日常を離れてその土地の文化や歴史、見たことの無い景色に出会う旅は、人生に彩りを与えてくれるもの。
この連載ではSUMAUがあなたの旅をアップデートする情報をお届けします。
今回お届けするのはードジャーナリストとして多方面のメディアで活躍する岩谷貴美さんによる寄稿。フランスの「デュカス・バカラ」で体験したアペリティフのひと時を一緒にお楽しみください。
フランスの美食文化を語るうえで欠かせない、「アペリティフ」をご存じでしょうか?
ディナーの前にグラスを傾け、小皿料理をつまみながら会話を楽しむこの習慣は、人と過ごす時間を慈しむフランスらしいライフスタイルの象徴です。
旅先でこのひとときを体験すれば、名所を巡るだけでは出会えない、パリの日常の美しさに触れられるはずです。今回は、そんなアペリティフを優雅に楽しめる、とっておきの一軒もご紹介します。
人生を謳歌するフランス人ならではの食文化
「Apéritif(アペリティフ)」とは、フランス語で食前酒のこと。フランスでは、このディナー前のひとときを大切にする文化が根づいていて、親しみを込めて「アペロ」と呼ばれています。
日本でいえば「0次会」や「ちょい飲み」に近い感覚ですが、フランスでは食事の前哨戦というより一つの豊かな時間そのもの。
SNSで気軽につながれる時代だからこそ、実際に顔を合わせ、会話を楽しむ時間を大切にする人がフランスには少なくありません。アペリティフは、単に食前酒を楽しむ習慣ではなく、人と人とのつながりを育むフランスらしいコミュニケーション文化でもあるのです。
ワインやシャンパン、カクテルを片手に、チーズやシャルキュトリー、軽い料理を囲みながら会話を楽しむ――。その時間には終わりを急ぐ気配はなく、気がつけば数時間が過ぎ、食事の開始が夜遅くなることも。
効率ではなく、心地よさや人と人のコミュニケーションを優先するフランス流の時間の使い方は、旅人の目にもどこか豊かに映ります。
今年7月上旬、約10日間パリに滞在した頃は、熱波も過ぎ去り、最高気温は27℃ほど。乾いた風が街路樹を揺らす夕暮れになると、テラス席には自然と人が集まり、グラスを片手に語り合う光景が街中に広がっていました。

せっかくなら話題のスポットで、本場ならではの体験を
今回、友人とアペリティフを楽しんだのは、パリ16区にある「デュカス・バカラ」。

2024年秋、「メゾン バカラ」は全面リニューアルを経て、アラン・デュカス氏とのコラボレーションにより新たな美食空間として生まれ変わりました。


クリスタルメゾンならではの華やぎと、デュカス氏が追求する”素材を生かす料理”が融合し、いまパリでも注目を集めるアドレスの一つとなっています。

館内へ足を踏み入れると、まず目を奪われるのは、幻想的な光に包まれた「光の礼拝堂」。歴史あるクリスタル作品が空間を彩り、美術館を巡るような高揚感に包まれます。フラッグシップブティックを併設しているため、バカラの世界観を存分に堪能できるのも魅力です。

さらに2025年春には、美しい庭園を生かしたガーデンレストラン「ル・ジャルダン」が誕生。緑に包まれたテラスでは、バカラのクリスタルが夕暮れの光を受けてきらめき、パリの喧騒を忘れさせる静かな時間が流れています。
今回いただいたのは、スタッフおすすめのカクテル2種と、それぞれに寄り添う料理、そして季節のジェラート。

「NEGRONI」は、ジンをベースにカンパリとスイートベルモットを合わせたクラシックカクテル。凛とした苦味の奥に、ほのかな甘みとハーブの香りが幾重にも重なり、ゆっくりと味わいたくなる一杯です。
対する「OLD CUBAN」は、熟成ラムにミント、ライム、シャンパンを合わせた華やかなカクテル。モヒートの爽快感とシャンパンのエレガンスを併せ持ち、夏の夕暮れにこれほど似合う一杯はないと思わせてくれます。
料理では、「Crispy bread as a pissaladière」が印象的でした。南仏・ニースの郷土料理を現代的に再構築した一皿で、香ばしいクリスピー生地に、じっくり炒めた玉ねぎの甘みとアンチョビの旨みが重なり、シンプルでありながら奥行きのある味わい。グラスとの相性も見事です。
「Ham / pecorino / rocket focaccia」は、芳醇なハムと羊乳のペコリーノチーズ、爽やかなルッコラをもっちりとしたフォカッチャで挟んだ一品。素材の持ち味が引き立ち、気負わないおいしさが心に残ります。

デザートには、フランボワーズとライチのジェラートを。果実そのものを思わせるみずみずしい香りと、清らかな酸味が、夏の夕暮れに心地よい余韻を添えてくれました。
一皿一皿に宿るのは、華美な演出ではなく、素材を慈しみ、その魅力を丁寧に引き出すアラン・デュカス氏の哲学。その美意識は、料理だけでなく、この場所に流れる時間そのものにも息づいています。
庭園を渡る風を感じながらグラスを傾け、互いの言葉に耳を傾ける。そんな何気ないひとときこそが、フランス人が長く大切に育んできたアペリティフ文化の本質なのでしょう。効率よりも、人と向き合う時間を慈しむ——その豊かな価値観に触れられることも、パリを旅する醍醐味のひとつです。
Ducasse Baccarat
11 Place des États-Unis, 75116 Paris
TEL:01 84 75 13 15
Instagram:@ducassebaccarat
文・写真/岩谷貴美(いわや・たかみ)
インスタグラムのフォロワーは10万人超え。All Aboutではグルメガイドを務める。雑誌、web、ラジオ、TVを中心に活躍するほか、コンテストの審査員や企業や行政のコンサルティング、メニュー開発、アフタヌーンティー監修なども行う。スイーツに関しては、1日に20〜30品食べるのが日常茶飯事。年間では約3000品以上になる。
Instagram:@takamiiwaya














