生活様式が大きく変化するなか、住居や職場の在り方もこれまでとは変わってきています。自分が暮らす場所、また働く場所について改めて見つめなおすことが増えた今、様々な分野で活躍する方に生活スタイルと結びつきの深い空間について今感じていることをお伺いしていきます。
雑誌やWEBなど多数のメディアでテーブルコーディネーター・プロップスタイリストとして活躍する菅野有希子さん。家で過ごす時間が何より好きだという菅野さんは、築15年の中古マンションをフルリノベーションした自分らしい空間で暮らしています。家で仕事をすることも増えたという菅野さんに暮らしと仕事についてお伺いしました。
得意なことがいつの間にか仕事に
―まずは、テーブルコーディネーター・プロップスタイリストとしてのお仕事について教えてください。
レシピ撮影のテーブルコーディネートや、食品や生活雑貨などの広告のスタイリングなどを手掛けています。最近は、自宅でセッティングをしてフォトグラファーとして撮影をすることもあります。フードからインテリアまで住まいや暮らしにかかわるもの全般をスタイリングしていますが、そのなかでも自分が好きで得意なのは、器ですね。いま器の知見をいかして「きほんのうつわ」という食器の商品開発にも携わっています。
―なぜ器に惹かれたのでしょうか?
これだけフードの撮影に関わっているのですが、実はもともと料理好きなタイプではないんです(笑)。でも、良い食器があると自分で作ったものがおいしそうに見えるので、それだけで料理へのモチベーションがあがるんです。組み合わせや並べ方でも見栄えがぐっとよくなるので、器ってすごいなと感じて。食べることももちろん好きなんですが、それよりも食卓の演出、時間や空間をいかに美しくコーディネートするかを考える事が楽しくてどんどんのめりこんでいきました。
―以前は会社員だったんですよね。
20代の頃は自分のことがよくわからず、興味だけで就職しては失敗することが続いて何度も転職していました。一度リセットしようと休養をとっていた時期に、家事をするのが好きだなと気づいたんです。家の手入れをしながら居住空間を充実させるのが楽しいと思えました。若いころはバリキャリに憧れていましたが自分には向いていなかったんですね(笑)。30歳を超えた頃にようやくそのことに気付いたという感じです。
―それが仕事につながったきっかけは何だったんでしょうか?
はじめは趣味でスタイリングをして、せっかくだから写真を撮ろう、写真を撮ったからまとめておこうとSNSやブログに公開していました。それを見た人から「菅野さんこういうことが得意そうだからお願いできる?」と聞かれて。そういう依頼が重なって、次第にギャランティがもらえるようになって…と仕事につながっていきました。若いころは自分の不得意なことを頑張っていたのが、得意なことが仕事になったことで今は無理をせずに仕事ができています。
―仕事をするうえで心掛けていることはなんですか?
私自身、純粋に家で過ごすことが好きなんです。だからこそ、ライフスタイルの提案を通して家で過ごすことの楽しさや魅力を伝えたいという想いは常に持っています。
そのうえで消費者とクライアントの間の立場として、両方の気持ちの橋渡しをしながら、商品をより輝かせることができたらいいなと考えています。クライアントであるメーカーの方は商品に長く向き合っている分、意外と見えていない魅力があったり、こうしたいというイメージがうまく言語化できなかったりする場合が多いんですね。そのために、当たり前のことなんですが、クライアントとのコミュニケーションを大切にして本当にやりたいことを引き出すようにしています。
スタイリストをしているというと「センスがいいんだね」と言われることもありますが、自分ではそうは思っていません。もっとセンスがいい方はたくさんいるはずですが、クライアントの意図をくみ取るという部分で支持をいただいているんじゃないかと感じています。すごくオシャレな写真が撮影できたとしても、企画の意図やイメージと違ってしまうと納得してもらえないですから。
ちょっとした模様替えで気分転換を
―家で仕事をすることも増えたと思いますがそのなかで感じていることを教えてください。
以前はスタジオの撮影も多かったのですが、家でできるなら撮影もお願いしますという依頼も増えてきました。家にずっといるのが辛いという話も聞きますが、私はもともと家が好きなので今のスタイルが合っているなと感じています。この部屋が自分の好きな空間として創ったものだから居心地がいいというのも大きいですね。
―本当に素敵なご自宅ですね。中古マンションをリノベーションするというきっかけはあったのですか?
引っ越すタイミングで家の購入を検討したのですが、新築にはなかなかピンとくる物件がなくて。自分の好きな内装や間取りにできるので、中古マンションを購入してリノベーションにしようと決めました。間取りは大きくは変えていないのですが、壁を取り払って広々としたワンルームに。気に入っているところはたくさんありますが特にこだわったのはヘリンボーンの床ですね。もともと海外のアパルトマンの写真なども見るのが好きで憧れていたんです。壁がほとんどないんですけど、開放感のある間取りにするなかで、黒い格子戸がちょっとした仕切りにも見た目のアクセントにもなるので選びました。
―インテリアのこだわりはありますか?
ピカピカの新品ではなくて味のあるものが好きなのでテーブルも古材のものを使用しています。椅子もヴィンテージで傷があるんですが、誰かが使ってここに来たんだと思うと愛着がわきますし、使用感があることでかえって部屋になじむんです。
全体のコーディネートとしては、例えばスタンド照明はイギリスのヴィンテージですが、ラグはモロッコ風…とテイストをミックスするようにしています。
―それをうまく組み合わせられるのがスタイリストならではと感じます。
私も買ってから失敗したと思うことはありますよ(笑)。でもせっかく買ったんだからと置く場所を変えたりして試しながら部屋を作っています。
―ドラムを棚にしているのも面白いですね。
いまは飾り棚のように使っていますが、以前はソファのサイドテーブル代わりにしていました。こんなふうに変わったものやクセのあるものが好きですね。
―お仕事柄、物が増えそうですが収納のコツはありますか?
まずリノベーションの際に、収納スペースを広くしてもらいました。器はスタッキングすれば結構入るので、どんどん買い足しています。収納のプロみたいなことはできないですが、収納のボックスなどもかわいくしたいと思って木箱を利用したり、キャンドル入れも自分でペイントした缶を使ったりしています。本も撮影用の洋書もあるんですが実際に読む本も並べて、「飾る」と「しまう」をグラデーションにする感じですね。
―家で過ごす時間を快適にする工夫があれば教えてください。
私は気分転換でよく模様替えをするんです。大掛かりなものじゃなくてもテーブルの向きをかえたり、グリーンを増やしたりほんの少しでいいので、自分の空間に何かを足したり引いたり…。同じ場所に座ってずっと同じものばかり目に入ると飽きてしまいますよね。私は頻繁に家具を移動してしまいますが、クッションカバーを季節に合わせて変えるのもおすすめです。小さな変化でも家がちょっと新鮮に見えますよ。
―今後やってみたいことはありますか?
自分がやっている活動が楽しいのでずっと続けていくということがひとつですね。
また器の仕事が増えてきているので、いつか器の本が出せたらいいなと思っています。料理本はたくさんあるけれど、器の本ってあまりないんですよね。プロ仕様だったり豪華すぎたり…もっと日常の器の本があってもいいんじゃないかと思うんです。自分も一読者として、ぜひ読んでみたいなって。
菅野有希子
テーブルコーディネーター/プロップスタイリスト。雑誌や書籍WEBで、食や住といったライフスタイル提案のスタイリングを手掛ける。特に器に関する専門性が高く、現在はその知見をいかして器の商品開発にも携わる。
note: https://note.com/yukiko130
Instagram: @yukiko130
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