星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。
滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。
この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。
伊東温泉は別府温泉(大分県)、湯布院温泉(大分県)、と並ぶ日本三大温泉のひとつです。その総湧出量は約46,080,000リットル、1分間の湧出量は約32,000リットルもあり、源泉数は750本を超え、温泉の多い静岡県でも一番の総湯量を誇る温泉地として知られています。
その歴史は古く、伊東温泉の発見は平安時代ともそれ以前ともいわれており、江戸時代には三代将軍・徳川家光に出湯を‘湯治湯’として献上した実績もある程なのです。昔から湯治場として愛されてきたこの伊東温泉は、今も変わらずに温泉愛好家の方が利用に訪れています。「界 伊東」に滞在した時に、とても印象的だったのはスタッフの言葉にありました。「旅館業はすべてが難しいですが、何といっても、江戸から続く専門職の‘湯守’に最も難しさを感じます。お客様に最適な温度で温泉を整える、24時間気が抜けません」と。そんな言葉を身にしみて感じたのは、温泉がいつでも快適な温度に保たれていることでした。
「界 伊東」があるのは、そんな伊東温泉の中心地、伊東駅からも車なら5分程度の場所にあります。相模湾に向かい、古くから風光明媚な温泉リゾート地として発展してきました。ここ「界 伊東」では、潮の香りに包まれながら緑の日本庭園散策も快適です。


また、客室には全室に源泉かけ流しの温泉が設えてあり、滞在者は界ならではの‘ご当地部屋’である「伊豆花暦の間」に滞在することに。部屋数は全30室、それぞれに趣が少しずつ違い、2名定員の他、4名、6名、8名迄が利用可能な客室が設えてあり、3世代でも利用可能なご当地部屋として伊東の伝統文化や工芸品などが飾られています。たとえば伊豆の草花で染め丁寧に織り上げた「花暦スクリーン」は優しい色遣いが印象的です。花の多い伊東の地で、四季を感じることのできる情緒的な作品に癒されます。


一方、「ご当地楽」では、楽しい時間を演出してくれています。伊豆の有名な椿から作る「椿油づくり体験」にも挑戦しました。晩秋から春先まで可能なこの体験は、まず用意された椿の実を圧搾機で搾り椿油を作ります。初めての体験で肩に力が入りましたが、自分で絞った椿油をお土産に持ちかえり、自分で造った出来立ての椿油を使ってみて、昔の人の智慧に感銘を新たにいたしました。
他にも「手業のひととき」として伊豆に伝わる「つるし飾り」づくり体験など、地域文化を継承する職人や作家、生産者の方と一緒に行う貴重なご当地文化体験が揃っています。伝統工芸の職人、日本酒の蔵元、芸術作家など、プロフェッショナルや職人技に触れる醍醐味に包まれました。また、庭園の一角には源泉が注がれたプールがあり、足湯も造られ、まさに温泉三昧!伊豆の花咲き乱れる春は、静かな海と花に包まれて過ごす心穏やかな滞在です。
こうして四季折々が美しい自然と共にある伊豆には、自然を愛した文人墨客やアーティストが多く暮らしていました。芸術家は多く、特に、いで湯のふるさと伊東温泉には、多くの文人や芸術家たちが寓居をもとめ、この地で名作も生まれています。また大切な食にも、「界」はご当地の春夏秋冬に機敏に反応し、旬の鮮魚や食材を用いて季節の会席料理を提供してくれます。伊豆最大の伊東港や熱海港、小田原港など近隣にも数々の漁港があり、新鮮な魚が朝に晩に水揚げされています。金目鯛、伊勢海老、鮑は伊豆の三大美味、それ以外に、柑橘類も多く育ち、ワサビやしいたけも名産物、どれだけ豊かな食が提供されるのか…、穏やかな気候の中で、食べて、温泉に浸かり、心身の浄化と心休めるまったりとした贅沢な時が待っています。




取材・文/せきねきょうこ
Photo/界 伊東
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。
Instagram: @ksekine_official
DATA
界 伊東
静岡県伊東市岡広町2-21
界予約センター:050-3134-8092(9:30~18:00)