住居や職場の在り方がこれまでとは大きく変わった今。暮らす場所、また働く場所が改めて見つめ直されています。

そんな中で、様々な分野で活躍する方に、生活スタイルと結びつきの深い空間について感じていることをお伺いしていきます。

アートディレクター、コンテンツディレクターなど多方面で活躍の場を広げている鈴木淳子さん。4年ほど前からジュエリーデザイナーの夫と2人で、都内の一軒家に暮らしています。ファッションブロガーとしての経験から今の仕事に至るまで、またこれからのご自身の想いについて様々なお話を伺いました。


クライアントの想いを大事にしながら

より良いものを

――幅広く活躍されているイメージですが、現在はどのようなお仕事をされているか教えてください。

クライアントワークとしては、「ニールズヤード レメディーズ」のインスタグラムコンテンツの企画運営を行っています。ライターの手配やSEO対策などの細かい部分まで、統括しています。年内に始まる予定のものだと「ヤマハモーター ベトナム」ではメディアを立ち上げるためのディレクションをしています。スポーティ、スタイリッシュ、イノベーティブを掲げたブランドなので髪が青かった頃の私の写真を見て依頼していただきました。

この2つのブランドはテイストが対照的ですよね。ニールズヤードはまじめで落ち着いた印象で、私自身のイメージとは離れているかと思います。ただ、それを無理にモードなイメージに変えるようなことはしません。これまでのデザインの仕事もそうですが、仕事では無理に自分らしさを出す必要は無いと思っているので、ブランド本来の魅力を大事にするよう心がけています。

また、アーティストやクリエイターのケアを含めたマネジメントサポートを始めました。自分もそうだったのですが、依頼がきたときに良くしたいという気持ちで「もっと無理すればできるかも」と思ってしまうんです。でも、そこで「ちょっと待って、大変だよ」って言ってあげられる人って意外にいなくて。プロジェクト管理やスケジュール管理をできる人は沢山いますが、創り方の想定も含めたクライアントとのやりとりをまとめられる人って少ないんです。それをすぐに収益につなげたいということではなくて、作品もデザインも、モノだけが大事なところではないんですよね。その人のコンセプトや、素材を追求して社会と関わるためのプロジェクトも計画し始めています。




――仕事をするうえで気を付けていること、意識していることはありますか。

相手や、仲間の気持ちを考えるということですね。自分自身がインフルエンサーやアーティストとして作品を発表する機会をいただいていて、自分を表現するのはそこで満足しています。

本当に大事なのはより良い未来を実現するための企画を提案してクリエイターとクライアントのニーズがうまく合致することだと思うので、相手が求めているカードを引き出してフラットに対応するようにしています。同時に、チームのモチベーションが下がらないように、一歩ずつ達成できる目標を立てたり、感謝を伝えたり褒め合うことをとても大切にしています。

スケジュール管理が悩みどころではありますが、自分から発信する仕事と、クライアントの仕事、どちらかだけではなく両方やるのが向いているのかなと思います。

――いまのような仕事を始めるまでの経緯を教えてください。

ファッションブロガーとして、連載やデザイン、出演の仕事を頼まれるようになりました。依頼を受けるなかで、企画に無駄があるんじゃないか、こうしたほうが良いのでは?と疑問を持つことがありました。それで自分はキャストや純粋なデザイナーには向いていないと気づいてしまったんです。それなら半分裏側に回ろうと、徐々に自分の意見を言わせてもらうようになりました。

そこからは本当に偶然の繰り返しなんですよ。たまたま友だちが働いている会社のクライアントを紹介してもらって繋がりができて…というなかで仕事が広がっていきました。

ファッションブロガーをやっていたおかげで知り合いが増えたというのが大きいのかなと思います。あのとき出逢った友だちが、今となっては各分野で活躍している人ばかりで。縁ですね。

――ファッションブロガーに応募した動機は何だったんでしょうか。

写真を撮って好きなこと書けばいいなんて簡単にできるし楽しそう!という軽い気持ちでブログを始めました。ちょうどその頃、雑誌「Sweet」でのファッションブロガーの募集を偶然知って、深く考えずに応募し、ファイナリストになって私自身も驚きました。雑誌とテイストが違いますし、みんなが携帯で撮影しているのに一人だけ大きいカメラを抱えて、すごく浮いていたと思います。後で聞いたら編集部でも「大丈夫かな」と話し合っていたそうです(笑)。

まだ大学院生だった時ですが、最初に編集長から、人気があって雑誌が売れる見込みがあったら掲載するから、どうやって自分という商品を作っていくか考えなさいと言われたのを今でもはっきり覚えています。

自分がディレクションする立場だったのが、逆に自分が商品になるなんてすごく面白いと思いましたね。

4、5年関わらせていただきましたが、一緒に取材に連れて行ってもらったり、企画案を見てもらったりと勉強になることがたくさんありました。その経験も今の仕事につながっていますね。




家での仕事は

無理をしない、頑張りすぎない

――とても素敵なご自宅ですが、この家との出会いを教えてください。

以前は代々木上原のマンションに住んでいましたが、夫と一緒に住むことになり、一軒家ならジュエリーを制作するときに音がしても近所迷惑にならないかなと。

家探しを始めてから気づいたのですが、一軒家って入り組んだ場所に建っていることが多いんですね。車を使うことを考えると、なかなか良い家が見つかりませんでした。

そんなときに、この家を母が検索して見つけたんです。写真を見たときは都会的すぎて冷たい感じがしたのですが、実際に見たら全然印象が違ってすごく気に入りました。以前住んでいたマンションは、代々木上原の人気が高まっているタイミングだったので、ありがたいことに思ったよりも高く売れて設計した父もご機嫌でしたね(笑)。




――特にどういったところが気に入ったのでしょう。

窓が大きいので明るくて、天気が良いと富士山が見えるんです。なんだか運気が上がりそうだねって夫と話しました。全体にきれいですし、特に床の雰囲気が好きで、ほとんどリフォームはしていません。






――インテリアのこだわりがあれば教えてください。

父が建築家なので、椅子は良いものを買わないといけないという謎の家ルールがあるんです。私自身はすごく強いこだわりはなくて、暮らしにあったもの、というくらいで意外とラフなんですよ。最近はダイニングチェアを買ったんですが、ダイニングテーブルが無くて。ダイニングテーブルを手に入れるのが今年の目標ですね(笑)。ただテーブルって高額だし、うっかり制作で使えば汚れるし傷もついてしまうので、自分たちで創ろうかなと思っています。




――家ではどのように仕事をしていますか?

オフィスもあるのですが、家で仕事をする時間も増えました。家事をしながらメールのチェックや原稿確認などの軽い仕事をしています。一般的に言うと落ち着きがないかなとは思いますが、仕事の合間に強制的に立ち上がる用事を作るようにしているんです。ひとつのことを真剣にやると腰痛と肩こりになるんですよ(笑)。

私、本当に仕事が間に合わないときには平気で食事もせず12時間くらい座っていたりするんです。それって仕事は進んでもからだに良くないですよね。

もしいま仕事、仕事…と追い詰められている人がいたら、洗濯機を回している間だけメールを見るなど、“いい加減”なルールを作ると少し楽になるんじゃないかなってお伝えしたいですね。

私自身も実は完璧主義な部分もあって、できるまでやってしまうということがありました。突き詰めることで良い部分もあるとは思いますが、やっぱりやりすぎるとよくないですね。“いい加減な自分”も好きになってあげればストレスもやわらぐのかなと思います。

――家で過ごす時間が増えたことで、何か変化などありましたか?

寝ていい時間を増やしたので、すごく単純なのですが体調がよくなりました。また、以前は仕事でイベントも多く外出をよくしていましたが、実際は家で制作をしているほうが好きなんですよ。実は大学時代にクラブにも行ったことが無かったんです。というと驚かれますが(笑)、そんなふうに周りが考える自分のイメージに合わせて無理をしている部分があったのかなと思います。

ただイベントは無くならないで欲しいですし、オンラインイベントももっと新しい方法がないか、アートの展示などももう一歩進んだものがないかと夫とも話して考えています。

――最後に今後の展望ややってみたいことを教えてください。

最近、初めてアシスタントを探そうかなと考え始めました。というのも、海外でアートマネジメントについて学びたくて、日本でプロジェクト管理などを任せられる人がいればいいなと思っているんです。仕事として長く続けるためにも、海外に知り合いを増やしたいという想いもあります。

本当は学生の頃からずっと留学したいって思っていたんです。留学経験があると思われがちですが、学生時代には家庭の事情もあって叶いませんでした。それも穴埋めをしたいなって。大学院を出たあとに、カフェとギャラリーをやりたいと思って色々と用意したことがあるんですが、その夢もまだ諦めていません。時代に合わせた提案にはなると思いますが、空間でひとつの形にしたいという目標は変わらずです。海外にも拠点ができれば日本と海外をつなぐのも楽しくできそうだし、そこからさらにやりたいことが広がっていくんだろうと思っています。


鈴木淳子 

アートディレクター、コンテンツディレクター。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。同大学院空間演出研究室修了。在学中より日本のカワイイカルチャーを世界に発信するセルフポートレートブログ「カワイイラボ」が話題に。現在は国内外の企業のSNSコンテンツの制作・企画、アーティストのマネジメントなど幅広く活動する。

HP:https://junkosuzuki.tokyo/

Instagram:https://www.instagram.com/junkosuzuki/

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