様々な分野で活躍されている方と生活に結び付きの深い場所をご紹介してきた連載、Inspiration Life。今回からは、より生活に密接しているご自宅をルームツアーのように巡りながら、空間のこだわりや仕事への想いについてお聞きします。

その第一回として訪れたのは、アートディレクター中田嘉生さんのご自宅。公園に隣接し、間近に緑を感じられる住まいでの暮らしを覗かせていただきました。

まだ知られていないモノの価値を伝える

――デザインを中心に多岐にわたり活躍されていますね。

様々な業種に関わってはいますが、何をしているか、と聞かれたら「コミュニケーションのデザイン」をしていますと答えます。デザインの本質は機能することであると考えていて、例えば椅子のデザインであれば最低限の機能は座れること。それと同じように「コミュニケーションデザイン」の最低限の機能は「伝わること」なんです。まだ世の中に知られていないモノや場所の価値を伝え、それによって人々を動かすこと――商品を購入してもらったり、店舗に足を運んでもらったり、そういった目的をかなえるために、包括的にクリエイティブ開発を行っています。

コミュニケーションは、どんなビジネスにも必ず共通して必要とされる概念なので、商業施設のビジュアルデザイン、オーラルケアブランドやホテルのブランディングデザイン、飲食店経営など、対象や媒体は問わないんです。

そのなかで、例えばWEBサイトだけとか、ロゴだけ作って終わりのような単発の仕事だけではなく、ブランドが成長していくまでのプロセスを長くサポートし、ブランドの世界観を作ってゆくという点には力を入れています。

――最近ではオーラルケアブランド「SWAG」を手掛けられました。多くの方の生活に密接にかかわるブランドですが、何か意識された点はありますか。

「店頭で圧倒的に目立つこと」と「爽快感が伝わること」は意識しました。コロナ禍のマスク生活の口臭問題から着想を得て誕生した商品で、ミントが強いのが特徴です。だからこそ、パッケージだけでも、”爽快な気分になれるブランド”という第一印象が伝わるようにしています。

オーラルケアのブランドでデザイン性を打ち出しているものは意外と少ないんですよね。比較的高価な商品でもあるので、「自分の生活に取り入れたい」と思ってもらえる世界観を纏う必要があるとも考えました。それで90年代の西海岸スケーターたちがこぞって使っているようなイメージをブランドイメージとして設定して、パッケージやWEBサイトなどのビジュアルデザインにも反映させたんです。「棚にしまわずに出しておきたくなるデザイン」と言ってもらえることも多くて、結果として意図したことが伝わったと思えると嬉しいですね。

――仕事のオンオフの切り替えはどうされていますか。

基本的には家では仕事ができないタイプなんです。仕事はオフィスでするものと決めていて、家ではちょっとした打ち合わせや、締め切りに追われているときに作業をするくらい。

仕事と生活が地続きになっているからこそ、きちんと着替えて電車に乗って外部の環境を変えることが切り替えに必要な気がしますね。

「ピンと来るかどうか」直感を大切にする家選び

――家選びで重視するポイントを教えてください。

内見が大好きで、家もそうですが、オフィスや経営するお店もいろんな物件を見に行きます。その中で、重要視しているのが「ピンと来るか来ないか」。直感的に、ここなら心地良く暮らせそうとイメージが湧き上がるかどうか、ということです。もちろん立地や設備は大切ですが、言い出すとキリがないじゃないですか。

この家も、コロナ禍をきっかけに、緑が見える場所に引っ越したくなって、一年ぐらいかけていろんな場所を内見して探しました。玄関を開けた瞬間に窓ガラス一面に緑が見えて「この家が良い」とピンときたんです。

これまでは千駄ヶ谷や原宿のオフィスにアクセスが良いところを基準に家の場所を選んでいました。生まれは石神井公園エリアですし、東京の西側にしか縁がありませんでした。東京の東側は選択肢になかったのですが、エリアのことは後で考えれば良いかなというくらい、この景色が気に入ったんです。

――ご自宅ではどのように過ごされていることが多いですか?

やっぱり一目ぼれした景色をずっと眺めていられるソファに座ってくつろいでいることがほとんどです。今はちょうど新緑のシーズンですが、夏になれば鬱蒼と葉が生い茂って、秋になると黄色く色づいて、冬には枯れて…と窓の外の景色が移り変わっていって季節を感じられます。

ちょうど今ぐらいの時期だと、ベランダはすごく居心地が良くて、理由もなくぼーっとすることもあります。

都心の、それも家の中で、これだけの自然が感じられる場所はなかなかないですよね。

――空間づくりでご自身なりのこだわりはありますか?

植物が好きなので、たくさん植物を置いています。また音楽も好きで、オーディオに対する専門的な知識はないのですが、お気に入りのスピーカーを設置して、音の気持ちよさは意識しています。

インテリアにおいては、あまりブランドで固めすぎずラフな部分を残していて、そういう方が逆に良いかな、と。

例えば、このアクセサリーを置いている棚は、角材と大理石の板を積みあげているだけのものなんです。

趣味のDIYからものづくりの学びも

――テーブルやパーテーションも、DIYされているんですね。

学生時代から工作やものづくりが好きで。引っ越してから、ローテーブルを探したんですけど、良いものは値が張りますよね。それなら作っちゃおう、と。

ホームセンターで木材を買って枠組みを作って、その上に大理石をのせています。周りに貼ってあるのは、よく食品用のラップの芯になっているような紙製の筒で、マグネットでくっついているだけなんですよ。

パーテーションも、似たようなものを購入しようとすると、かなり高額になってしまうのと、市販品よりも高さがあるものが欲しくて。これもホームセンターでカットしてもらった角材を並べて、ワイヤーを通してつなぎ合わせて作りました。

ただ、作ってみると、もう次の引っ越しでは動かせないぐらい重くなってしまったんです(笑)。

素人のDIYだとこれほど重くなってしまうものを、製品化されているものは誰でも扱いやすいよう、機能的にすごく考えられているんだと改めて実感することができ、大きな学びにつながりました。こうして作ってみることで構造が理解できますし、そういう意味では、趣味ですが、仕事へのインプットにつながるような部分もあるかもしれませんね。

――ほかに私生活で、仕事のインスピレーションにつながることはありますか?

会話から発想を得ることが一番多いかもしれないですね。常にどこかで仕事のことを考え続けているんですけど、全く関係のない家族や友人との会話で生まれた視点が今まで考えていたことと組み合わさって、「あ、こうだ」とふとつながるということがあります。

――中田さんにとって家はどういう場所でしょうか。

自分が、素直に居心地が良いと思える空間ですね。人生で、かなり長い時間を過ごすことになる空間だから、本当に妥協せずに自分が心から心地良いと思える場所に住めるのが一番だと思います。

中田嘉生さん

1983年 東京生まれ。 terminal Inc.代表。 1年間の浪人を経て、東京造形大学インダストリアルデザイン専攻入学。 4年生を3回、計6年間在籍したのち中退。 在学中より、クラブイベントのフライヤーのデザインなどをしながら 運営の手伝いをし、グラフィックデザインの面白さに目覚める。 株式会社アンティーファクトリーのグラフィック部門、ジ・アン グラフィックを経てフリーランスとして独立。 2013年3月、30歳の誕生日にterminal Inc.設立。 企業や商業施設等のブランディング、広告等のアートディレクション、 グラフィックデザイン、webデザイン、映像など、 多岐に渡るデザインを手がける。 セクシーでアーバンなデザインと音楽が好き。

Share

LINK

×
ページトップへ ページトップへ