男は自慢話が好き、女はうわさ話が好き。
俗に、こう言われているように女たちの宴のメインディッシュは“うわさ話”だ。
他の人に話してはいけない話題であればあるほどその場所の濃密度合いは増す。
物々交換のように、秘密をトレードさせる。

人の幸せが目にあまるように見えてしまう現代社会において、ときには幸せすぎる誰かの弱みを知りたいと思ってしまう意地悪な瞬間が実は…ある。
秘密を守ることは難しいことなのかもしれない。
今回は、そんな「秘密」について改めて考える映画をどうぞ。

© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

世界初の5つ星ホテル「ザ・カーライルローズウッドホテル」の裏側を描いたドキュメンタリー『カーライル ニューヨークが恋したホテル』が公開される。
ニューヨークの象徴ともされる一流ホテル、カーライルはセレブたちに愛され、宿泊した客は必ずリピーターとなる世界一のおもてなしを体感できる場所。
ニューヨークのマンハッタンの中でもひときわ優雅な人々の集まるアッパー・イースト・サイドのランドマークとなっている名門ホテルだ。

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スイートルームは1泊200万円以上。
まさしく、世界中の人々にとって1つの目標地点となりうる場所であろう。
トルーマン大統領が訪れ、ジョン・F・ケネディは最上階を所有し、ダイアナ妃、チャールズ皇太子、アン王女などなどロイヤルファミリーが滞在し、近年では、ウィリアム王子とキャサリン妃も宿泊していた。
ハリウッドを代表する映画監督の1人であるウディ・アレンは2年間も同ホテルに滞在し、今でも週に1度は館内の「カフェ・カーライル」でクラリネットを演奏している。

『カーライル ニューヨークが恋したホテル』は、そんな名門ホテルを舞台に“秘密を守ること”がいかなる効果を生むのか考えさせられる作品に仕上がっていた。

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5つ星ホテルは、世界中にいくつもある。
しかしセレブたちが揃ってカーライルを選ぶその理由は…。
——————————お客様のプライバシーを守ることを徹底する
これに尽きる。秘密を守ってくれる空間であるからこそ、家族の前にいる時のように自らをさらけ出せる。セレブたちが口をそろえて言うように、まさしく「我が家に帰ってきたような気分」にさせるのだ。

さて、私は口が軽い友人のせいで、人生で何度かちょっとした窮地に立たされたことがある。思い返せば、その逆もあったのかもしれない。

人が秘密を守れないのはなぜだろう?
おしゃべりな性格の一種なのか。
もしくは、お金に弱いのか。
流されやすい性格で、誘導尋問により促されてしまうのか。
では、どんな人なら秘密を最後まで守り通せるのだろうか。
この映画から1つの方程式を覗ける。

人の秘密を守れる人とは、 秘密が漏れることによる“経済的ダメージ”をきちんと理解している人だ。

世界大恐慌の直後1930年に開業して依頼、

カーライルホテルはずっと一流である。そして、ホテルはプライバシーを守ることでその価値を守り続けてきた。

カーライルホテルの徹底したスタッフたちから学ぶのは、秘密を守れるか否かというのは、性格の問題ではないということ。
その人が経済的損失を、理解しているか、していないか。それがすべてだ。

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仕事であっても友人関係であっても、その秘密が外に出た場合にいかなるマイナスとなるかをまず考えてみる。それを理解できていればリスクしかない噂話をすることもないであろう。

数年前、某大手広告代理店の社員がタレントを広告に起用する際、情報の解禁前に家族に漏らした話がSNSで拡散され、会社側に多大な損失を与えた。
違約金や新たなプランニングにかかる費用など損失の面を理解していれば、話すことはなかったはずだ。

また、子供の名前を公表せずに子育てをしている人のインスタグラムに対して、「(本名)ちゃん、大きくなったね」と意図せずコメントしてしまったことから図らずも内緒にしてきた子供の名前が大勢に知れ渡ることとなってしまったケースもある。
バラしてしまった人は悪意がなくとも、リスクを恐れた友人は仕事の面でも利用していたそのSNSを退会することになった。

SNS社会においては、何気なく話してしまった情報が自分の望まない形で全世界に発信されてしまうこともある。

「誰も知らない情報」を知っていることは一見価値があるように感じられる。
女は聞いてほしい生きもの。話したい衝動に駆られる瞬間もあるかもしれない。

しかし、カーライルホテルの価値をさらなる高みに押し上げた“秘密を守る”という価値を見つめ直す瞬間が来ているかもしれない。

そして、自分の口が軽いかもしれないと思う人は

信用を失うのはもちろんのことその先に見える経済的リスクを想像することも大事なのかもしない。

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鑑賞前はホテルを題材にしたドキュメンタリーで、約1時間半の上映時間をどう飽きさせず見せてくれるのかが気がかりだったが、歴代米大統領、英国王室、映画スターなど38名のセレブたちが次々とスクリーンに現れ、夢のような時間はあっという間に過ぎていった。

ジョージ・クルーニーやウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラ、アンジェリカ・ヒューストン、トミー・リー・ジョーンズ、ハリソン・フォード…書ききれないほどの名だたる人物たちが登場し、カーライルホテルとそのスタッフやサービスの魅力について友人に話すかのごとく自然体で話してくれるのだ。
スターたちの“素”の表情や人間性までも垣間見ることができる嬉しい時間でもあった。

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カーライルホテルの上質な空間を眺めていると、そんなホテルに見合う自分でありたいという願望が生まれる。映画を観終えたあと、私自身も気付けば仕事へのモチベーションが増幅していた。

監督と脚本は、『ニューヨーク・バーグドルフ魔法のデパート』(Scatter My Ashes at Bergdorf’s)や『ティファニーニューヨーク五番街の秘密』(Crazy About Tiffany’s)を手がけたマシュー・ミーレー。時代を経ても価値の変わらない存在に着目しながらも、ニューヨークのより深いところまで私達を案内してくれる存在だ。
この夏は映画館でニューヨークへ、旅をしてみてはいかがだろう。

カーライル ニューヨークが恋したホテル

8/9(金)よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開
配給:アンプラグド
監督・脚本:マシュー・ミーレー 『ニューヨーク バーグドルフ 魔法のデパート』
撮影:ジャスティン・ベア
音楽:アール・ローズ
出演:ジョージ・クルーニー、ウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラ、アンジェリカ・ヒューストン、トミー・リー・ジョーンズ、 ハリソン・フォード、ジェフ・ゴールドブラム、ウディ・アレン、ヴェラ・ウォン、アンソニー・ボーデイン、ロジャー・フェデラー、 ジョン・ハム、レニー・クラヴィッツ、ナオミ・キャンベル、エレイン・ストリッチ
2018年/Always at the Carlyle/92分/アメリカ/カラー/16:9/ステレオ


映画ソムリエ 東 紗友美(ひがし・さゆみ)

1986年6月1日生まれ。2013年3月に4年間在籍した広告代理店を退職し、映画ソムリエとして活動。レギュラー番組にラジオ日本『モーニングクリップ』メインMC、映画専門チャンネル ザ・シネマ『プラチナシネマトーク』MC解説者など。
HP:http://higashisayumi.net/
Instagram:@higashisayumi
Blog:http://ameblo.jp/higashi-sayumi/

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