生活様式が大きく変化するなか、住居や職場の在り方もこれまでとは変わってきています。自分が暮らす場所、また働く場所について改めて見つめなおすことが増えた今、様々な分野で活躍する方に生活スタイルと結びつきの深い空間について今感じていることをお伺いしていきます。

シェアリングエコノミー協会事務局長や内閣官房シェアリングエコノミー伝道師として、シェアを通した新しいライフスタイルを提案し続ける石山アンジュさん。クリエイターが共同生活を送る渋谷Ciftの立ち上げ当時から入居し、今は大分の古民家との2拠点生活を送っている石山さんに、そのライフスタイルや考え方についてお話をお伺いしました。


意識でつながっている“拡張家族”

―まず東京の拠点である渋谷Ciftについて教えてください。

2017年5月に渋谷の都市開発で生まれた複合施設の「渋谷キャスト」内の居住スペースで、全国に複数あるCift拠点のうち最初に立ち上げられた場所です。渋谷には現在、19部屋におよそ40人が暮らしているのですが、1歳の赤ちゃんから40代の方まで、料理研究家や弁護士、鍼灸師、ミュージシャンなど世代や職業は様々ですね。

さらに松濤エリアのほか、京都にも新たにCift拠点ができたので、合わせて102人がこのコミュニティに所属しています。

Ciftはシェアハウスとは違って、血縁関係に関わらず一人ひとりが家族になる“拡張家族”というコンセプトのコミュニティです。その繋がりを世界中に広げて世界が平和になることをビジョンに掲げているんです。

そこに共感をした方が面談を経て入居しているのですが、102人もいると家族の定義もそれぞれ違いますし婚姻などのわかりやすい制度はありません。「家族とはこういうもの」という共通意識を持つのは難しいんですけど、それぞれの価値観のなかで、子どもの面倒をみたり、病気になったら支えあったり、時間をかけて対話をしたり…そういうことを通じて家族というカタチを築いています。



―渋谷Ciftで暮らす中で感じていることを教えてください。

子育てにはとてもいい環境ではないかと思っています。共有スペースで子どもが自由に遊んでいて、誰かしらが面倒を見るので、渋谷という都会の真ん中ですが安心して遊べます。核家族が多い現代社会で親意外に頼れる人がいるというのは大きいですよね。私も今日、子どものお弁当を作ったんですよ(笑)。

また、Ciftメンバーの多くが何らかの専門職をもっていて、半数以上の方が複数の肩書を持っているので、合わせると200以上の肩書があるんじゃないでしょうか。様々な職種の人が暮らしているからこそ、コミュニティの中で新たな仕事が生まれることがあります。料理研究家とデザイナーが組んだプロジェクトや、ミュージシャンとイベンターでイベントを行うなど、暮らしが仕事につながるのは、普通の家族ではない特殊な部分ですよね。

拠点も複数持っている方が多いので、グーグルMAPで確認できるようにして、メンバー同士で拠点を行き来することもあります。



―シェアリングエコノミー伝道師としての活動について教えてください。

地方の自治体が抱える課題の解決に、どうシェアリングエコノミーを活用するかをアドバイスしています。人口が減っていってしまうと自治体としての収入源である税金が減り、公共サービスを維持できなくなってしまいますよね。そういった場合に例えばバスがなくなったら市民同士でライドシェアのサービスを始めるなど、シェアリングで代替できるような提案をするんです。

かつては地域のなかでお互いに助け合う共助の仕組みがありましたが、高度経済成長期に人が東京に流れてしまったことで、共同体が一旦崩れてしまっている状況にあります。

必要としている人とそれを持っている人を、シェアリングを通して繋げることが地域でできれば、共助の仕組みを再構築できる。それが特に期待されている部分ですね。



―コロナ禍でのシェアの意義をどう感じていますか?

過去になく不安定な時代で先が読めないなか、選択肢が1つしかないというのは本当に不安だと思うんです。家が東京にしかない、ひとつの職場に全ての収入を頼っている、頼れるのは彼氏しかいない…というよりは、常に複数の選択肢があることが豊かさのスタンダードになっていくはずです。仕事もコミュニティもシェアリングがひとつのインフラになるのではないかと思っています。

多拠点生活というとお金持ちにしかできないというイメージがあるかもしれませんが、例えば家賃を15万円支払っているとしたら、シェアリングで3拠点に5万円ずつ払うということもできます。また、どこかの家をあけるときはAirbnbで貸すことができますし、最近は、月額定額で全国各地の家に住み放題のADDressというサービスもあります。

仕事に関しても、これまでフリーランスなどの自由な働き方というのは、エンジニアやライターなどのホワイトカラーの職種がほとんどでした。シェアリングエコノミーの場合は、知識や時間、空間とすごく幅が広いんです。

犬が好きな人が、飼い主の代わりに犬を散歩するシェアサービスもあります。料理が好きな主婦がプロの資格がなくても作り置きが話題になって本を出版することもあります。一人ひとりが持っている経験や知識を使って収入を得られるので、働き方はシェアによって大きく変わってきていると思います。


全く違う2拠点だからこそ見えるものがある

―今、大分でも生活されていているそうですが大分にも拠点を持つきっかけを教えてください。

もともと、両親や祖父母がみんな首都圏に住んでいるので、「ぼくのなつやすみ」的な田舎暮らしにすごく憧れがありました(笑)。初めて大分に行ったとき、圧倒的な大自然を目の当たりにして、そこで暮らすことにますます興味が湧きました。



―実際に生活をされてみていかがですか?

私が住んでいる大分県豊後大野市は、別府などの温泉街からも車で1時間半ぐらいかかる山奥の農村集落なんですね。みなさん農家なので、朝起きると家に勝手に入ってきて野菜を「食べてね」と置いてくれて、自分からも何かあれば渡す「おすそわけ」があたりまえに行われていて、都会の暮らしとの違いを日々感じます。

小さな経済圏の中で生きている感覚があって、お金を使うのが楽しいんですよ。というのもパン屋さんも魚屋さんもイタリアンのお店も、みんな知り合いなので、お金を払っているんだけど、また別の形で自分にも返ってくるんだろうなというのが目に見えるんです。東京にいると、生産者と消費者の距離がすごく遠いですよね。そういったお金や人との繋がりの循環で街が成り立っていることが実感できます。

また、東京で虫がいたらスプレーで退治していたんですけど、その虫がいるからこそ自然が成り立っているということに気が付きました。一つひとつが繋がっているという生態系の連鎖をこれまで意識したことがなかったんですね。自然を目の当たりにしながら、生態系について知って、その中でどう人間が共存できるのかということを生活の中で考えるようになりました。



暮らしという面においては、いま空き家バンクから借りうけた古民家は8畳10間、それとは別に12畳の離れもあって、学校の校庭ぐらいの広さの畑も空き地もついてすごく広いんですけど、家賃は2万円程度。どう改装してもいいので、ペンキを塗ったり、インパクトで棚を作ったりできるのはすごく自由で楽しいです。もちろん一方では、厳しさもあって瓦屋根の工事や水洗トイレの工事などではお金はかかりますが、これだけ空き家問題があるいま、空き家を数万円で借りて、自分たちで作っていくという選択肢も今後広がっていくんじゃないかと思っています。



―2拠点生活のよさはどこに感じていますか?

私の場合は2拠点で対極の暮らしをしているので、両方の魅力に気付けることですね。東京に帰ると自然が少ないとは感じますが、その分都市は人間の創造性によって様々な建築物があるのがすごいと感じます。また、東京は新しい仕事や世界中から集まった面白いことをしている人たちとの繋がりができますよね。大分の場合は東京と違って、肩書きや仕事を意識しないつながりが大きく、さまざまな世代の地域の人たちと関わりながらありのままの自分でいられるのが心地いいです。



―自宅で仕事をする時間が増えている方が多いと思いますが、石山さんが家で仕事をするなかで感じていることはありますか?

Ciftのようにシェアハウス型の複数の人がいる環境に身を置くことの大切さを感じています。1人暮らしや、パートナーとの2人暮らしだと、オンライン会議ではムダ話やブレストはしづらかったりしますよね。でもここでは、アイディアを1つ求めるとたくさんの意見が出るんです。そういった繋がりがあることのよさを改めて実感していますね。

―今後の展望を教えてください。

自分も大分の自然を目の当たりにしないと気づかなかったことがたくさんあったので、都心の人たちが、体験を通して多拠点居住の魅力を感じられる場を作っていきたいですね。

また、いずれ子供を生むこともあると思うんです。Ciftでは子育ての環境ができているのですが、まだ大分では子育ての環境が整っていないので、2拠点居住の人でも子育てがしやすい環境について考えています。国土交通省が推奨する多拠点居住の政策の有識者委員にも加わっているのですが、そこでも子供が学校に通い始めると移動が難しいという問題がよくあがります。デュアルスクールなどの事例はいくつか生まれていたりするのですが、自分自身が子育てにやさしい環境を作っていくかけ橋になれたらいいなと思っています。

石山アンジュ

1989年生まれ。「シェア(共有)」の概念に親しみながら育つ。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。2018年10月ミレニアル世代のシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立。世界経済フォーラム Global Future Council Japan メンバー。新しい家族の形「拡張家族」を掲げるコミュニティ一般社団法人Cift代表理事。著書に「シェアライフ-新しい社会の新しい生き方(クロスメディア・パブリッシング)」がある。

DATA

Cift ホームページ:https://cift.co/

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