ロンドンから南西に向かい、自然豊かな緑の原野を超え、森を抜け、途中に、遥か4500年も前の歴史的遺跡‘ストーンヘンジ’を横目に、サマセットまでは快適なドライブウェイが約3時間続きます。映画の舞台のようなアンティークな町ブルトンを過ぎれば、目的地のスモールラグジュアリーホテル「ザ・ニュート イン サマセット」までは目と鼻の先。英国屈指の美しさを誇るというホテルまでの道すがら、車の中でワクワク感が止まりませんでした。日本人であり英国在住の作家、カズオ・イシグロの世界的ヒット作となった映画「日の名残り」の舞台となった場所が目的地のホテルに近いと知り、興奮は最高潮に達していました。

 英国の田園風景、カントリーサイドの景色は本当に美しい…。サマセットはロンドンのような都会で暮らす人々も週末を過ごしに訪れ、日帰り旅行で遊びに訪れる人も多いようです。州名サマセットが「夏の人々の場所」という意味の‘ Sumorsaete’ から派生していると聞けば、避暑やリゾートとしての土地柄であることに納得してしまいます。

正方形の区画が連なる手前が菜園、庭園中央部に位置するバロック様式のウォールガーデン「パラボラ」の全体像。2.7mの塀が約3000㎡の庭を囲み、300種以上の品種を集めた460本のリンゴの木が植栽。

 いざホテル「ザ・ニュート イン サマセット」に到着すると、想像を絶する陽気な笑顔に溢れた大歓迎に包まれ、早々に、完璧ともいえる英国流ホスピタリティの奥深さに触れることができました。そして「ハドスペン・ハウス」内の「ライブラリー・ドローイングルーム&テラス」に通され、まずはアフタヌーンティーで一息。自家製スコーンにクロテッドクリーム、サンドイッチなどでもてなしを受け、日本からの旅の疲れが癒されました。感動的に美味しい本場の紅茶も、到着の喜びとなったのは言うまでもありません。

ところで、「ザ・ニュート イン サマセット」のニュートとは、爬虫類である‘イモリ’を意味するといいます。この敷地内を開発中に希少種のイモリが発見されたことから、オーナーがエステートの冠に命名しました。

驚きは、ホテル「ザ・ニュート イン サマセット」が東京ドーム87個分相当に匹敵する広大な敷地の一部に佇んでいるということでした。敷地内にはフラワーガーデンや、数々の建物が分散して点在しています。到着時に通されたドローイングルームは、瀟洒な本館「ハドスペン・ハウス」の中にあり、17世紀に建てられたこの建物は、英国の「グレードⅡ指定建造物」に登録されています。まさにジョージアン王朝時代を代表する豪奢な館であり、現在の姿は、バースの町を拠点とするSimon Morray-Jones Architectsが歴史香を残しながら現代を創造するリノベーションを担いました。

 自然公園のような広い敷地には、ホテル本館である「ハドスペン・ハウス」以外にも宿泊できる施設が数々揃い、場所を違えて点在しています。時にはカートで、時には車での移動となるほど敷地は広く、すべてを一度に見渡すことは到底不可能。そして見える景色も趣が違っています。客室があるのは「ハドスペン・ハウス」内(23室)と、高床式穀物倉庫やユニークなコテージを改装したステーブルヤード、旧酪農場の母屋や馬小屋を改装したファームヤード、キッチンが備わる1軒家のゲート・ロッヂなど、エリアは4つに分かれて点在しており、すべてを合わせても客室は40室というスモールラグジュアリーホテルです。のんびりと、ゆったりと、自分の別荘のように滞在ができる環境にあります。

到着時に最初に通されたドローイングルーム&テラス。ここでまずはウェルカムのアフタヌーンティー。壁には一帯の緑地開拓や自然保護活動を推進したホブハウス家の人々の肖像画が掛かる。
本館「ハドスペン・ハウス」の2階にあるハドスペン・ガーデンビュー・ルーム。プライベートテラス付きの落ち着きのある部屋。
「ハドスペン・ハウス」内のメインレストラン‘ボタニカルルーム’。ビリヤードルームを改装、ジョージ王朝時代の歴史観を残す暖炉の燃える「オーク・ルーム」と、オレンジの木々が印象的なテラスの「グラス・ルーム」に分かれている。

 現在も進化を続けるホテルのオーナーは、かつて雑誌『Elle Decoration South Africa』の編集者でもあった文化人であり、現在はアンティークのコレクターとしても広く知られる南アフリカ出身の実業家、カレン・ルース氏です。彼女は、2010年に南アのケープタウン郊外に広がるワインランドで18世紀の荘園を手に入れ、「Babylonstoren(バビロンストーレン)」という名のスタイリッシュなワイナリーホテルも経営しています。

「The Newt」最大の魅力は、世紀を超えて驚くほど密に管理され続けてきた価値の高い‘ガーデン’にあります。著名な建築家兼景観デザイナーであるパトリス・タラベラが設計を手がけた幾つもの庭園は、現在、園芸の専門家チームに管理され、歴史に触れながら庭園散策を楽しめるのが魅力です。広大な庭園に携わる専門家は合計45名。専門知識を持つ彼らガーデナーが、観賞用庭園、ウッドランド、食用庭園、育苗担当の4チームにわかれ活動する中、庭師のひとりに日本人女性、石田麻衣子さんが、英国の庭園学を学んだ専門家として働いています。ここでのガーデン見学は、宿泊者はいつでも可能ですが、メンバーシップ料を支払えば一般も入場可能なシステムが備わっています。

パラボラガーデンを見晴らす景色のいいガラス張りの「ガーデン・カフェ」。ランチ限定で季節のフルーツや野菜を中心に旬の食材を使ってヘルシーな季節メニューを提供。

 重要な食事についても完璧な対応です。ダイニングでの食材は施設内で栽培される350 種類以上の安心安全な野菜を中心に‘自給自足型’をコンセプトとしています。レストラン、ファーム・ショップ、アクティビティー施設、サイダー(シードル、リンゴを原料とした酒)醸造所「サイダー・プレス&セラー」も備えています。「ハドスペン・ハウス」にはメインダイニング「ザ・ボタニカル・ルーム」があり、この地方の田舎料理を新鮮な地元食材でアップグレードした料理を提供、他にファームヤードには薪火オーブン料理をスペシャリテとした「ファームヤード・キッチン」、そしてランチ限定の「ガーデン・カフェ」ではThe Newtの菜園で収穫されたばかりの野菜を中心にヘルシーな料理が並びます。いずれのレストランも高級感がありながら、現代的でスタイリッシュなメニューを提供する美味しいグルメ処です。

他にもミュージアムや遺跡の見学、ローマン・ヴィラ・ヴェントラム見学、蜂の生体を解く「ビーザンチシウム」など、エステート内はアカデミックな学びと遊びの宝庫です。本格的にオープンした2022年当初はスモールラグジュアリーの隠れ家ホテルのようだったと言いますが、あっという間に、今や世界中のセレブリティもやってくる憧れのホテルに成長しています。

雰囲気の異なる「ファームヤード」一体は、酪農場を改装しスタイリッシュな全17室を備える。プール、オールデイ・レストラン、無料のバーもこの一角に。
「ファームヤード」の客室‘Hayloft’。ロフトにはキングサイズベッド、1階には広いリビングルーム、薪ストーブ付のテイスティな客室。
緑に包まれて堂々と建つ瀟洒な本館「ハドスペン・ハウス」の前景。

取材・文/せきねきょうこ

Photo: The Newt in Somerset

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

Instagram: @ksekine_official

DATA

The Newt in Somerset

Bruton, Somerset, BA7 7NG United Kingdom

📞 03-3403-5355(日本の連絡先:ケントスネットワーク)

https://thenewtinsomerset.com/

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