2020 年 12 月、群馬県前橋市に6年半近くの時を掛けて開業した「白井屋ホテル」が話題を呼んでいます。ホテルの創業者は前橋市出身であり、静かになった故郷を再び活性化させたいとの思いから、ホテルが様々な文化・アート・交流の場となることを望み「街のリビングルーム」として造り上げました。旧白井屋を大胆にリノベーションしたヘリテージタワーと、旧河川(馬場川)の土手をイメージして新築されたグリーンタワーの2棟が並んでいます。
昨年の開業に続き、今現在、最も話題となっているのは、ホテル施設として新たに2021年9月17日、敷地内にブルーボトルコーヒーの新店「ブルーボトルコーヒー 白井屋カフェ」がオープンしたことです。カフェは、白井屋ホテルの敷地にある2棟のホテルの内、ヘリテージタワーにある緑の小山のような部分の路面店です。すぐ前を馬場川が流れ、遊歩道もあることからのんびりとベンチに座り過ごすには最高の気分です。
そしてもうひとつ、11月初旬にオープンする予定の「白井屋ザ・ベーカリー」も待たれています。バゲットから菓子パンまで、さまざまなパンを店舗内の窯で焼いて毎日新鮮なパンを食べていただけるお洒落な街のパン屋を目指しているといいます。そうなると、馬場川沿いには先にオープンしていた「白井屋ザ・パティスリー」を含め3店舗が並ぶこととなり、人の往来も期待ができるようになればと、ホテルオーナーはあくまでも街の人々との繋がりについて期待をかけています。
とはいえ、「白井屋ホテル」はアートデスティネーションとして、多様な分野のクリエイターの方々の作品を見る楽しみもあります。300 年以上の歴史ある旅館に新たな息吹を与えた建築家の藤本壮介による建物、国内外のアーティストによる作品の数々、地元の食材を活かしたミシュラン2つ星シェフ監修の食事、個性派のフィンランド式サウナ、茶室もあるなど、様々に地域に広く開かれています。
また、このホテルでは米国の有名インテリア雑誌 AD(Architectural Digest / アーキテクチュラル・ダイジェスト)より、「2021 AD Great Design Hotel Award」も受賞しています。
具体的には、ホテル館内に足を踏み入れると見えるロビーやレストランのあるヘリテージタワーの、4層の吹き抜けを飾るレアンドロ・エルリッヒによるインスタレーション《Lighting Pipes(ライティング・パイプ)》は、光が美しく見える夜間に一段とひきたちます。特筆すべきは、2つと同じ客室のデザインが無いこと、そして、クリエイターたちの手掛けた4つのスペシャルルームが揃っていることです。ジャスパー・モリソン、ミケーレ・デ・ルッキ、レアンドロ・エルリッヒ、藤本壮介の4名がそれぞれ4部屋の内装設計を担当しています。そのほかの客室にも群馬を拠点に活躍する作家や、国内外で活動するアーティストの作品が展示され、アート好きには、どの部屋の泊まってもエキサイティングな個性が感じられるでしょう。
食事も独自の料理がなかなかの評判を得ています。ディナーは、若いシェフである片山ひろの鋭い感性と繊細な技が楽しめる「上州キュイジーヌ」です。その料理は、ミシュラン2ツ星の東京青山「フロリレージュ」のオーナーシェフ川手寛康が監修をしているイノベーティブな数々であり、‘上州’料理の食材には地元産の新鮮食材が主に使われています。前橋の歴史を継承しながら、近未来的なアートを感じる新たなデスティネーションホテルとして、地元から世界へと発信し始めているのです。
取材・文/せきねきょうこ
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。
DATA
白井屋ホテル / SHIROIYA HOTEL
群馬県前橋市本町2-2-15
📞 027-231-4618
https://www.shiroiya.com/