2026年6月25日、話題の「星のや奈良監獄」が厳かに開業し、その全貌が明らかとなりました。1908年竣工、100年にわたり役割を全うしてきた建物が、現在は国の重要文化財となっています。1946年以降は「奈良少年刑務所」として、そして閉庁を後の2017年に迎えました。同年に建物は重要文化財に指定され、美しさを保っていた旧監獄は、星野リゾートが運営するTOPブランド「星のや」を冠にホテルとして蘇り門戸を開いたのです。
「旧奈良監獄」が思いもよらぬラグジュアリーなホテルに変貌を遂げたストーリーをここにご紹介しましょう。旧監獄がホテルになること自体、日本では初となるプロジェクトでした。これは星野リゾートがこれまで手がけた数々の再生プロジェクトの中でも、極めて重要な社会的意義の高い取り組みだったといいます。
開業以来、ホテルとしてゲストを迎え入れている建物を前にし、訪れる人の誰もがまずその瀟洒な赤レンガ造りに見入り、足をいったん止めています。なにしろ100年もの間、元のままの姿で継がれてきた建築美を誇り、加えて現代のスタイルを鏤めたホテルとして磨かれた美しさが眩いほどです。再生された建物の強烈なインパクトにも驚きますが、館内に入れば、ラグジュアリーホテルとして人の繊細なもてなしが加わり、日本初の旧監獄建築の‘保存と再生’の完成を体感することになります。
江戸末期、かつて日本が法治的な近代国家であることを諸外国に示そうと、明治政府は自国の近代化をアピール。敢えて始められた一大プロジェクトが‘監獄の近代化’であり、それが5か所の監獄「明治五大監獄」の始まりでもありました。これら5か所の西洋建築に関わった建築家は、“日本近代建築の父”辰野金吾に師事した司法技師の山下啓次郎でした。
ここではいかに「星のや奈良監獄」がラグジュアリーホテルとして位置付けられているか、又その魅力はどこにあるのか、ホテルで過ごした体験を踏まえてご紹介しましょう。

新たな命が吹き込まれた文化財、
コンセプトは‘明けの重要文化財’
もともと監獄として使われていた建物に泊まることに、躊躇する人もいるかもしれません。しかし、私はそれよりも興味の方が勝ったのです。その日、現地に到着した私は、瞳に焼き付けていた写真以上の迫力に押され、赤レンガの趣ある西洋建築の美しさにため息を一つ、やはり建物を前に足が止まりました。
重厚な表門の扉が開かれ、広大な庭を横切り赤レンガ建築の棟へと向かいます。中に入ると白色に統一された中央看守所に入るのですが、その周囲には放射状に均等に伸びる5つの棟があり、中央にあるひとつの棟だけは保存棟となり見学が可能です。客室はその他の4棟に、全48室が造られています。


知識はありましたが、現実には客室の細長さに驚きました。かつて使われていた狭い独居房や雑居房などを9〜11室つなげ、ハリウッドツインのベッドを設けた「The 9-Cell」、ゆとりあるドレッシングラウンジを備えた「The 11-Cell Deluxe」などと呼び、スタイルのある整然とした客室として私たちを迎えています。正直なところ、あまりに幅の狭い細長の部屋に最初は戸惑いました。でも不思議、2日目からは慣れて、むしろその室内に施された様々な工夫や、インテリアデザインの特別感、「星のや」を名乗る高級感のある空間づくりなど、デザイナーや施工者の智慧や技術、美意識などのディテールが冷静に見えてきたのです。
例えば室内に残る赤レンガの壁、手の届かない高い位置にある窓、3.5mものヴォールト天井(かまぼこ型)が室内を広く優しい印象付けをしているなど…枚挙にいとまがありませんでした。一方、室内にも残された赤レンガに対比するように、ベッドの周りを囲むウッドパネルや、木製の家具や調度品の温かみ、さらにカラフルなクッションやソファが部屋の彩にアクセントを与えることで重厚感とソフトなモダニズムの融合も快適です。全室スイートの客室は50~70㎡ありますが、いずれのカテゴリーの部屋に於いても、静かに非日常の滞在を楽しむゆったり感が不思議なほど快適でした。


食事の発想は斬新で独創的なコースが用意されています。地元の大和野菜をふんだんに使い、モダンなフレンチベースのディナーコース「ガストロノミー・クロニクル」(22,000円)が大好評。日本のフランス料理の歴史が一皿ごとに楽しめる、とっておきの4皿が時代ごとにテーマを決めて提供されています。
まずは日本の「黎明期」を飾るパナシェのフィンガーフードに始まり、2章目「成熟期」に登場の舌平目のブレゼ ソース・アルベールは、日本のフレンチ界を牽引した「シェ・イノ」の故・井上旭シェフのスペシャリテをオマージュした一皿。3章の「現代」では、赤レンガに見立てた塩釜を割ると、中から奈良漬けの酒粕でマリネされた牛フィレ肉とトリュフが出てくるユニークなもの。そして最後の「未来」では、グリーンの瓶を再利用した皿にカカオニブのチュイル、カカオパルプをあわせたジュレなど、カカオを余すことなく味わうラストでした。これら4章構成の料理は、革新的な発想に基づいた美食も、サステナブルな未来を提案する流れにも脱帽でした。朝食にはボリューミィな「文明開化の朝食」が登場。その時代に流行ったメイド・イン・ジャパンの先進的な料理、エビフライやスコッチエッグなどが皿を飾り、とにかく自国の歩みを感じながら、美味しい食事に満足度の高い時を過ごしました。


迷い無しの特別なプロジェクトと
「星のや奈良監獄」の世界観
日本初となった‘国の重要文化財’‘旧監獄’のホテルへの転身は、ラグジュアリーホテルの新境地のような気がします。まさに星野リゾートが掲げたコンセプト「明けの重要文化財」そのものでした。美しく残された建物を、機能美と芸術美の双方から見つめ直し館内に歴史とモダニズムが融合されました。二度と造れない歴史の品々が展示される輝くレガシーでもあり、そこにステイできる貴重な経験は感動的でもありました。
文頭に記した「監獄であった建物に泊まることに何の躊躇もなかったか」と聞かれれば、初めは驚きましたが、それでも職業上、多岐に渡るホテルとしての価値をこの目で見て体験したいという興味が大きく勝っていたのも事実です。今回の「星のや奈良監獄」滞在時には、隣接の「奈良監獄ミュージアム」も隅々まで案内され見学したお陰で、私の中でストンと何かが腑に落ちたのです。
かつて収監されていた彼らが残した文章やアートの展示は、最終の見学場所C棟「監獄とアート」に飾られています。順序通りに回り最後までじっくりと‘観る’ことをお勧めします。受刑者のくらしや歴史を知るだけでなく、「国の重要文化財」を未来へと繋ぐ価値の甚大さが改めて再認識できました。「最初からこのプロジェクトの推進に一部の迷いも無かった」と言う星野代表の言葉の重みが伝わってきた気がしています。

取材・文/せきねきょうこ
Photo: 星のや奈良監獄
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。
Instagram: @ksekine_official
DATA
星のや奈良監獄
奈良県奈良市般若寺町18
Tel:050-3134-8091(受付時間 9:30 AM – 6:00 PM)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyanarakangoku/
星のや奈良監獄 ペア宿泊券読者プレゼント
星野リゾート四季歴でご紹介した「星のや奈良監獄」のペア宿泊券を抽選で1組2名様にプレゼントいたします。
応募締切:2026年9月25日(金)17時
当選者の発表は、メールでのご連絡後商品の発送(10月上旬ごろ)をもって代えさせていただきます。
提供:株式会社星野リゾート
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