いよいよ秋の味覚が楽しい季節になってきた。
マッシュルーム、と聞くとどのようなイメージだろうか? 和食で使われる機会はそう多くないし、ぼんやりとした印象の方も多いのではないか。マッシュルームは他の茸同様に菌類に属しており、学名はアガリクスビスポラス、日本名はツクリタケと呼ぶ。
私がマッシュルームの美味しさに目覚めたのは、フランスで料理学校に通っていた時代、シャンピニオンデュクセルを習った時のことだった。シャンピニオンデュクセルというのは、みじん切りにしたマッシュルームとエシャロットをバターで炒めて、生クリームを加えたシンプルなもの。これを、オムレツに入れたり、パイ包みに忍ばせると目が覚めるほど美味しくなるのだ。マッシュルームは特に乳製品との相性が良く、リゾットやクリーム煮などとも抜群に合う。
椎茸の3倍もの旨みを有するマッシュルームは、世界で最も生産されている茸なのだが、世界中で愛されるようになったのは今に始まったことではない。
例えば古代エジプトでは、オシリス神からのプレゼントと考えられ、貴族のために取り置かれた。庶民は消費することも、ましてや触ることも禁止され、ファラオだけが食べる権利を有した時代もあったようだ。また新王国時代のファラオの墓の壁画にはマッシュルームの絵が残されているらしい。
他にも、ローマではこちらも神の食べ物とされ、裕福なローマ人の間で愛好された。特にローマ帝国4代目皇帝のクラウディウス帝は大の茸好きとして知られており、最後は妻によって毒キノコを盛られて亡くなったという逸話が残る。その日はシーザーズマッシュルーム(今でいうマッシュルームと全く一致するわけではないが、同じハラタケ目)とポルチーニのプレートを用意して欲しいとリクエストしていたという。
考えてみれば、この頃は人工栽培をしていたわけではないから、思うように手に入らず想像以上に貴重だったのだろう。
マッシュルームの人工栽培が始まったのは17世紀のフランス。パリ郊外でのメロン栽培がきっかけで、栽培の試みが始まり、次第に鍾乳洞の中に畝床を作って大規模栽培をするようになった。ナポレオン1世の時代には地下墓地のカタコンブが栽培床で埋め尽くされていた。後に鉄道網の発達により南の方に拠点を移す必要が出てきたのだが、そんな背景もあり、フランスではマッシュルームをシャンピニオンドパリ(パリのマッシュルーム)と呼んでいる。
マッシュルームには色の白いホワイト種と、茶色のブラウン種が存在するが、今回は香りの高いブラウン種を使ったポタージュをご紹介する。


器は陶芸家の内田京子さんの加彩ボウル。京子さんのご主人もまた陶芸家として活躍しておられる内田鋼一さん。私の主人と鋼一さんが以前より交流があることから、私も何度か三重県にある内田家の工房にお邪魔させていただいたことがある。初めて京子さんにお会いしたのは今から8年ほど前になるが、その穏やかなお人柄に魅せられた私は、以来すっかり京子さんのファンになってしまった。
今回使ったボウルは、手にしたときに温かみがあり柔らかい印象だったのだが、京子さん曰く、荒い土を使い2度焼成しているのでしっかりと焼きしまっているとのこと。土器の雰囲気がありつつ、日常的に使いやすい焼き物ということで加彩にこだわっておられるそう。私自身は、カフェオレを飲んだりホッと一息つきたいときに、気がつくと手に取っている器だ。
マッシュルームのポタージュ

材料(2〜3人分)
- ブラウンマッシュルーム 15個程度(うち1個は生で使うので仕上げまで取り置いておく)
- 中サイズ玉ねぎ 1個
- 牛乳 200ml
- 塩 3g
- 栗(加熱済みのもの) 2~3個
- 白胡椒 適宜
- オリーブオイル 適宜

1、マッシュルームを薄切りにする。軸も一緒にカットする。

2、玉ねぎを薄切りにして、分量外の油をひいた鍋で中火で炒める。全体的に油がまわったら、塩を2つまみ加える。しばらくすると、しんなりしてくる。

3、同じ鍋に、マッシュルームを加えて、同様に油が回ってきたら塩を3つまみほど加えて炒める。


しばらく置いておくと、マッシュルームから水分が出てしんなりする。

このタイミングで、200mlの牛乳を加えて、煮立てないようにしながら7-8分加熱する。全体が馴染んだら、ミキサーにかける。味見をして、程よい塩気になるように塩を加える。
※この分量の材料に対してレシピ全体で計3gがベストの塩の量ということで、具材の量が変われば塩の量も調節する必要がある。
4、加熱済みの栗をほぐしておく。
※生の栗を使う場合は、塩を入れた湯で40-50分ほど茹で、そのまま鍋の中で熱をとる。すぐに使わない場合は、粗熱が取れてから水気を切って冷凍庫で保存することも可能。使う1時間ほど前に冷凍庫から解凍に出しておけば、皮も剥きやすく使いやすくなっている。


5、器にスープを入れて、上からたっぷり栗をかける。さらに、スライサーを使って生のマッシュルームを薄く削りかける。この時、薄ければ薄いほど良い。好みで白胡椒とオリーブオイルをかける。
今回は、バターやクリームを使わず軽く仕上げている分、もったりと重たい、まさに「食べている」というスープのテクスチャーにしている。さらさらした口当たりが好みの方は、牛乳の量を増やすと良いだろう。

料理家 千 麻子
学習院大学で美術史と経営学を専攻し、史料館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/