シンプルでいて洗練された、大人の女性が自然体で楽しめるファッションを提案し続けているスタイリストの佐藤佳菜子さん。幼少期から今に至るまで「ファッションが趣味」と話す佐藤さんに、スタイリストとしてのこれまでとこれからについて伺いました。
自分自身にとってスタイリストは天職
――スタイリストを目指したきっかけは何だったのでしょうか。
まだ大学生の頃、CanCam編集部でアルバイトをしている友人がたくさんいたんです。まだまだアナログな時代なので、写真のネガを切るとか今では考えられない細かな作業がたくさんありました。そこで私もアルバイトを始めたら、編集長から「スタイリストが向いていそう」と、アシスタント先を紹介していただくことになりました。なぜ編集長がそう思ってくださったのか、今もハッキリとはわかりません。ちょうど大学を卒業するくらいのタイミングだったので、そのまま流れに乗ってスタイリストの世界に飛び込みました。
2年弱アシスタントを経験し、CanCamの編集部に雇ってもらうことになりました。
ただ、独り立ちした後も「傘はどこに借りに行くんだろう」というくらい未熟でしたね(笑)。

――実際にお仕事を始めて、自分でも合っていると感じましたか?
スタイリストになってから今まで、ずっと天職だと感じています。
洋服にしか熱中したことがなくて、推しがいるわけでもなく、他に得意なこともないんです。
小さい頃から着せ替え遊びなんかも大好きで。特に、若い頃はその遊びの続きのような、楽しい気持ちが大きかったですね。
自分の好きなことと得意なことが一致して、さらにそれが仕事になっている私は、最高に幸せです。
――スタイリストとして、大切にされていることは何ですか?
雑誌の読者やタレントのファンの方…必ず洋服の先にはお客様がいます。そのお客様を置いてきぼりにしないことです。
私たちスタイリストは新しいファッションを次々と目にします。一般の方の何倍ものスピードで、何倍もの量の服を見る機会があるので、気を付けないといつものファッションに飽きてしまいます。
でも、私が見慣れているスタイルも、お客様は飽きていないんですよ。好きなコーディネートのランキングを見れば、今もベーシックなTシャツにデニムがランキングに入ってきます。
私のお客様は、普通に働いている普通の女性なんです。私自身も、モードの世界には興味がないですし、普通の人が必要としているスタイルからずれないようにしていますね。

――お仕事されている中で印象に残っている出来事はありますか?
長く続けているからこそスタイリストという仕事を通して、思いがけないことが起こります。最初は雑誌でスタートしましたが、雑誌のモデルがテレビのタレントになって、テレビ業界やドラマにもかかわるようになりました。服を借りていたブランドの方から、ブランドの広告の依頼をいただいたことも。さらに、ショップを始めるなんて思ってもいなかったので、どんどん一つの形ではなくなってきたなと思っています。

手先の器用さをいかせる雑用が一番好き
――いまお話に出ましたがオンラインショップ「boutique 310」を運営されています。ショップを始めたきっかけは何ですか?
自分がすごく気に入ったバッグがあって、そのバッグとコラボレーションをしたい気持ちがあったのですが、一人で在庫を抱えきれるのかな、ともじもじしていたんです。
試しに最小ロット(生産数)はどのくらいですかって聞いたら、自分で買い取って、手売りしても大丈夫と思える量だったんですよ。
DMで1件ずつ注文を受けるわけにもいかないので、オンラインショップがあった方がいいなと思って、その1個の商品だけでスタートしました。普通なら、コレクションを作ってお店をオープンします!と、大々的に始めるのが一般的なやり方だと思うんですけど、私は何も告知もせず、SNSで気づいた方にだけ知ってもらえたら…という感じでした。
これまで一度も、お披露目のようなことをしたことがないんです。それでも、人気の商品は何度も再販して、種類も徐々に増えていきました。

――運営する上での楽しさはどこにありますか。
皆さんが私を見るとき、そう思わないでしょうけど、私は根暗で手先が器用なんです(笑)。例えばグレープルーツがあったら、皮を丁寧にひと房ずつ、綺麗になるまで剥き続けるような作業が一番好きなんです。
だから物を片付けるとか、整理整頓して綺麗に保管するとか、雑用が得意で。オンラインショップにはそういう作業がいっぱいあるので、私にはぴったりですね。今でも梱包や発送は自分でやっています。
最近は発送作業をしながら、インスタライブをして、買ってくれたお客様とのコミュニケーションができるのも楽しいですね。

――ほかに、多くのブランドとのコラボ商品も手がけられています。ものづくりで大事にされていることはありますか?
ブランドとのコラボレーションは特に、頭を使うところです。ブランドはそれぞれ自分たちのコレクションはフルでそろっている状態で、そのうえで売れるアイテムを作りたいから、私に依頼をしてくださっていると思うんです。
そんななかで、奇抜すぎるものを作ると手に取っていただけない。かといってベーシックなアイテムはすでに販売されています。
たくさんの人が好いてくれて、かつ個性の光るアイテムを心がけると、アイデアが勝負でいつも隙間産業的になるんです。
そのためにブランドのこともしっかり知って、ブランドのファンの方のことも、もちろんわかり得ないですけど想像しながら、アイデアが生まれるまでは何を作ればいいかを考え続けていますね。

左から シャツ¥36,300/boutique310(THE ME) カーディガン¥30,800、タンクトップ¥23,100/BEAMS(スタイリスト佐藤佳菜子 × SLOANE × Demi-Luxe BEAMS)
――感覚やセンスでつくるものづくりとは違いますね。
スタイリストという立場に、皆さんが何を期待しているかはわからないですけど、昔から、ただ「センスがいい」というだけで評価されているわけじゃない気がしています。センスが良いなら自分でブランドを持つはずなんですね。
それよりも、コーディネートを組んだものが何百枚売れたとか、好きなコーディネートのランキングに入ったとか、結局、評価の対象って数字だったと思うんですよ。
だから、売り上げという点は冷静に見つつ、もちろんこれまで自分が欲しいと思うものを作り上げてきました。
難しさもありますが、とても楽しい作業ですね。
趣味がファッション、だからずっと見続けられる
――新しいものを取り入れるときにヒントにされているものは何ですか。
今も昔も時間があれば、ショップを見て回ります。買い物しながら散々洋服を見て、帰ってきて家で海外のオンラインショップを見て…。
そうして買った洋服は芸の肥やしというか。やっぱり自分で着てみないと想像だけじゃどうにもわからないんですよ。例えば、同じ白いTシャツだけでもいっぱい持っていて、これはここがいいけどここは良くないとか…ちょっとオタク体質なんでしょうね。
好奇心があって、着たらどうなるか、どんな感じに見えるのかなとか、どう違うのかなとか、もっと綺麗なのがあるかなと、止まらないんです。
そう聞くと、ストイックに感じられるかもしれませんが、例えばK-POPファンの方が、好きなアイドルの動画を見続けるのは努力ではなくて、次々見たくなるからですよね。それと同じ感覚で、本当に洋服が好きなんです。

――仕事を楽しまれていますが、それ以外での息抜きの方法はありますか。
プライベートだとすごいポンコツなんですよ(笑)。趣味が仕事なので、たまに一人旅とかをしても、行った先でやりたいことを見つけられずに終わってしまうんです。
犬を飼い始めてからは、家に疲れて帰ってきたらもふもふした犬たちに癒されて、それが一番の息抜きですね。
――これからの夢や展望があったら教えてください。
今は、身の丈に合った範囲で犬と暮らしていますが、欲を言えばもう少し多くの保護犬を家に迎え入れたいと思っています。
仕事の面では、ビッグドリームはないけれど、本当に死ぬ間際まで働いていたいです。
だから、人様に迷惑をかけないように、健康には気をつけています。昔は徹夜もしながらめちゃくちゃ働いたんですけど、なるべく規則正しい中でできる限りの仕事をしていきたいですね。
短いのか長いのかまだ分かりませんが、あと20年くらいは働いていけたらいいなと思っています。

佐藤 佳菜子さん
慶應義塾大学卒業後、2007年にスタイリストとして独立。『BAILA』や『Oggi』などのファッション誌をはじめ、ブランドのウェブサイトのスタイリングやコラボ商品の開発など多方面で活動中。近年、オンラインショップboutique310をオープン。
オンラインショップhttps://boutique310.net/
Instagram: @kanakosato__
※掲載した商品情報は2025年6月取材時点のもの










