ジャジャン=ミシェル・バスキア
©Roland Hagenberg


20世紀のアートシーンは「バスキア」なしに語ることはできない。もちろん日本人にもその孤高の作品群を信奉するファンは多い。
しかしそのバスキアと日本の関係と言われると、ピンと来ない人の方が多いのではないだろうか。
森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催される「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」は、日本で初めての大規模展であると同時に、この「日本とバスキアの絆」にも注目したコンセプトで話題を集めている。

ジャン=ミシェル・バスキア
Bombero, 1983
Kitakyushu Municipal Museum of Art
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.
Licensed by Artestar, New York


まずはバスキアの生涯をふりかえってみよう。1960年、ニューヨーク・ブルックリンで生まれたジャン=ミシェル・バスキア。幼い頃から絵を描いていた彼は、17歳の頃に始めたスプレーペインティングによるストリートアートで注目を集め、とりわけアートスクール時代の同級生アル・ディアズと組んだデュオ「SAMO©」 の名で手がけた詩的なグラフィティで名を馳せた。
1980年には伝説的なグループ展「タイムズ・スクエア・ショウ」で絵画作品を初めて展示し、翌年にはやはり歴史に残るMOMA P.S.1での「ニューヨーク/ニューウェーブ」展に参加する。そして同じ年にはイタリアのガレリア・エミリオ・マッツォーリで初の個展を開催し、1982年にはアメリカでの初個展をニューヨークのアニナ・ノセイ・ギャラリーで開いて評価を確立。早くも経済的成功を収めることになる。

ジャン=ミシェル・バスキア
Fooey, 1982
The Museum of Art, Kochi
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.
Licensed by Artestar, New York


ドイツ(当時は西ドイツ)のカッセルで5年に一度開催される国際美術展「ドクメンタ7」に最年少で出品したのもこの頃。1983年には現代美術の特別展「ホイットニー・バイエニアル」に参加するなど、異例ともいえるスピードで世界のアートシーンの階段を駆け上がっていった。
そんなバスキアから作品を見せられ、互いに刺激を与え合うようになったのがアンディ・ウォーホルだった。同じくポップアートの巨匠、キース・ヘリングなどとも交流を深め、80年代のニューヨークのアートシーンに旋風を巻き起こすものの、わずか27歳にして悲劇的な死を遂げてしまった。

ジャン=ミシェル・バスキア
Self Portrait, 1985
Private Collection
Photo: Max Yawney
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.
Licensed by Artestar, New York


バスキアがアーティストとして活動していたのは、わずか10年。その間に3,000点を超えるドローイング、そして1,000点以上もの絵画作品が残された。彼はアートという道具を使って、20世紀のモダニズム美術の流れを踏まえつつ、ジャズやヒップホップ、アフリカの民俗や人種問題など、社会をとりまく多様な主題を扱った。その短くも凝縮された人生を象徴するかのような強烈な画風とともに、その後20世紀を代表する巨匠として確固たる地位を占めるようになったことはご存じの通りだ。

バスキア、知られざる日本との関わり。
ジャン=ミシェル・バスキア
Napoleon, 1982
Private Collection
Photo: John R. Glembin Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.
Licensed by Artestar, New York


バスキアが一世を風靡した80年代といえば、日本は高度成長社会が成熟期を迎え、アメリカで日本製品の台頭と貿易摩擦が問題になっていた頃にあたる。1979年にアメリカで発刊された書籍『ジャパン・アズ・ナンバーワン』に象徴されるように、日本のパワーに世界の注目が集まり、そのあとにつづくバブル景気へと向かっていく時代。バスキアは「MADE IN JAPAN」「Yen」をモチーフにした作品で、アメリカにおけるニッポンの存在感や当時の日本の熱気や雰囲気を表現していた。

ジャン=ミシェル・バスキア
Onion Gum 1983
Courtesy Van de Weghe Fine Art, New York
Photo: Camerarts, New York
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.
Licensed by Artestar, New York


短い生涯だったバスキアだが、日本にはたびたび来日して、6回の個展、10のグループ展を開催。ひらがなを取り入れた作品も制作するなど、その影響を足跡に残した。
今回の展覧会では、バスキア研究の世界的権威であるディーター・ブッフハート氏が、バスキアと日本の絆や、日本の文化がその創作に及ぼしたこうした影響も明らかにしており、東京で開催される意義を感じさせてくれる。
世界各地から集められた約130点の絵画、ドローイング作品、立体作品や映像作品までも展示。先日、ZOZO社長の座を退いた前澤友作氏が2017年に約123億円で購入した話題の作品が出展されるのにも注目したい。

ジャン=ミシェル・バスキア
Untitled, 1982
Yusaku Maezawa Collection, Chiba
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.
Licensed by Artestar, New York


さまざまなメディアで画像を見る機会も多いバスキアだけに、つい作品も知ったつもりになってしまいがちだが、これほどの規模で個展が行われるのは世界的にも非常に貴重なこと。そのエネルギッシュな作品世界や写真には表れないディテールを、ぜひ生で体感してほしい。


バスキア展 メイド・イン・ジャパン

会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
会期:2019年9月21日(土)〜11月17日(日)
休館日:9月24日(火)
開館時間:10:00〜20:00 ※入場は閉館の30分前
※9/25、9/26、10/21は17:00閉館
観覧料(税込):当日一般2,100円、高校・大学生1,600円、小・中学生1,100円
お問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト:www.basquiat.tokyo

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