星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。

滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。

この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。


日本初の国立公園に指定された雲仙は、古くから外国人の避暑地としても親しまれていました。その雲仙の‘温泉地獄’に隣接したスタイリッシュな建物が、星野リゾートが運営する温泉旅館「界 雲仙」です。

古い街並みや伝統の老舗旅館、名クラシックホテルなどが、地獄を中心に徒歩圏内に点在する歴史的な温泉地でもあり、そんな中、2022年11月25日に開業した「界 雲仙」は、温泉地獄に隣接し地続きにあるエキサイティングな環境にあります。企画・デザインは‘スーパーポテト’と聞けば、その斬新さやアートワークにこだわる館内のオリジナリティが浮かびます。長崎由来の伝統文化を反映させたカラフルなステンドグラスや、ビードロを使ったライティングなど、長崎の異国情緒が随所に感じられます。宿のコンセプトは、長崎県・雲仙温泉に位置することから、「地獄パワーにふれる、異国情緒の宿」と掲げられています。モクモクと吹き出す温泉地熱の湯けむりに包まれ、どの客室からもその湯けむりを見ることができ、地球のエネルギーを体感するのです。

さらに長崎と言えば、長崎港の開港など古くから海外との交流があった街。歴史を辿れば、雲仙にも江戸時代のキリシタン殉教地であった語り切れないストーリーが隠れています。また雲仙には、僧行基により701年に温泉山満明寺が建立されました。その山号が元となって、「温泉」がかつては「うんぜん」と呼ばれ今に至っているという由来があります。こうした雲仙の歴史の一部を、今回、「界 雲仙」が提供する‘温泉いろは’で学びました。温泉が湯治に利用されるようになったのは1653年、加藤善右衛門が古湯に「延暦湯」を開いたのが始まりだといいます。

その「界 雲仙」の特徴は、何といっても温泉地獄に寄り添う地続きの環境にありましょう。主役となる温泉も独特な濁りのある強い酸性の泉質が特徴であり、まったりといい温度で浸かることが可能です。雲仙地獄から直接引かれている温泉だと知れば、地獄パワーに癒されている自然との一体感を感じます。

高い天井から「和華蘭(わからん)」(和(日本)、華(中国)、蘭(ポルトガル))の要素が描かれた伝統和紙の美しいライトが下がる。広々としたロビーからは前面に池、その向こうに湯煙の上がる地獄の一端が見える。

「界 雲仙」の部屋数は全51室。全室がご当地部屋として造られ、そのうち「客室付き露天風呂」が16室、残りは露天風呂の付いた部屋と、特別室が1室です。何度もスタッフに聞き直してしまったのは、「客室付き露天風呂」の全16室の主役は‘温泉’にあり、部屋に温泉が付いているのではなく、「温泉に部屋が付いている」という考え方であることがわかりました。そういわれれば、室内の半分を占めるのが、大きめの温泉とゆったりとしたデイベッドの置かれた湯上がり処でできています。そしてどの客室からも目の前に湯けむりの吹き出す幾つもの光景が見えることで、‘雲仙’にいることを体感できるのです。

ところで、「界 雲仙」の「和華蘭(わからん)の間」は、和(日本)、華(中国)、蘭(ポルトガル)の要素が混在するデザインが施され、長崎文化の情緒あふれる設えが特徴的です。そういえば、到着時にロビーフロントで迎えられた際、スタッフから「天井から飾られている美しい和紙のライティングは、‘わ・か・らん’の…」と説明を受け、「わからんとは??」と尋ねたのでした。なるほど模様にはそれぞれの歴史が隠されていたのです。

ビードロでできたシャンデリアのようなライトにカラフルな仕切りのステンドグラス、長崎伝統品が配置された異国情緒たっぷりのご当地部屋、‘客室付き露天風呂’の「和華蘭の間」。
ステンドグラスに彩られる大浴場。火山の恵みである温泉は滔々と湧き出て人を癒している。

特別な体験は「ご当地楽」にもありました。今はもうどこにも無いという活版印刷機を使った体験です。かつて4 人の天正遣欧少年使節団(てんしょうけんおうしょうねんしせつだん)がヨーロッパから島原半島に運び込んだという文化的遺産です。見たこともない様式の活版印刷機は宿が譲渡されたものといい、「界 雲仙」にしか存在していないと聞けば、その重要な歴史の一端に触れる貴重な体験に熱がこもります。アルファベットやひらがな、漢字(約220個)からメッセージの一文字ずつを選んで配置。活版印刷機で、用意されたカードに文字を転写するまでに時間もかかります。試す程度のハガキづくりは楽しいですが、先人たちはこんな大変な作業をこなし、昔は新聞迄も印刷していたのかと思うだけで活版印刷の手作業の苦労が浮かび、歴史の重みを感じるひと時でした。

食事を提供する半個室の壁を飾るのも、中華格子や明るい彩の波佐見(ハサミ)焼きなどが組み合わされたパーテーションが長崎らしさを演出しています。会席料理のメインにいただいた台の物は「あご出汁しゃぶしゃぶ」。あご出汁の美味しさに改めて日本料理の出汁の大切さを感じました。その美味しい出汁で最後に煮込んでいただく五島うどんは絶品そのもの。鍋に残った出汁は飲みほしました。

2025年6月24日、館内に「修復工事の端材ガラスが織りなす、煌びやかな光に包まれるラウンジ」として「和華蘭ラウンジ」が登場しました。トラベルライブラリーが、夜にはレトロで幻想的な雰囲気に一変。世界文化遺産「大浦天主堂」の修復で使われたガラスの端材を活用し、万華鏡の光となって天井に照らされる幽玄な光が空間を彩ってくれます。そこで提供されるのが、ステンドグラスカクテルや、長崎のご当地スイーツのミルクセーキ。懐かしい雰囲気に包まれ、長崎の夜を体感するアクティビティです。

地域に根付いた文化や伝統を、地域の温泉と共に楽しむステイの温泉旅館「界」は、この「界 雲仙」をもって最終回を迎えることとなりました。それぞれの「界」の醍醐味を、毎月、お楽しみいただけたでしょうか?

食事処でいただくのは「界 雲仙」ならではのアレンジを施したご当地感のある会席料理。地獄をイメージした先付け、長崎発祥の「卓袱料理(しっぽくりょうり)」をイメージした宝楽盛り、旨味が際立つ「あご出汁しゃぶしゃぶ」などいずれも食材が新鮮で旬をいただく。
あご出汁しゃぶしゃぶと五島うどん。あご出汁は誠に美味であり、最後に煮込んでいただく五島うどんに最高に合う。
トラベルライブラリーが、夜限定の新たなラウンジ空間「和華蘭(わからん)ラウンジ」としてオープン。世界文化遺産「大浦天主堂」の修復で使われたガラスの端材を活用した万華鏡の光が天井に映し出され空間を照らし、異国情緒あふれる空間に。ここではグラスの中で幻想的に輝く「ステンドグラスカクテル」と、懐かしい甘さの「ミルクセーキ」が用意される。
最も人気のある「ご当地楽」は、この「活版印刷体験」。活版印刷始まりの長崎で、自ら文字を選び、刷ることの楽しさや奥深さ、そのルーツを知ることができる貴重な体験。

取材・文/せきねきょうこ

Photo/界 雲仙

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

Instagram: @ksekine_official

DATA

界 雲仙

長崎県雲仙市小浜町雲仙321

界予約センター:050-3134-8092(9:30~18:00)

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiunzen/

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