生活様式が大きく変化するなか、住居や職場の在り方もこれまでとは変わってきています。自分が暮らす場所、また働く場所について改めて見つめなおすことが増えた今、様々な分野で活躍する方に生活スタイルと結びつきの深い空間について今感じていることをお伺いしていきます。
イベントを通じてチャリティ活動を行うW Style(ダブルスタイル)主宰で、家具会社アルフレックスジャパンの社長夫人でもある保科和賀子さんは、昨年から東京のマンションと、河口湖のアルフレックスの施設からほど近い集合住宅との二拠点生活をスタートさせたそう。陶器を扱う家に生まれ工芸品やインテリアにも造詣の深い保科さんに、東京のご自宅でお話を伺いました。
自宅で始めた活動が大きな輪に広がった
―主宰されているW Styleの活動について教えてください。
家族で約3年間暮らしていたイギリスではチャリティ活動が文化として根付いていました。2007年に帰国したときに、自分も誰かの助けになることができないかと考えたのがW Styleの始まりです。最初は各国のママの家庭料理のクッキングクラスの後、ダイニングで試食をしながら食器や家具についての相談を受けるカルチャー教室のようなものを開催していたんです。その流れで、年に一度クリスマス前の時期に集まりの多いフェスティブシーズンに使える器や調味料などを集めたマーケットを開いて売り上げの一部を寄付する活動を続けていました。そんなときに東日本大震災・津波が起きて私自身も大きなショックを受けました。まだ子どもが小さかったこともあってすぐにはボランティアに行けなかったのですが、自分にもできることがあるはずだと考えた末に、マーケットの活動を被災者への支援に特化したものにしようと決めました。
そこで、お友だちに声をかけ、それぞれの得意分野をいかした商品を持ち寄ったマーケットを開き、売り上げからチャリティ分を封筒に入れてもらって、集まったお金を寄付する活動を始めたんです。
寄付先も最初は手探りでしたが、津波で親をなくした子どもたちをどうにか助けられないかと思い、子どもたちの心のケアをしている「セーブ・ザ・チルドレン」や進学できない子どもたちをサポートする「あしなが育英会」などに託していくという形がだんだんと出来上がってきました。
うれしいご縁がどんどん広がって、自宅ではお客様が入りきらなくなってしまったので、広尾のギャラリーをお借りしていましたが、それでも入りきらないほどの方が詰めかけてくださるようになり、夫からの提案で「アルフレックス東京」で開催するようになりました。
専業主婦になり社会との繋がりが薄れていた中、この活動を始めたことで世代を越えた出会いがあるのが私自身とても楽しいですし、わずかでも誰かを支え助けることができていることが喜びです。今はコロナ禍で人が集まるのが難しい状況なので、どのように続けていくのがいいのかは模索しているところですね。
―いま河口湖でも暮らしているそうですが、そのきっかけを教えてください。
昨年から主人の会社でもテレワークを推進して家で仕事をするようになり、海外で勉強していた子どもたちもみんな帰ってきたんですね。夫と私と3人の息子たちで暮らすとなると、東京のマンションでは窮屈さを感じることもありました。そんな時にアルフレックスの「カーサミア河口湖」という施設の近くの、同じく30年以上前にアルフレックスが開発した集合住宅が1軒売りに出ているのを見つけ、ご縁に感じ、購入することにしたんです。
カーサミア河口湖はショールームとモデルハウス3棟がある施設で義父が1987年に造ったものです。その近くに当時建売された16棟のテラスハウスの1棟が我が家なのですが、敷地内にテニスコートがあって北イタリアの田舎街のような雰囲気。建築素材もテラコッタやイタリアの漆喰などが使われていてアルフレックスのフィロソフィが詰まったような建物です。古いですし、いろいろ不便ではあるけれど、少しずつ直しながら暮らすのも楽しいんじゃないかと思って試行錯誤しながら二拠点生活を始めました。
河口湖でのインスピレーションが東京でいきる
―実際に二拠点での生活をしているなかで感じることを教えてください。
私は東京生まれ東京育ちなので、すごく東京が恋しくなると思っていました。それが、暮らしてみると河口湖って本当にいいんですよ。空気が違って朝すっきり目が覚めるし、ちょっと歩くと富士山が目の前に見えて、散歩をするだけでも癒されます。
便利な場所で暮らしていると冷蔵庫代わりにスーパーを使ってしまいますが、河口湖の家の近くにはお店があまりないので、行くときは計画的に食材を買って、あるもので工夫して料理をするのも楽しいです。今まで自分が決め付けていたことがそうじゃなくても良いんだと思えて、より考え方が自由になった気がします。また、河口湖で得たインスピレーションを東京での生活で生かすという良い連鎖が起きることにも気づき始めました。
東京に戻るとたくさんの友人がいますし、スピード感を持って仕事を進められるのはやはり東京の凄いところですね。少しずつ美術館も開いてきてアートに触れる機会も増え、文化的な刺激の場がたくさんあるのは改めて実感しています。二拠点生活を通してよりメリハリのある生活ができていますね。
―それぞれのご自宅でのインテリアのこだわりはありますか?
河口湖は30年以上前に建築が出来上がっているので、インテリアもその当時からあるものがしっくりくるんです。これは、本当に偶然なんですけど、結婚したときに初めて使ったダイニングテーブルと同じものがぴったりで、合わせて選んだ照明も、新婚当時と同じ組み合わせだったんですよ。なんだか不思議ですよね。
アートに関してもモダンすぎず、ほっとするような素朴さのある作品の方が、大自然のなかでは合うみたいです。私ももちろんスッピンで(笑)、いつでも走れるような服装ですし、素材をいかしたありのままのものがなじみます。
東京の自宅は、家具屋としての実験の場のような意味もあって頻繁にインテリアが変わるんですよ。新しい商品を使ってみよう、ということも多いですね。今は対面でもいい距離感を保ちながら安心できる空間づくりを試しています。私自身も実家が器店で食卓にいろいろな器が並んでいたので、そこは理解できますね。
ただ、やはりくつろげる場所にはしたいので、コミュニケーションをとりやすい家というのは考えています。また大好きなアートを置くようにしています。
―確かにたくさんのアートを飾っていらっしゃいますね。アートと暮らす魅力はどんなところですか?
アートは自分を肯定してくれ、励ましてくれるものだと思います。特にお家の中にあるものは優しかったりあたたかかったり、おいしそうだったり…元気をくれそうな作品を選んでいます。山梨では外の自然からそういったパワーをもらえるから、東京の家の方がアートを多く置きたくなるのかもしれませんね。
家族のコミュニケーションツールになることもあって、きっとこの作品はこんな想いで作ったんじゃないかと想像して話し合ったりします。くだらないことでも家族の新たな一面が見られるのはとっても楽しいですね。
―いま、おうちで過ごす時間が増えている方が多くいらっしゃいますが、保科さんが家で快適に過ごすコツがあれば教えてください。
自分も含めて常にどこか緊張している時代に入ってしまいました。そんな中でも、ほんの少しの時間で良いから自分を可愛がる時間を持つことを意識したらいいんじゃないかと思います。呼吸を深める、ヨガのポーズをする、お気に入りの場所に座ってお茶を飲む、映画を観る、キャンドルの炎を見つめるなど、なんでもいいから1日に1回自分のことだけを考える時間を作るんです。そうやって気持ちを切り変えるスイッチみたいなものを持っていると、いろんなことの見え方が変わってくる場合もあるのかなと思います。
―今後、やってみたいことなどがあれば教えてください。
まずは、1日でも早くコロナによるこの状況が収束することを祈っています。落ち着いたときに、少しずつでも誰かのためになることで自分ができること…それはチャリティマーケットだと思っているんですけど、再開したいと思っています。
また、2拠点で暮らすことで得た考えや想いをきちんと伝えていきたいと思い始めました。まだ、どのように発信するのがいいのか、何も見えてはいないのですが、こういう暮らし方があるというのは選択肢の一つとして誰かに届くような気がするので形にしていきたいですね。
保科和賀子
アルフレックスジャパン社長夫人。東日本大震災への息の長い支援としてチャリティマーケットを続けるW styleの主宰を務める。W styleには意志(Will)を同じくする仲間と力を合わせることで楽しさもダブルになるという想いが込められている。