「Inspiration Life」では、さまざまな分野で活躍されている方のご自宅を訪ね、ルームツアーのように空間を巡りながら、暮らしのこだわりや仕事への想いを伺います。
今回ご登場いただくのは、フレンチレストラン『MAISON CINQUANTECINQ(メゾン サンカントサンク)』などを手がける、株式会社シェルシュ代表でエグゼクティブシェフの丸山智博さん。
以前の記事では、お仕事への姿勢や代々木上原エリアへの想いについてお話を伺いました。
▶︎ 街の人の日常に当たり前にある場所を。代々木上原/エグゼクティブシェフ・丸山智博さん
今回は、丸山さんのご自宅を訪ね、お部屋での過ごし方やインテリアについてお話いただきました。

新業態「MARUYAMA」に込めた想い
――前回の取材後にオープンされた「MARUYAMA」は、ご自身の名前を冠したお店ですね。
居酒屋「LANTERNE」を運営する中で、居酒屋文化をもっと世界に向けて発信したいという気持ちが芽生えました。「LANTERNE」は地元のお客さんに楽しんでもらいたいという思いが強いのですが、「MARUYAMA」は東京駅からもアクセスが良く、海外からのゲストも多い日本橋兜町にあります。自分たちが好きになった居酒屋やお酒の魅力を、日本だけでなく海外にも伝えるにはとても良い場所。こんなに楽しい食文化があるんだよ、こんなに美味しいお酒があるんだよと世界に向けて伝えたい。だからこそ、自分の名前を店名にするくらいの気持ちを込めました。
――オープンされてどのような方が利用されていますか?
まだまだこれからというところもありますが「LANTERNE」に通ってくださっている方が、わざわざ兜町まで来てくださることもありますし、店舗周辺で働いているサラリーマンの方も多く訪れてくださっています。そこに海外からのゲストも加わって、いろんな人が混ざり合って生まれる雰囲気がまたすごくいいですね。これまで店舗を展開してきたエリアでは出会えなかった層のお客さんにもたくさん出会えています。

“食”を通して暮らしと仕事が自然につながる
――ご自宅で過ごす日常が、仕事に活かされることはありますか?
家でたまたま作った料理が、磨き上げればお店で出せるかもと思ったり、コーヒーを淹れているうちに楽しさに気づいて「これをもっと深めたいな」と感じたり。“食”という部分で生活と仕事はすごく密接につながっています。

――ご自宅で料理の試作をされることも多いのでしょうか?
妻に「今後やりたいメニューの試作期間に入るぞ」と宣言して、ずっとそればかり作っている時期もあります。一方で、ただ作りたいものを作って食べている中から、メニューになることもあります。でも実は、家ではあまり料理しないんです。夜も遅いので、家で夕食を食べる機会が少なくて。店で一日中料理していると、それだけで満たされるんですよね。リサーチのために外食をすることも多くて、家に帰るのがさらに遅くなり、妻にはよく怒られています(笑)。

――器の選び方に、ご自宅とお店で違いはありますか?
まったく分けていません。気になった器はまず家で使ってみて、使い勝手がよければお店にも導入します。家はサンプルの集合体みたいな感じですね。器も家で使ってみて「いいな」と思ったら、展示企画にするということもあります。

――器の収納はどのように考えていらっしゃいますか。
見えている器はほんの一部で、実はその倍くらいの数が収納されているんです。表に出ているものは、インテリアとしても機能するように意識しています。スタッキングの仕方も、形状をそろえたり、色味のバランスを見たりして、重ねたときに美しく見えるようにしています。

周りに置くのは好きなものだけ
――こちらのお部屋を選んだ理由を教えてください。
今の住まいは結婚のタイミングで探した物件です。妻はアパレル関係の仕事をしていて洋服が多く、僕も本やレコード、食器など趣味で集めている物も多いので、収納が充実していることが条件でした。
そこで見つけたのがこの70年代のヴィンテージマンション。賃貸なのですが、もともと備え付けになっていた家具は前の住人がしつらえたもののようです。収納力があり、自分が持っていた家具とも相性がよさそうだと思いました。床がじゅうたんなのも気に入っていて、テラスもほどよいサイズ。2人で住むにはちょうどよく、家具を買い足す必要がないのは大きなポイントでした。
将来的には「一生住む」と思える場所が見つかったら、自分で家具を揃えたい気持ちもありますが、今はこの収納力で十分。物が外に出ていない状態が好きなので、すっきり収まっているのが心地いいです。

――インテリアはどのように選んでいますか?
永く使えるものを選ぶようにしています。このテーブルも、実は20年くらい前に買ったものです。デザイナーズか無名かはあまり気にしていなくて、単純に「デザインとして美しいかどうか」で選んでいます。
ネットやヴィンテージショップで買うこともあれば、散歩中にふらっと立ち寄った店で出会うこともあります。ただ、家の中はなるべく物を増やしたくなくて。何かひとつ買ったら、ひとつ減らす。そんな感覚で「これは店に持っていこうかな」とか、入れ替えるようなイメージです。
家具って、いいものは価値が上がっていくからある意味“投資”みたいな感覚もあって。個体数が少ないものや、使い込むほど味が出るものは、銀行に預けるよりも、暮らしの中で使っている方がいいんじゃないかって思ってます。

――ご自宅ではどんなふうに過ごされていますか?
カメラで遊ぶことが多いですね。料理をうまく撮れるようになりたくて、動画撮影の練習をしてみたり。取材でカメラマンに撮ってもらうと、料理がどれもすごくかっこよくて、仕上がりを見るとワクワクするんです。
形から入るタイプなので、とりあえずカメラを買って、光の感じや構図を見よう見まねで試してみるんですが、プロが撮影した写真と比べると全く違うんですよ。その差を感じるとさらに燃えて、「どうやったらあんなふうに撮れるんだろう」と試行錯誤するのも楽しいですね。
――本もたくさんお持ちですが、どんなジャンルがお好きですか?
読書も好きで、かなり幅広いです。写真集、ビジネス書、建築関連など。最近はなかなか読書の時間が取れず、積読が増えてきてしまって…。時間を作って、ゆっくり読みたいなと考えています。

――お気に入りの場所はありますか?
空間がテラスまでつながっている感覚なので「ここ」と区切る感じではなく、いろんな場所で過ごしています。じゅうたんの床に寝転んでストレッチすることもあれば、気候の良い時期はテラスが気持ちいいので、そこで晩ご飯を食べることも。ホットプレートで焼き肉をしたり、お好み焼きを作ったりするのも楽しいですね。

――ご自宅で過ごすうえで特に大切にされていることを教えてください。
やっぱり、好きなものに囲まれていること。カメラ、食器、本、音楽…自分の「好き」が詰まった空間です。それでいて、ごちゃごちゃしないように整理整頓は意識しています。もちろん、請求書なんかその辺にポンと置いておいてしまうこともありますよ。そこを、気を付けてなるべく片付けるようにしています。
部屋の中で座ってふと外を見ると、大きな木が窓越しに見えて、気持ちが落ち着くんです。リモートでオンラインミーティングをすることもあるので、そういうときにも、心が整う空間であることは大事ですね。

丸山智博さん
長野県安曇野出身。代々木上原を中心に MAISON CIQUANTECINQ、LA PIT A DE MAISON CINQUANTECIN、AELU、LANTERNE、MARUAYMA などの7 店舗を運営する株式会社シェルシュの代表。フードディレクター兼エグゼクティブシェフとして、フランス料理を軸にレストラン、カフェ、居酒屋等幅広いジャンルの飲食店のプロデュース、コンサルティングを行う。直営店での実績を活かしたメニュー開発、店舗設計、ブランディングを含めた食文化に精通したフードビジネス全般の提案を得意とする。また国内外の作家によるうつわを展示販売するギャラリー AELU ではパリでの展開もスタートし、日本以外の活動にも注力。ケータリングではオリジナリティある演出と料理提案を得意とし、さまざまなブランドのイベントやエキシビションに参加する。
2025 年6 月に初の書籍「僕の好きな器、僕の好きな料理」を宝島社より出版。
HP: https://www.chercheinc.jp/
直営店舗:
MAISON CINQUANTECINQ /フレンチビストロ (代々木上原) HP: https://www.maisoncinquantecinq.jp
LA PITA DE MAISON CINQUANTECINQ/ピタサンド、中東料理 ( 代々木上原 )
AELU /フレンチレストラン、うつわギャラリー ( 代々木上原 )
HP:https://www.aelu.jp
LANTERNE /居酒屋 (代々木上原、池尻大橋 )
HP: www.lanterne.jp
LANTERNE はなれ / おでん ( 東北沢 )
MARUYAMA/居酒屋 (日本橋兜町)










