都心でショッピングや街歩きを楽しみながら、世界レベルのアートを間近に見ることができたら・・・。そんな思いをかなえてくれる新しい美術館がある。

東京スクエアガーデンや京橋エドグランなどが誕生し、日本橋駅、東京駅にも近く、訪れる場所としての魅力をますます高める京橋界隈。この街にブリヂストン美術館が開館したのは、70年近くも前の1952年のこと。その2年前に初渡米を果たした創設者の石橋正二郎が、都心にあって気軽に立ち寄れる ニューヨーク近代美術館(MOMA) の存在に感銘を受け、自らのコレクションを一般公開することを決意。開館に至ったという。

以来、長く東京都心のアートスポットとして親しまれてきたこのブリヂストン美術館を前身に、2020年1月新たにオープンしたのがここ「アーティゾン美術館」だ。

アーティゾン美術館 建物外観

日時指定予約制を導入することで、少ない待ち時間、快適な環境でアートを楽しむことができるアーティゾン美術館。事前にウェブサイトで訪問日と時間帯を指定してチケットを購入したなら、中央通りに面した1階のエントランスから直接3階の美術館入口へ。そこでウェブ予約チケットを提示して、4~6階の美しい展示室内で展覧会をゆっくりと見ることができる。外からは想像もつかないような広がりと奥行き、めくるめく空間の展開が印象的だ。

アーティゾン美術館内部


「アーティゾン」という名前は、「アート」と「ホライゾン」(地平)を組み合わせてできた造語。過去から現在まで、そして未来へとつながるアートの限りない地平を、世代や国境を越えて多くの人々に感じてほしいという意志が込められているという。

そうした思いは、65年以上にわたる収集活動で積み重ねた約2,800点というコレクション、そしてその中から選りすぐりの206点を集めた開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」(3月31日まで開催)に現れている。

ヴァシリー・カンディンスキー《自らが輝く》1924年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

展示されるのは、ブリヂストン美術館の所蔵品として愛されてきたモネ、ルノワール、セザンヌ、マティス、ピカソなどフランスを中心にした欧米の美術。また休館中に収集した作品も多く、その中からカンディンスキー、ジャコメッティ、モリゾなど31点が初めて公開される。青木繁や藤島武二、白髪一雄など日本を代表する画家、芸術家たち、あるいは古代の美術もひもとくことで、人間がひとときも止むことなく続けてきたアートという活動の奥底にも目を向ける。まるで、欧米の美術館が東京都心に出現したかのような作品群。しかも作家たちの創作の息づかいまでもが感じられるような近さで見ることができる。そのコレクションの充実ぶりは、2017年にパリで「ブリヂストン美術館の名品 – 石橋財団コレクション」が実現したことからもお墨付きだ。

青木繁《海の幸》1904年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

開館第2期は、3つの展覧会を同時開催。

4月18日(土)からの開館第2期は、4~6階の3フロアそれぞれで別の展覧会が開催される。4階は「石橋財団コレクション選」として、約2,800点の収蔵品の中から選りすぐりの作品を紹介するフロア。今回は、その一角に特集コーナーとして、20世紀前半のヨーロッパ画壇を代表するスイス人画家パウル・クレーの新収蔵作品を含む計25点が展示される。

パウル・クレー《庭の幻影》1925年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

パウル・クレーは1879年、スイスのベルン近郊に生まれ、1900年にはパリと並ぶ芸術の都として知られたドイツ・ミュンヘンの美術アカデミーに入学。その後、ドイツ絵画史に足跡を残す分離派展、芸術家グループ「青騎士」の活動に参加する。クレーといえば、鮮やかな色と抽象絵画のような線やフォルムを思い出す人も多いだろうが、実はそうした表現に移行するきっかけとなったのは1914年の北アフリカ・チュニジアでの滞在だった。

パウル・クレー《抽象的な建築》1915年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

これは、チュニジアの旅の翌年に制作された《抽象的な建築》。建物の形態は大小の矩形や三角形、そして多彩な色の組み合わせによって表現され、やがて訪れる抽象の時代を予感させるかのようだ。

その後始まる第一次世界大戦では彼も従軍。友人で同じ「青騎士」にいた画家フランツ・マルクは戦死し、クレーは大きな悲しみにくれる。戦後はさらに美術界で影響力を増し、ヴァイマールの国立造形教育学校、つまりあの「バウハウス」に迎えられ教鞭をとった。上の作品《庭の幻影》にある、画面の上から下まで水平方向の直線を均一に引いた構成は、このバウハウス時代の初期にクレーが折に触れて試みたものだという。

《羊飼い》1929年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

やがてナチスの時代が訪れ、前衛芸術が弾圧されるようになるとクレーにも批判が集まり、彼は1933年にドイツを離れてベルンに移住。1935年以降は皮膚硬化症という難病とも闘いながら制作活動を続ける。展示される《谷間の花》は、こうした中で生まれた作品だ。黒の綿布を背景に、形の違う色の面を貼り付けるように組み合わせたスタイルは、やはり晩年になって手を動かすことが困難になったマティスの切り紙絵を彷彿とさせる。多様な技法と素材を駆使して造形的実験を続けてきたクレーがたどりついた、穏やかな世界観だ。

パウル・クレー《谷間の花》1938年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

4月18日からは他にも、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 Cosmo-Eggs |宇宙の卵」展が5階で開催される。ヴェネチア・ビエンナーレ会場に1956年に完成し、受け継がれてきた日本館は、アーティゾン美術館を運営する石橋財団創設者の石橋正二郎が建設寄贈したもの。そのつながりもあって、今回2019年の日本館展示の同館での再構成展示につながった。ヴェネチア・ビエンナーレの日本館展示が国内で見られる貴重な機会。世界中からアートファンを集める国際美術展の風景を思い浮かべながら鑑賞してみるのもいい。

日本館展示風景(撮影:ArchBIMIng/写真提供:国際交流基金)(参考図版)


さらに6階では、石橋財団コレクションと現代美術家が共演する年一回のプログラム「ジャム・セッション」。シリーズ第一回は、美術家の鴻池朋子を迎える。この展覧会のための円形の大襖絵を中心とした新作インスタレーション。そして瀬戸内国際芸術祭2019で発表された幅12m、高さ4mの《皮トンビ》と美術館収蔵品のギュスターブ・クールベ《雪の中を駆ける鹿》のセッションなど、まさにアーティゾン美術館のコンセプトである「創造の体感」を五感で楽しめる展示に期待が高まる。

鴻池朋子《皮トンビ》瀬戸内国際芸術祭2019展示風景
《Dream Hunting Grounds》「ハンターギャザラー」展示風景 2018年 秋田県立近代美術館

時間・空間という地平を超え、展開されるアーティゾン美術館の展覧会プログラム。人間が積み重ねてきた美術の歴史とその現代、そして未来を新鮮な視点で発見するのに、いまいちばんぴったりな場所といえるかもしれない。アートファン、建築ファンにぜひ訪れてほしい都心スポットだ。

取材&文・杉浦岳史


アーティゾン美術館

東京都中央区京橋1-7-2

https://www.artizon.museum/

JR東京駅八重洲中央口、東京メトロ京橋駅・日本橋駅から徒歩5分

会期:2020年3月31日(火)まで

■開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」

会期:2020年4月18日(土)~6月21日(日)

■ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり

■第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」

■新収蔵作品特別展示:パウルクレー

開館時間:10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで

休館日:月曜日(5月4日は開館)

入館料(税込):日時指定予約制(一般ウェブ予約チケット1,100円ほか)詳しくは美術館ウェブサイトをご覧ください。

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