水彩絵具で描いたパーツを切り貼りしてイラストを仕上げる印象的な作品で、多くの書籍の装画を飾るイラストレーター・タカヤママキコさん。装画のほか、雑誌の挿絵やテキスタイルなどの分野で活動されています。

タカヤマさんの作品がどのように生み出されているのか、制作中の作品を見せていただきながらお話を伺いました。

漫画家志望からイラストレーターの道へ

――まず、イラストレーターになるまでの経緯を教えてください。

子どもの頃から絵を描くことやものづくりが大好きで、おもちゃも家にあるもので手作りしていました。小学生になるとノートに漫画を描くようになり、クラスのみんなが「面白いね」と言ってくれるのがすごく嬉しくて、漫画家を目指すようになりました。地元・広島の美術系の短大に進学し、漫画を雑誌の公募に出したりもしましたが、まったく結果が出ず。そもそも絵を描くのは好きですが、ストーリー展開を考えるのは苦手で。漫画は向いていないのかなと思っていた頃に、パソコンで絵を描くことにハマって、デザインに興味を持ち始めました。油絵専攻だったのですが、もっと世界を広げたいと思い、多摩美術大学のデザイン学科に編入。そこで「絵を仕事にするならイラストレーターという道がある」と気づいたんです。

――そこからイラストレーターとして、どのようにデビューされたのでしょうか?

ポートフォリオを作って、雑誌の編集部に「イラストを描かせていただけませんか」と電話して売り込みをしました。ある編集部の方が会ってくださってすぐに「お仕事お願いします」と言ってくださったんです。そこからほぼ毎月お仕事をいただけるようになって、他の出版社の仕事へ広がっていきました。
それが10年ほど前ですね。当時は線画の作風でしたが、切り貼りのスタイルに変えたのは5~6年前です。

――画風を変えたきっかけは何ですか?

線画でもお仕事はいただけていたのですが、書籍の表紙となる装画に憧れがあって。でも線画ではなかなか依頼が来なくて…。もっとインパクトのある画面を作りたいと思って、切り貼りのスタイルに挑戦しました。イラスト界隈ではあまり見かけなかったので、照準を合わせて切り貼りにたどり着いた感じです。
もともと工作が好きだったので、切ったり貼ったりする工程がすごく楽しくて。「これは面白いぞ」と思えたのが大きかったですね。

――制作工程について教えてください。

まず水彩絵の具と色鉛筆で描いた下絵をもとに、パーツごとに形をとって切り抜きます。裏にボンドを塗って、画用紙の上に重ねていくことで、微妙な厚みと影が生まれるんです。人物の体の上に腕、さらに小物…と2層、3層に重ねていくことで立体感が出るのが面白くて。さらに各パーツのフチに色鉛筆で影を足して、ザラっとした質感を加えて仕上げています。

――最近は陶芸作品も制作されていますね。

イラストレーター仲間に陶芸体験に誘われて行ったのですが、思うように作れないのが悔しくて。もっと理想の形を作れるようになりたいと思って、陶芸教室に通い始めました。
「絶対この形の花瓶を作るんだ」と決めて、パーツごとに粘土のグラム数を測るなど試行錯誤した末、最近ようやく理想の形に近づけるようになってきました。

――イラストとの違いや面白さはどこでしょうか。

イラストは2次元なので、正面だけを意識すればいいのですが、陶芸は360度どこから見ても形が整っていないといけない。正面は良い感じになっても横から見ると歪んでいるぞ、みたいなこともあって、バランスを取るのが難しいですね。
その分、自分のイラストの世界観がうまく立体で表現できた時の嬉しさはとても大きいです。

装画として想像力を掻き立てる作品に

――作品を作る際に大切されていることを教えてください。

見る人が自分の経験とか気持ちを重ねられるような、余白を残した絵を描きたいなと思っています。だから私が描く人物のイラストって表情がなくて口だけなんです。見る人に自由に想像してもらいたいなって。また、視覚的に引きつけるために、何か強いメッセージを込めるよりは、ちょっと気になるなと感じてもらえるような視点とか、構図にもこだわっています。

というのも装画の仕事をするにあたって、本の表紙の人物が泣いていたら、この本は悲しい話なのかな、 笑っていれば面白い明るい話なのかなと容易に読み取れてしまうのが私はあまり好きじゃなくて。そんな思いもあって、切り絵では表情を描かなくなりました。

――装画への想いが強いんですね。

もともと本を読むのが好きで、読んでいるとシーンが頭の中に画像のように浮かんできます。自分だったらこの表紙をどう描くかなと考えるのが楽しくて。
初めて装画を担当したのは、『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』(真梨幸子著/幻冬舎)という作品でした。装丁を多く手掛けるデザイン事務所「アルビレオ」の方からの依頼でした。通っていたイラスト塾で講師をされていて、課題作品を講評していただいていたのですが、光栄なことに評価してくださって。ほかの装画にかかわるきっかけのお仕事にもなり、すごくありがたかったですね。

――装画を制作するうえで心がけていることはありますか?

その本の持つ世界観やストーリーを説明しすぎず、かといって説明しなさすぎないことです。 また書店に並んだときに、表紙が目を引くかどうかも意識しています。 商品として、書店でより多くの人の目に留まって手に取ってもらわないといけないので、ラフを制作する段階で、複数の案を印刷して並べて、どれが一番目立つだろう、見る人の気を引けるかな、と考えます。

――インスピレーションはどこから得ていますか。

散歩の最中に見た風景や建物、テレビでニュース番組をダラダラ見ている時…本当にそんな日常の中からポコポコとアイデアが浮かんでくるんです。嬉しかったこと、嫌だったこと、ささいな感情から生まれることも多いですね。このアイデアはいいぞと思ったら、メモしておくようにしています。

2023年、三軒茶屋「twililight」にて開催された個展での写真

――先日台湾のイベントに出展されましたが、反応はいかがでしたか。

海外出展は初めてで、違いがあるかなと思っていたのですが、意外と日本と感覚が似ているなと感じました。日本のカルチャーが好きな方が多かったのもあるかもしれません。

台湾のイベントの様子

――今後目標にされていることを教えてください。

台湾での海外出展を経験して、台湾に限らず他の国でも何かイベント出展や、個展ができたらと考えるようになりました。台湾で書店を数件回ったんですけど、本の面構えが日本に似ていて、そこからも 文化や好みが近いことを感じました。旅行の際にアメリカやイギリスの書店へも行きましたが、書籍のイラストのテイストが全然違ったんです。台湾は、かわいいふんわりした雰囲気で日本に通じるものがあったんですけど、欧米では結構パキッとした表装が多くて。それぞれの国で受け入れられるイラストって、きっと大きく違うはずなので、それを現地で体感しながらより広く作品を届けていきたいと思っています。

プロフィール・タカヤママキコさん

イラストレーター 。広島県出身。真梨幸子著『ウバステ』/小学館、赤川次郎著『半分の過去』/徳間書店、村田沙耶香著『生命式』/河出書房新社など、これまでに多数の装画を手掛ける。そのほか、雑誌の挿絵や商品パッケージのイラストなど、多方面で活躍。

撮影協力/ twililight(トワイライライト)

住所:〒154-0004 東京都世田谷区太子堂 4-28-10 鈴木ビル3F・屋上

営業時間:12:00–21:00

定休日:火曜、第1・第3水曜

HP:https://twililight.com/

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