大学卒業後すぐにウエディング業界へ。⽇本初のオートクチュールブランドの買い付けやオリジナル着物の製作などの経験を経て、2023年に独立後、クリエイティブディレクターとしてウエディングのみならず、幅広く活躍の場を広げてきた飯島智子さん。2025年3月にオープンした、八芳園専用の衣裳室ブランド「The Bridal Boutique KOTOHOGI by HAPPO-EN」(以下、KOTOHOGI)のプロデュースも手がけられました。

飯島さんに、「KOTOHOGI」に込められた想いを中心に、ドレスや着物のクリエイティブについても伺いました。

着物の魅力がウエディング衣裳への興味の原点

――ウエディング業界に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

祖母が趣味で着物をたくさん持っていて、母も日本舞踊を習っていたので、小さなころから着物が身近にありました。そこから興味が広がり、オスカー デ ラ レンタやヴェラ・ウォンなど、ニューヨークのセレブやファーストレディーが着ているようなラグジュアリーファッションに惹かれていったんです。 日本でそういったものに触れられる機会があるのが、ウエディング業界でした。もちろん一生に一度の特別な日のお手伝いができることに喜びを感じていますが、初めは特別感のある衣裳に触れられるところに魅力を感じて衣裳室に入ったんです。

――そこから、ウエディング業界で長くお仕事してきた中で特に印象に残っていることは何ですか?

ウエディングドレスって、ファッション業界からすると「ウエディングはウエディングでしょう」 と線を引かれてしまう現状にずっと違和感がありました。ウエディングだってトレンドも革新もあるのに…と。そう思っていた時に、トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)のクリエイティブディレクター小泉智貴さんとコラボレーションをさせていただくことになりました。「ウエディングとファッションの境界線を越える」をスローガンに、素晴らしいクリエーションができました。

その際、光栄なことに海外の雑誌に取材していただいたんですけど、ドレスがユニークで素晴らしいと称賛すると同時に「日本の花嫁ってみんな着物を着るんでしょう? こんなドレスを求める花嫁が着る着物ってどんな素晴らしいものなの?」と質問されて、何も言葉が出なくなっちゃって。海外の方からすれば、日本人なら着物と考えるのが当然ですよね。でも現状、着物を着ない人も多く、着てもレンタルの安い着物で写真を撮れば満足という場合が大半です。日本人として、私はウエディング業界で何を求めてきたんだろうとハッとさせられました。

そこから、改めて着物の世界を知っていくと継承者が不足していて、文献があっても技術を持っている人がいないということも目の当たりにしました。家にある着物がいかに尊いものなのかと気づいて。それが着物や日本文化を見直す大きな転換期となりました。

衣裳だけではなく、空間に日本の美意識を凝縮

――「KOTOHOGI」はどのような空間ですか。

一言で表すと「日本の美意識が凝縮された空間」です。衣裳はもちろんのこと、空間そのものからも日本の魅力を感じていただけるように、壁は八芳園のお庭の土で染めた和紙でできているんです。それを知ると、和紙を染める技術ってどんなものなんだろうと話や興味が広がっていきますよね。至るところに、日本のものづくり、作り手のルーツを感じられるものが集まっている場所にしたいと思っています。

アクセサリーも和の世界観に合うオリエンタルな雰囲気のものをセレクト

――衣裳を手がけるうえで特に意識されていることはありますか?

一生に一日しか着ない衣裳ですので、必然的に特別感そして唯一無二ということが求められます。その価値をどう“見える化”するかを常に意識しています。 わかりやすいのはデザインですが、それはあくまで表現の方法だと私は思っているので、デザインの意図やどんなプロセスで作ってきたかという部分に意味を持たせるのが重要だと考えています。

――「KOTOHOGI」の衣裳の特徴を教えてください。

前職の時には、基本的に海外で作られたインポートブランドのドレスをセレクトすることがメインでした。「KOTOHOGI」のオープンにあたって、400年続く日本庭園を所有する八芳園が、今この時代にあえて衣裳室をオープンする意義をひも解く中で見えてきたこととしては、輸入するだけではなくて、日本で作っていくということでした。そのうえで、世界から見ても魅力に思っていただけるものを作りたいと、およそ8割の商品をオリジナルで作らせていただきました。 

着物はコンセプトをもとに図案を描いていただいて、糸を選んで、その糸を染めてもらうという手順から作りました。京都で活躍されている80代、90代のベテラン職人のみなさんに、ぜひイチからお力添えをいただけないかと、お声がけしたんです。 みなさん「いいよ」と快諾してくださって。それも、一世一代のモチベーションで本来は2年ほどかかるプロジェクトを、超特急で、1年で作り上げてくださったんです。ウエディングの衣裳室では、すごく珍しいことではないかと思います。

――ドレスはどのように作り上げたのでしょうか。

デザインイメージのデッサンを元に、それに合う生地を選んでドレスを形作っていくのが一般的かと思います。私の場合は逆で、「和の世界の中で表現する洋の世界」を軸に据えて、この世界観に合う生地をまず探したんです。バイヤーとして 世界中のドレスを見てきた経験からここにふさわしいドレスを考えると、デザイナーではない私にとっては、それが自然な流れでした。

着物に近いオーガンジーの生地や、お花のモチーフでも和のエッセンスを感じる桜のレース素材などを集めて、その生地を生かしたドレスはどのようなものか…と発想をしていきました。少し変わった方法だったかもしれませんが、和の世界になじむドレスができたと実感しています。

左側2点がインポート、右側の2点が生地を選びデザインを作り出したオリジナルドレス

新たなプロセスで、新たな出会いがあるのが喜び

――オープンから2か月ほど経ちました。今、感じられていることを教えてください。

この衣裳室ができる前から八芳園で挙式をされてきた方々が求めるドレスや着物はもちろん勉強させていただきながら、心を尽くしてオープンの準備をしてきました。とはいっても、八芳園の描く新しい未来というテーマもありきで「KOTOHOGI」を作った時に、これまでの八芳園をご存じの方々が、本当に共感して愛してくださるのかというのは、すごく不安なところだったんですね。でも、訪れたお客様がこの世界観にまず共鳴してくださって、そうしたら自然と商品のロジックをご理解くださるという、その流れを目の当たりにできたんです。やったー!というよりも、ああ、よかったと、今すごくほっと安心しているのが正直な気持ちですね。

――お仕事のやりがいはどこに感じていらっしゃいますか。

言葉でもビジュアルでも、何事も形にしていくっていうことが私の仕事なので、その形ができた時は感動しますし、またそれをお客様や仲間と共有できるのが幸福なことだなと感じています。でも、意外と結果よりもプロセスの方が私は好きで。何かができあがったら、じゃあ次のプロセスを見つけようとまた一歩踏み出している感じがするんです。そのプロセスにおいて、まだ出会ったことない方々とご一緒できるというのが、クリエイティブディレクターとしての幸せです。

――すでに多くのことに取り組まれていますが、今後の展望を教えてください。

「ウエディング業界」という概念にとらわれずに、日本の美意識×ウエディングの掛け算にどんどん挑戦したいと考えています。
織物や和紙、器やお香や、文化など、これまでウエディング業界と縁がないとされてきた分野のクリエイターの方々と、新しい価値を生み出す挑戦をしていきたいですね。

飯島智子さん

早稲⽥⼤学を卒業後、(株)トリートに新卒⼊社。 THE TREAT DRESSINGにてドレスコーディネータを経験し、2019年に同社クリエイティブディレクターに就任。 ⽇本初のオートクチュールブランドの買い付けやオリジナル着物の製作、ファッションデザイナーとのコラボレーションコレクションを発表。また、新店舗の空間ディレクションやブランドビジュアル撮影のディレクションを⾏うなど、世界観をカタチにする業務に携わる。2023年、独⽴。クリエイティブディレクターの経験を活かし、完全オーダーメイドのウエディングシーン・フォトウエディングシーンの創造をスタート。 その他、ビジュアル撮影やイベントの空間コーディネート、事業コンセプトの提案など、ウエディングの分野にとどまらず、ブランディングディレクションを⾏う。

Instagram:@miss_tomoko

The Bridal Boutique KOTOHOGI by HAPPO-EN

住所:東京都港区白金台 4-9-19HAPPO-EN URBAN SQUARE 1・2F

時間:平日10:30〜20:30、土日祝9:30〜19:30

TEL:03-5422-7231 (平日10:30〜19:00、土日祝9:30〜19:00)

定休日:火曜日

HP:https://happo-en.com/wedding/costume/kotohogi/

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