フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の9回目はテキスタイル&インテリアデザイナーのオレリア・パオリさんがパリ郊外のブーロン=マルロット村に購入した一軒家をご紹介します。

Aurelia Paoli(オレリア・パオリ)/フランス出身のテキスタイル&インテリアデザイナー兼アーティスト。パリのボザールやESMOD、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズで学んだ後、2012年にタイルや床材、壁材のデザインを手がけるBeauregard Studio(ボールガールストゥディオ)を設立。伝統技法と現代的デザインを融合させたセメントタイルや壁紙、テキスタイル、デジタルステンドグラスなどを手がける。老舗テキスタイルメーカーのパントンやタルケットなどとのコラボも多く、細部にまでこだわる美意識と、空間に語りをもたらす表現力が高く評価され、受賞歴多数。フランスを拠点に国際的に活躍中。https://www.aureliapaoli.com Instagramaureliapaoli

 パリ中心部からおよそ70 km南東に位置する小さな村、ブーロン=マルロット。パリ・リヨン駅から電車で約1時間のこの場所に、オレリアさんは2017年、1軒家を購入した。

 「1920年に裕福な家族によって建てられたものでした。ブーロン=マルロットにはムラノガラスの原料となる採掘場があり、そこの幹部が住んでいたそうです。その前はパリの中心に夫と長女と住んでいました。郊外へ移る決心をした理由は、まず、2015年に長男を授かり、子供部屋がもう一部屋必要になったこと。パリで一部屋い物件を探したところ、その当時持っていた物件を売っても10万ユーロが必要、ということがわかり、価格が安い郊外の物件を探すことにしました。また、その年の大規模なテロでパリに住むことがストレスになり、子育てに良い環境を求め、1年かけて物件を探しました」とオレリアさん。

1920年に裕福な家族により建設された一軒家。
夏になると庭で緑を眺めながら食事を楽しむ。
庭の一角に北欧式の薪風呂を設置。

 前の住人が数十年住んでいたこともあり、内部は傷んでいて住めない状態だったという。「床はカーペットで、壁は時代遅れのテキスタイル張り。大がかりなリノベーションが必要でした。インテリアデザイナーという職業柄、工事については知識があったものの、どんな工事が必要か研究し、施工会社との交渉に8ヶ月を費やすことに。やっと工事が始まり、そこから内装デザインを考え始めました」

玄関を入ると長い廊下があり、左手前にリビング、左奥にダイニング、突き当りがキッチン。右に2階への階段がある。床のタイルはもともとあったもので、その上にはオレリアさんがデザインしたビニールタイルを設置。

 工事には1年を費やし、2018年に入居。「1階はリビング、ダイニングルーム、キッチン。2階にベッドルーム、バスルーム、子供部屋が2つ。3階にはゲストルームが2部屋、ゲームルーム、シャワールームがあります。全部屋異なるデザインに仕上げました」。

ピンクが基調のリビング。床のビニールタイルはオレリアさんの作品。「光の入り具合により、色のトーンが変わる。そこが気に入っています」テーブルはスペインから運んだもの。椅子はトーネットの「ベントウッドチェア」。天井のシャンデリアはポーランドのデザイナー、パニ・ジュレクの「マリアSCシャンデリア」。https://www.panijurek.pl/product-page/maria-sc-double-black
ダイニングルームの一角にある出窓は家族の憩いの場。ソファはメゾン・デュ・モンドのもので、ガーデン用を利用。
ダイニングルームと隣り合うリビング。窓にはデジタル加工のステッカー、デジタルステンドグラスを貼る。花のランプはアーティストの作品で、蚤の市にて購入。「自分の家にぴったり、と購入しました。10年後に同じものを蚤の市で見つけた時は嬉しかったです」

 オレリアさんはフランス南西部のトゥールーズ生まれ。父はコルシカ島、母はイタリアのシチリア島出身で、旅がとても好きだという。「島出身の人は独特。資源が少ないので、他国に収入を探しに行かなくてはいけないのです」とオレリアさん。

 アーティストになりたいと考え、高校卒業後はパリのボザール(国立高等美術学校)へ進学。「両親の進めでテキスタイルデザインを学んだところ、家に使われるテキスタイルが好きになり、現在の職業を選びました」

2階のベッドルーム。ヘッドボードは、革製品を用いた家具やインテリアの装飾デザインを行う、キュイール・オ・カレのためにデザインしたもの。花から着想。
花がモチーフのカーテンもオレリアさんの作品。植物など、自然からデザインのインスピレーションを受けることが多いという。
緑を基調にしたバスルームは「フランスの庭」をイメージ。壁はフランスのインテリア会社アルトーとのコラボ。床のタイルは自身が立ち上げたボールガール・ステュディオのもの。

 壁面やタイル、カーペット、窓のデザインを手がけるオレリアさんは最新技術を駆使。「デジタル・ステンドグラスは、印刷フィルムと粘着加工で製造され、透明またはすりガラス調など複数仕上げが可能です。窓、ドア、シャワーパネル、ミラーなどに貼るだけで、視線を遮りつつも採光を活かす効果があります。軽く、施工も簡単で、本物のガラスを用いるより取り扱いがしやすいのです。

 彼女の創作スタイルは「アート、素材、装飾の融合」。「伝統工芸に見られるような、技術だけにとどまらない美意識を備えた技のことをフランス語でサヴォワール・フェールと言いますが、そうした匠の技を感じられる装飾を好みます」

ゲストルーム。「天井が低いので、床に目が行くようなデザインにしました」タイル業界大手、タルケット社のフロアリングユニット「iD Mixonomi」に、デザインを提供する。高級ビニールタイル(LVT)コレクションとオーダーメードがあり、こちらはオーダーメード。
3階のシャワールーム。壁と床のステッカーはボールガール・ステュディオ。
小さなカーペットは、老舗のテキスタイルメーカー、パントンとのコラボ。タイルはボールガール・スディオ。

 2012年にボールギャールストゥディオを設立し、タイルや床材、壁材を生産。その後デジタル・ステンドグラスのデザインをはじめ、現在はさまざまなステンドグラスから学んでいる。

「デザインの着想源は心に響いたもの、全て。音楽、映画、古典、植物、花……。幻想的な世界に惹かれます」

キッチンは上の棚を残し、シンクや調理台を新たに設置。「前の持ち主が一度改装したときに作りつけた棚が気に入り、これは残しました。それに合わせて下の調理台や棚をデザイン」
タイルはノルマンディ・セラミックとのコラボデザイン。スメッグの調理台はオーブンが2機あり、肉を焼きながら別の皿の調理をするときに便利。

 実はこの家はバケーションハウスとして利用をし、現在は東部のストラスブールに在住。「5年前に夫と離婚した際、家が大きすぎると感じてアパートに越しました。ストラスブールには良い学校が多く、子供の教育のためにもいいと考えたのです。長い休みがとれるとこの家で過ごし、そのほかは民泊施設としてレンタルしています」

ランチの用意をするオレリアさん。彼女の後ろにある窓の向こうはキッチン。「壁を壊して、キッチンから直接料理を運べるようにしました」
パテのパイ包焼き、サラダ、マカロンケーキなどでランチタイム。お皿はヴィンテージ。

 今後はステンドグラスの意匠をさらに研究し、デジタルステンドグラスを世界に広めていきたいとオレリアさんは考える。「伝統的なステンドグラスは美しい。とはいえ、現代の家には施工が難しく、インテリアに合わせにくい面もあります。デジタルステンドグラスは扱いやすく、モダン家具とも相性がいい。将来性を感じます」

 また、アートを通じて心のセラピーを行うプロジェクトも進行中だ。「創作を通してさまざまな色に触れることで幸福を感じ、心を癒す効果が期待できます。スポーツで体と心の健康を保つ方は多いですが、アートのクリエーションでも幸せを感じることができる。アート・セラピーをストラスブールで行なっているのはまだ私だけ。これから大きく発展させていきたいと思います」

キャバリエのアルシー(♀)は4ヶ月。まだいたずらの盛り。 

撮影/井田純代

(文)木戸 美由紀/文筆家

女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。
Instagram:@kidoppifr

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