1915年(大正4年)、東京駅が開業した翌年に「東京ステーションホテル」が創業しました。そして美しい建物は2003年(平成15年)には国の重要文化財に指定され、その後2007年からは、今やだれもが知るところとなったホテルのリニューアルが行われたのです。全館閉館して行われた大工事は、約5年半の保存・復原を経て、2012年10月3日、100年前の姿以上に、神々しいほど輝きを増した建物として改装され、赤煉瓦の美しい、パワフルでエレガントな唯一無二のホテルが開業に至りました。
その後2014年には東京駅が開業100年を迎えることもあり、東京駅周囲は大いに盛り上がったのを覚えています。ホテルも、開業を待ち望んでいたホテルファン同様、テレビや雑誌、新聞などあらゆるメディアに登場。数知れぬ賛美を受け、歴史や物語が語られ、時代を超えて誰もが知るホテルとなりました。さらに建物が国の重要文化財であることや、1945年の東京大空襲で破壊された南北の丸形ドームが改装と共に見事に再建されたことも知れ渡り、開業からしばらくの間、蘇ったレリーフを見上げ、ドームの真下から写真を撮る人を多く見かけたものです。


白い大理石のロビーに隣接したロビーラウンジ。幾何学的なカーペットとダマスク織のカーテン、調度品やシャンデリアがエレガントなムードを演出。なかなか座席の取れない人気の空間。

歴史的なストーリーが宿るホテルの館内にはかつて文豪たちに愛された客室もあり、中でもエピソードが残る客室の前の壁には、それとわかるように、しかしながら謙虚なデザインのレジュメが掛けられています。特に有名なのは、松本清張が小説「点と線」のトリックを思いついたという部屋でしょうか。この部屋の廊下には連載小説の第1回ページと当時の時刻表が飾られているため、廊下に立ち止まって見つめる人や、ここで記念写真を撮る人も見かけます。一方、川端康成の小説「女であること」、江戸川乱歩が推理小説「怪人二十面相」に綴った‘名探偵明智小五郎と怪人が出会う場所として描いた舞台’という客室、また鉄道マニアだった随筆家の内田百聞はここのホテルを定宿としていたなど、話題の尽きないホテルの歴史です。
「東京ステーションホテル」は、鉄道という旅立ちの舞台と共にある駅舎ホテルであることから、著名人ばかりか、それ以上に鉄道ファンやホテルファンの多くがそれぞれの思い出を内に秘めているに違いありません。ホテ改装以前から、ずっとこのホテルのファンであった筆者は、アンティークな木造のギシギシと音のする中央階段が印象的で、美味しいアップルパイと紅茶をいただくために、何度となくこのホテルを訪れていたのをはっきりと覚えています。
さて、化粧直しをしたホテルの客室は2階~3(1部4階)階に全150室揃っています。客室棟の廊下は駅舎全長の335mとほぼ同様な長さを占めていることから、この長い廊下も特徴的なデザインとなりました。また、客室の中でも瀟洒な南北ドームの姿を間近に見ることのできる‘ドームサイド’の28室は特に人気が高いと言います。その他、クラシック29室、シティービュー16室、パレスサイド39室、サウスウィング8室、パレスビュー14室、ジュニアスイート4室、メゾネット7 室、スイート4室、インペリアルスイート1室の構成から成り、いずれの部屋もヨーロピアンクラシックなデザインとモダニズムとの融合、そしてターミナル駅と共にある不思議な高揚感に包まれます。


人気の高い「ドームサイド」ルームのひとつ。カーテンを開ければドームレリーフが間近に望める部屋はドラマチック。


同じく4mの高い天井の「ドームサイド」ルーム。アメニティの1つであるメモパッドは文豪に愛されたストーリーのオマージュにとマス目模様の「原稿用紙デザイン」に。


駅舎南側ドームの内部、中央を飾る円形はクレマチスの花形。南北ドームの構造躯体は耐震性から完全復原は困難であったものの、南北ドームのインテリアデザインは重要文化財であることを担保しながら、上部は創建当時に復原、下部は再設計。


アーチの中央部のキーストーン(要石)。アーチの装飾は秀吉の兜を意匠。

朝食をいただく最上4階には400㎡の広さを誇るアトリウムがあり、その空間には宿泊者のみに限られたプライベートでゆったりとした時間が流れています。メインダイニングは、2階に位置するレストラン「ブラン ルージュ」、他にバー&カフェ「カメリア」、バー「オーク」、そして1階には行列の絶えない「ロビーラウンジ」があります。その他、地下には4店舗のテナントがレストランを構えています。


宿泊者だけに限られたゲストラウンジ「アトリウム」。駅舎の屋根裏を活用し、東側から朝の光を採り込むため線路側の屋根一面をガラス屋根に。ホテル側によれば、文化庁の特別許可取得のために約4年半もの時を要したという。


メインダイニングのフランス料理「ブラン ルージュ」は総料理長 石原雅弘のこだわりの和食材で作る「日本のフランス料理」。

もう一つ、「スパ トキオネ」もお勧めです。不思議な言葉の意味を尋ねたら、フランス語で現す東京「TOKIO」と、「根」「音」「寝」の発音「NE」を合わせた造語。喧騒を離れ、静かに癒される異空間のスパでは、フランスのスパブランド「YONKA」(ヨンカ)、英国のラグジュアリー・スパ・スキンケアブランド「ELEMIS(エレミス)」を用い、「日本の中心、東京から“美”発信する大人の空間」と独自の世界観を披露しています。日本の中心である東京駅丸の内駅舎の中にある唯一無二の空間で過ごす贅沢な時間は、まさに使い続ける文化遺産の魅力に溢れています。


B1Fのフィットネス&スパエリアにある温浴施設。美肌の湯といわれる人工炭酸泉や人工温泉(二股温泉)、サウナを備えている。

取材・文/せきねきょうこ
Photo: THE TOKYO STATION HOTEL



せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。
http://www.kyokosekine.com

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