星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。
滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。
この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。
2020年3月12日、山口県最古の老舗温泉として知られる長門湯本温泉に、星野リゾートの温泉旅館「界 長門」が誕生しました。隠れ里のような奥深い山間部で、寂れてしまった歴史的な温泉郷に再び活気を取り戻そうと、「白木屋グランドホテル」の跡地活用が今の姿となりました。未来へと向かうプロジェクトの一環として、かつて昭和50年代には40万人もの人が訪れていたというこの長門湯本温泉郷を舞台に、再び活気を取り戻そうと、町全体を現代的でスマートに、しかも伝統や歴史を感じて欲しいと、星野リゾートは「旅館の進出だけでなく、マスタープランをつくり温泉街全体を魅力的にしないといけない」として、地元の温泉旅館経営者も驚く斬新なプランを提案したと言います。
こうして始まった未来プロジェクトの実現は、まさに「界」が掲げる「王道なのに、あたらしい。」という提案でした。長門湯本温泉の山間部を流れる清流、音信川(おとずれがわ)沿いには次々と新しい施設ができ始め、川沿いは美しく整備され、川床テラスや飛び石なども置かれ、散策が楽しめるような遊歩道も整備されました。何しろ600年もの歴史を持つ温泉地ゆえ、まずは大切な温泉の歴史がわかる地域のシンボル「立ち寄り湯 恩湯(おんとう)」が新築されて再開業しました。美味しい焼き鳥屋、古民家カフェなど、町のあちこちに観光客や滞在客の立ち寄り処がオープンし、街の様子が少しずつ活気を帯びてきています。


その中心にあるのが「界 長門」です。本陣として使われた御茶屋屋敷をイメージした建物は堂々たる建築と現代的なデザインを融合させています。客室も華やかに造られ、ベッドボード一面を飾るのは特別にオーダーした山口市無形文化財の徳地和紙。全室が‘ご当地部屋’であることから、「長門五彩の間」と呼ばれる客室内には、懐かしくも斬新な和紙の彩が映えています。何しろ、温泉が素晴らしく、「大寧寺(たいねいじ)にて定庵禅師が座禅のなか、住吉大明神からの‘お告げ’によって発見された」と伝えられている温泉です。神のお告げで発見されたと言われる長門湯本温泉。源泉かけ流しの宿の湯は、アルカリ性が強めでとろりとした泉質であり、浸かるだけで心身がゆったりと癒され、心までほぐれていきます。



一方で、期待の大きい食事ですが、その期待を裏切りませんでした。三方を海に囲まれた山口県では、新鮮な魚介類は当然、また柑橘類の豊富なことでも知られ、季節ごとに旬の食材が活かされた会席料理に舌鼓。また門に隣接の「あけぼのカフェ」では、特別に美味しいどら焼きとドリンクが提供されています。そぞろ歩きに…とうたっていますが、訪問者の口コミが広がり、美味しいどら焼きは幾つもお土産に買い込み持ち帰る人が絶えません。
伝統技が楽しみな「ご当地楽」を揃え、「界 長門」は確実に成長を遂げています。たとえば、‘手業のひととき’では、「赤間硯職人と行う硯づくり」、「萩焼作家と行う手ひねり体験」などなども。これからの夏の季節、浴衣に身を包み、清流音信川(おとずれがわ)沿いに浮かぶ「川床テラス」のパラソルの下で、気の合う人と未来への人生観を語り、美味しいものを食べ、そして神からの贈り物である温泉に浸かる…、湯治のためなら連泊がお勧めの魅力的な温泉旅館です。


取材・文/せきねきょうこ
Photo/界 長門
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。
Instagram: @ksekine_official
DATA
界 長門
山口県長門市深川湯本2229-1
界予約センター:050-3134-8092(9:30~18:00)










