今年20周年を迎え、ファッションの枠を超えてさらに活動の幅を広げている『mintdesigns』。その『mintdesigns』のデザイナー八木奈央さん・勝井北斗さんにそのデザインのインスピレーションの源泉や、おふたりの今までとこれからの活動について、さまざまな想いを伺いました。




mintdesigns

八木奈央さん 勝井北斗さん

日常生活の時間を豊かにするデザインをブランドコンセプトに、衣服を一種のプロダクトデザインとして解釈し、「流行」と同義ではない「ファッション」の可能性を提案。 また、衣服だけでなく身の回りの道具や空間も含め、国籍、性別、体型や年齢を超えたデザインを目指す。 ブランド名である” mintdesigns ”の” mint ”にはハーブのミントが表すフレッシュなイメージの他に、「真新しい」、「希少価値のある」という意味があります。



ファッションをひとつのプロダクトとしてデザイン


――おふたりはロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズの同級生だったところから出会ったんですね。


八木さん:彼がプリントテキスタイル、私が造形的なデザインを学んでいました。


勝井さん:お互いに使えるファシリティが違うので、僕が造形的なことをしたいなと思ったら、相談したり、彼女のほうがテキスタイルを作りたいというときは、こっそり僕のところにきたり。そうしているうちに、一緒にコンペに出品するようになりました。


八木さん:それぞれの得意分野をいかしてコラボレーションという感じで一緒に制作をしていました。好きなものは違うけど、嫌いなものが一緒で(笑)。これは絶対ないよね、というラインが一緒だったんです。それで作品作りを続けられたのかなと思います。




――ファッションブランド『mintdesigns』はどのように生まれたのでしょうか。


八木さん:先に帰国した勝井から、ブランドを立ち上げたいという話がありました。私は、一時は就職も考えましたが、いつか自分のブランドを持ちたいという想いがあったので、それなら一緒にスタートしたほうがいいかな、と思いました。日本では、当時モードなブランドがたくさんあったのですが、私たちはデザインに特化したブランドを作りたかったんです。ファッションをひとつのプロダクトとしてデザインしていくというコンセプトで『mintdesigns』を立ち上げました。




勝井さん:ライフスタイルのなかの衣服という感覚で活動ができないか、というのがスタートでした。


八木さん:実際に作っている洋服はレディースが多いですし、着られる年代もある程度は限られているのですが、ブランドとしては3歳~100歳まで楽しめるものでありたいと思っています。子どもも、お母さんがきれいな服を着ていると嬉しいですし、誰かが着ているのを見ているだけでも楽しい服を目指しています。


勝井さん:年代や体型などあらゆる垣根を越えて、自分たちが得意とするテキスタイルをいかして、何かを作っていきたいという想いは当初から変わりません。




実験的な試みでもある「Wrapping Project」


――「Wrapping Project」では、インテリアも発表されていますが、それでは初期からファッション以外のものも手掛けたいという想いがあったのですか。


勝井さん:ブランド立ち上げ当初はミッドセンチュリーなどの家具のブームの時期でもありました。でもその頃ってインテリアショップには家具しかなくて。つい最近ですよね、インテリアショップに洋服がおいてあったり、逆に洋服店に家具がおいてあったり。そういうふうにライフスタイルとファッションがクロスオーバーするようになってきたんです。それを僕は立ち上げ時から考えていたので、ようやくそういった時代になったのかなと感じています。




――「Wrapping Project」はどういったコンセプトで制作されているのでしょうか。


八木さん:オリジナルでテキスタイル柄を作っているので、それを活用して「衣食住」をラッピングするというのがコンセプトです。「食」では過去に商品パッケージや和菓子をデザインしたこともありました。なので今回は、「住」の部分で家具を自分たちのテキスタイルでデザインしようと。




勝井さん:そこで取り組んだのが、廃校になった学校の椅子をくるんで違った見た目にデザインしようというものでした。アップサイクルという意味合いもありますし、公園のベンチとか教会の椅子とか、世界のどこでも大体のかたちが決まっているものをくるむと新しい見え方になるのではないかなと思ったんです。


八木さん:ものすごく工業的なデザインのモノ、たとえばワイヤーハンガーやビーカーには、彩りはないんですね。個性のないモノに色を添えると、個性が生まれるんです。


勝井さん:まだ始めたばかりで、実験的な部分もあります。こうやってみたらどうなるんだろう、というひらめきは、いつも大事にしています。たとえばミントデザインズのボタンは紙のボタンなんです。本来ボタンはプラスチックや貝の素材ですが、学生のときに段ボールをくりぬいて、これがボタンにならないかなと話していたんです。調べたらパルプで硬くて丈夫な「バルカナイズドファイバー」という素材があって、ボタンとして使えることがわかったんです。気づけば20年、このブランドを代表するものとなっています。「Wrapping Project」も、そんなふうに半分遊び感覚で。もちろんこれからはこのままではなくて変化していくと思います。




八木さん:最初はプロダクションのラインにのるかとかいうのは置いておいて、まず自分たちが面白いと思えるか、ハッとする部分があるかどうかというところがきっかけで始まることは多いですね。ただ、遊びだけで終わってしまったこともたくさんありますよ(笑)。




――ファッションブランドを手掛けるお2人だからこそ、モノに服を着せるようなプロジェクトが生まれたのでは、とも感じました。


勝井さん:季節で変えても良いですし、服を着替えるように家具を着替えるという提案でもあります。その発想でいくと、1枚布でカバーをするだけでもいいんですよね。


八木さん:海外だと椅子を張り替えることも多いのですが、日本だとなかなかそうはいかなくて無難なものを選びがちですよね。ライフステージやちょっとした気分で、インテリアの彩を変えるのは良い事だと思うので、そういった提案をしていきたいですね。




楽しいと思うことをブレずに、これからも

――ブランドを20年続けられた理由はどこにあると思いますか?


八木さん:20年やっているともちろん苦しい時期もあるんですけど、基本は楽しいと思うことを柱に、そこをずらさずにやってきたということですね。また、本当に着てほしいお客様に着ていただいている事で続けてこられたのかな、と。


勝井さん:生活でふとしたときに、自分たちがデザインしたものが使われているのを見かけるとやりがいを感じますね。




――おふたりはどのように役割分担されているのですか?


八木さん:勝井はグラフィックが得意なので、柄のデザインを進めていって私が立体のものを作ることが多いですね。完全に切り離してしまうと、まとまりがなくなるので、コンセプト出しからコーディネートまで基本的には一緒にやっていて、作業を分けるという感じです。


――そうして作業を進めるなかでぶつかったりしたことはないのでしょうか。


勝井さん:しょっちゅうです(笑)。


八木さん:ぶつかる前提でやっているので(笑)。でも、長くやればやるほど、部下が増えて、きちんとダメだししてもらえる機会は減るので、はっきりと意見を言ってもらえると嫌な気持ちにはならないですね。何を聞いても「いいよ」って言われるよりは、ありがたいです。


――作品のインスピレーションはどういったところから受けていますか?


勝井さん:散歩が好きなので、2人で話しながら散歩するだけで発見があることもありますね。


八木さん:異業種の方の展示を見に行くことも刺激になります。とくに建築家の方と話すと、ファッションとは全く違っていて。作ったものが残る年月、サイズ感、何もかも視点が違って面白いです。


勝井さん:同じものをテーマに作品を作ったことがあったんですけど、建築家の方が作ったものは、まず根本的な考え方が違うんです。建築は重力に逆らって建っているけれど、布は落ちるものなので。


八木さん:重力を利用してドレープなどを作るのが私たちの仕事なんですよね。よく「落ち感」という言葉を使うのですが、そういうと建築家の方は聞いたことのない言葉で驚きますね。建築物は落ちてしまうと大変ですから。


――すでに幅広く活動されていますが、今後の展望、チャレンジしたい事はありますか?


八木さん:これまでも異業種とのコラボレーションはしてきましたが、積極的に広げていきたいという想いがあります。大きな夢で言うと公共物をデザインしたいですね。電車のシートとか、空港の一部とか…。洋服は購入していただいて楽しむものですが、公共物は誰でも目に触れることができますから。


勝井さん:公共物って、いろんなものがありますからね。ベンチなどもそうですし、例えば床のタイルでもいい。多くの人に、『mintdesigns』のデザインを楽しんでいただきたいです。






ミントデザインズ青山店

住所:東京都渋谷区神宮前5-49-5

TEL:03-6427-9906

営業時間: 11:00~20:00

定休日:不定休

HP:https://mint-designs.com/

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