星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。

滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。

この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。


数多いブランドと宿を運営する星野リゾートの中でも、「界」ブランドは、日本の温泉宿の魅力をとことん発信し、温泉と共に、その地域の特徴を再発見し、体感できる温泉旅館として知られています。私自身、幾つもの「界」を訪ね、日本各地の地方文化を再発見しています。中でもこの「界 津軽」は、屋外の散策もままならない真冬の時期にこそ、心に染み入る津軽地方の‘厳しい冬’のライフスタイルが体感できるのです。たとえば館内で「こぎん刺し」を手習いしたり、冷えた体を芯から温めてくれる温泉に浸かったり、津軽三味線の生演奏を楽しんだり…。冬にこそ美味しい海の幸を満喫するのも楽しみです。

華やかな桜の季節にも訪れ、桜舞い散る東北の華麗な春も体験していますが、冬の「界 津軽」には、冬を忍ぶ地元の人々の智慧が日常にしっかりと継承され、それが文化や伝統として「界 津軽」にも伝えられています。

かつてある世界的なホテリエからこういわれたことがあり、その言葉が記憶から離れず、まるで私自身の言葉のように文章中に使うことが多くなりました。「寒い地域にあるホテルは、寒い時期にこそ光る」という説得力のある言葉です。  

津軽の冬ならではの「かまくら露天風呂」。2022年11月25日に大浴場がリニューアルオープンを迎え、同時に「かまくら露天風呂」が誕生。水庭にせり出すように、湯船をアーチ型で囲んだ雪見風呂。大鰐温泉は古くから湯治場(弱食塩水)で知られる泉質、雪景色を見ながらゆっくりと。
広々としたロビーには日本画の巨匠・加山又造・作の大壁画、迫力ある『春秋波濤』が並ぶ。夜の演奏会、津軽三味線公演はこれらの絵の前で開催。
こぎん模様の障子、壁面を飾るスタイリッシュな‘津軽こぎんウォール’など伝統的な津軽こぎん模様を現代風にアレンジした客室「和室リビングスペース付き」。

「界 津軽」を初めて訪れたのも厳寒の冬でした。大雪で吹雪いていた青森空港上空では飛行機が降りられないかもしれないと機内アナウンスがあり、ドキドキしたのを覚えています。1時間近く旋回し、あと5分で降りられなければ東京に戻る…と言われながら、やっとのことで飛行機が着陸したのです。私とカメラマンは、レンタカーでホワイトアウト状態の吹雪の道を、こわごわと、歩くようなスロースピードで走ったのを覚えています。電車なら弘前駅からわずか10分の距離にあるという、この津軽の奥座敷に向かったのです。

不安を感じながらも無事に到着した「界 津軽」。玄関でもてなしの言葉を受けて肩の力が抜け、心が和んだことも想い出します。吹雪は収まりましたが、雪が深々と降るその晩に、最前列で聞いた津軽三味線の生演奏が心に刺さりました。「界」のコンセプト「日本の秘めたる面白さを再発見」という言葉と共に、津軽三味線の力強い音色が心を熱くしてくれました。最後の演目「津軽じょんから節」が終わり、魂を揺るがすような音色に感動していたところ、演奏家が静かにこう語りました。「津軽じょんから節は、今夜のように、雪が深々と降る静かな夜に聞くのが最高に心に響くんです」と。「界 津軽」では、迫力ある音色が日本画の巨匠・加山又造による大壁画『春秋波濤』が飾られる広いロビーの一角に響きます。鳥肌が立ちっぱなしで感動的だった演奏後には、しばらく席を立てませんでした。これが「ご当地楽」の一つとして毎晩演奏されているのです。

他にも津軽を体感できるのは、ご当地部屋の「津軽こぎんの間」、伝統工芸を代表するシンメトリーの美しい「津軽こぎん刺し」、地域の文化を継承する職人や作家、生産者の方々と連携したご当地文化体験「手業のひととき」など、寒く厳しい冬を過ごす地方には、室内で楽しむ民芸や手仕事が幾つも伝承されています。さらに、外せない良質な温泉「大鰐温泉」を何度でも楽しめるのが、温泉旅館「界」の大きな魅力です。2022年に大浴場がリニューアルされ、「かまくら露天風呂」が誕生しました。雪景色を見ながら‘りんご風呂’にゆったりと浸かれば、情緒たっぷりに体も心も温めてくれます。

日本の湯治文化を現代に昇華させ、‘現代湯治’として提案される温泉旅館「界」の入浴の醍醐味。「王道なのに、新しい」という「界」のメインコンセプトが随所に生かされる宿は、ここ「界 津軽」でも同様に、800年の歴史を刻む名湯‘大鰐温泉’が宿を支える礎なのです。

青森の冬の味覚を味わい尽くす‘秋冬限定の特別会席「大間の鮪づくし会席」’台の物の「ねぎま鍋」など鮪好きにはたまらない。
なんとも贅沢な「大間の鮪づくし」のアミューズ。
ご当地楽のひとつ、メインイベントは毎晩開催される‘津軽三味線’の迫力ある演奏。
青森の伝統工芸「津軽こぎん刺し」はご当地楽のひとつとして体験ができる。麻地に木綿糸で縦の織り目に対して奇数の目を数えて手刺し、伝統の幾何学模様が新しいテイストに見える。
「界 津軽」の冬の風物詩‘七雪かまくら’の並ぶ様子。伝統のこぎん模様が映し出されるかまくらやカラフルな灯篭が並ぶ水庭。2月限定で津軽四季の水庭にかまくらが登場。大間の鮪を七種の雪に見立てた「七雪アミューズ」と青森の地酒で期間中「津軽七雪かまくらアペロ」を開催。

取材・文/せきねきょうこ

Photo/界 津軽

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

Instagram: @ksekine_official

DATA

「界 津軽」

青森県南津軽郡大鰐町大鰐字上牡丹森36-1

界予約センター:050-3134-8092(9:30~18:00)

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaitsugaru/

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