星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。

滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。

この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。


星野リゾートが営む日本旅館「界 加賀」は、北陸随一の温泉郷といわれる山代温泉の中心街にあります。江戸時代から時を刻む老舗温泉地は、その温泉街の中心にある共同浴場の周りに数々の名旅館が立ち並び、かつてから湯治客が豊かな自然の中で長逗留をしていたと伝えられています。そして共同浴場は現在、温泉街の中心で「古総湯」として美しく改修され、周囲の家並みは、北陸特有の呼び方で「湯の曲輪(ゆのがわ)」と呼ばれ歴史を刻んでいるのです。町には泉質の微妙に違う3種の温泉が湧出し、1300年の昔から人々に愛されてきたという、まさに名湯が継がれる温泉地です。

古総湯の対面に建つ創業(寛永元年)1624年の老舗旅館「白銀屋」が、北陸新幹線開通を3年後に開通することも鑑み、2010年10月、新たに「界 加賀」と名を変え、「界」シリーズを代表するような温泉旅館となりました。建物は国の登録有形文化財であり、伝統の紅殻色の壁に格子戸という外観の印象は保たれていますが、2015年12月に大改築を終え、客室棟を新築し「界 加賀」は未来に向かって蘇りました。

庭園は「ご当地」をコンセプトに3か所に作庭。写真は中庭で、加賀友禅をイメージしたタイル張り、兼六園の琴柱燈籠、能登半島のアカマツ、紅殻(べんがら)を使用した赤壁など、石川文化を凝縮。前庭・中庭・茶庭の3つの庭を「川の流れ」によって空間に繋がりをもたせています。
トラベルライブラリーから庭園を望む。ご当地の歴史や自然・文化などに纏わる書籍がたくさん揃う。

客室内は「加賀伝統工芸の間」として加賀友禅や水引、九谷焼など煌びやかな工芸品に彩られ、ベッドルームには加賀友禅をモチーフにしたパネルが飾られるなど伝統工芸のアートワークを施し、全室が‘ご当地部屋’として生まれ変わったのです。リピーターを喜ばせるばかりか、新たに訪れる界の顧客も多くなりました。客室、入り口、ショップ、食事処、温浴施設まで、館内全体に伝統とモダニズムが融合する居心地の良い旅館として時を刻んでいます。敷地内には3か所に造られた庭園があり、敷地の広がりを感じさせてくれます。これらの庭を手掛けた造園業者は「星のや京都」を担当した加藤造園さん、なるほどその感性豊かな日本庭園づくりに納得でした。植栽や苔の美しさは心休まる空間です。

最大3名まで宿泊可能。加賀友禅や水引が彩る室内で、伝統に包まれる。
加賀の四季を表現した九谷焼のアートパネルは、男女合わせて8枚が温泉大浴場を彩る。露天風呂も併設。開湯1300年の山代温泉、露天風呂付和室もある。
2024年11月7日から2025年3月10日は期間限定で「冬の特別会席」「冬の極み会席」を提供。「活蟹のしめ縄蒸し」(写真)を中心に、蒸し、焼き、刺身で堪能。ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版の旅館部門で4レッドパビリオン(最上級の中でも特に魅力的)と評価された「タグ付き蟹会席」。

「界 加賀」の魅力は良質の温泉と同時に、国の登録有形文化財に指定されている建物の趣にもあり、今では珍しい日本的な紅殻色の壁も印象的です。室内には雪見障子を備えるなど、北陸地方で培われた独特な日本家屋の芸術性や情緒も感じられるのです。旅の情緒と言えば、滞在の楽しみのひとつに「ご当地楽」があります。毎夜、館内で見学できる加賀獅子舞は、ドキドキするほどインパクトがあり、この地に伝わる伝統が旅の情緒をマックスにしてくれるはずです。さらに伝統工芸の山中塗や九谷焼の伝統工房を訪れるのもお勧め、ご当地楽の一つ‘金継ぎ体験’に挑戦するなど、幾つもの心そそられる学びが揃っています。

この地方には、美食家・北大路魯山人の思想を受け継ぎ、食材にもこだわる食事が伝わります。「界 加賀」では、旅館部門の料理として「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で4レッドパビリオン(最上級の快適の中でも特に魅力的)と評価されました。これからの季節である食欲の秋には、‘秋の和会席’が楽しめ、松茸の土瓶蒸し、鮑の若布包み蒸しなど一足早い旬がテーブルを飾ります。寒い冬から3月初旬は北陸が誇る蟹漁解禁の季節。新鮮な活蟹が「タグ付き活蟹会席」として登場。いずれの季節も‘旬の北陸’をダイナミックに満喫し、他では味わえない地酒とともに満足度の高い思い出となるでしょう。

こうして「界 加賀」に滞在すると、様々な提案を通して日本の地域性に触れ、私自身も「界」に滞在する度に、改めて先人たちの築いた各地の伝統の奥深さ、文化度の高さに驚かされているのです。

特別会席「のどぐろと鮑の会席」で供される、アワビをわかめで包み込み、せいろでやわらかく蒸した絶品「鮑の若芽包み蒸し」。
ご当地楽「加賀獅子舞」、大きな両眼が鋭く左右に広がった「八方睨」と呼ばれる独特の風貌の獅子が「白銀の舞」を披露。
山代温泉の中心地、「界 加賀」の目の前に立つ「古総湯」。「界 加賀」宿泊者は無料で利用可能。

取材・文/せきねきょうこ

Photo/界 加賀

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

Instagram: @ksekine_official

DATA

星野リゾート「界 加賀」

石川県加賀市山代温泉18-47

界予約センター:0570-073-011(9:00~20:00)

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaikaga/

Share

LINK

×