しています。近年では、坂氏がデザインを担当した山形県鶴岡市の「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」が広い分野で人気を呼んでいます。また、アメリカの有力旅行雑誌「Travel + Leisure(トラベル・アンド・レジャー)」誌では、2020年2月20日、世界各地の優れた新規オープンやリニューアルしたホテルの中から、優れたホテルとして「2020 It List」にも選出されているのです。
その坂氏が建築デザインを手掛けた軽井沢のスモールラグジュアリーホテル「SHISHI-IWA-HOUSE KARUIZAWA」は、前述の通り、環境にも人にも優しいホテルでした。木造パネル工法を採用した建物は2階建てで、木造パネル工法(PHPパネル)と、木材の「Aフレーム」(構造フレーム)37個を工場で作り、それを現場で組み立てて施工し出来上がった建物といいます。
このホテルはHDH キャピタル・マネージメントが出資する企業、HDHP GK社が開発したリゾート施設であり、同社のブティック・ホテル・コレクション第1号として誕生しました。部屋数は全11、優しい印象の流線型の建物は3つのクラスターから成っています。客室にはプライベート感が漂い、窓には緑の森が映り込み、窓に迫る緑を眺めながら、まるで森の中に居るような一体感が快適な造りです。それぞれのクラスターには、滞在ゲストが共有するパブリックな‘コミュナル・スペース’が造られ、自由に集い、お互いの親睦を深めて欲しいと願います。館内には、坂氏の特徴である紙管がベッドのヘッドボードやテーブルの脚部などに使われ、客室内は温かみのあるムードが漂っています。さらにプラスチックを使わず、アメニティのエコブランド化にも配慮が行き届いています。
さらに現在、森を挟んで隣接する場所に、「ししいわハウス軽井沢No.2」が2022年7月1日にオープンしています。先のNo.1と同様の木造建築ですが、印象はがらりと違います。より年齢層の若いゲストを主力ターゲットにカジュアルな雰囲気を演出。20㎡の客室が1階に12室造られました。バスルームという形ではなく、ヒノキのバスタブが客室内に置かれカーテンでぐるりと隠れるようになっているのが斬新です。2階は予約をすれば外部の人も利用可能な大きなテラス付きレストランです。そのフロアは広く、横幅が12m、奥行き25mの柱の無い空間は開放感たっぷり。ガラス戸を全面開けば、まるでオープンエアのレストランに早変わりするゴージャスな造りです。No.1のテーマにある「ソーシャル・ホスピタリティ」は、このNo.2に於いても同様に掲げられました。
取材・文/せきねきょうこ
Photo: SHISHI-IWA-HOUSE
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。
DATA
SHISHI-IWA-HOUSE
長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147−768