友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛される店こそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のお店を紹介しています。今月は スティックフリットが名物の『ムーグルモン』。とびきりおいしい肉が食べたくなったら、でかけたいビストロです。
紹介する街●西永福
【フレンチ】
シンプルでおいしい料理と
ナチュラルワインのハーモニー
小さいけれど、おいしい店がたくさん隠れている街がある。『ムーグルモン』のある西永福、隣りの永福町もそんなエリアだ。それには、北は善福寺川エリア、南は桜上水のあたりまで奥深く広がる杉並の広大な住宅街が関係しているのかもしれない。
街に住む人々は、企業のオーナー、マスコミ、音楽、デザイン関係など、多彩な職種で好奇心旺盛、おいしいものが大好き。そんな人々が日常的にふらりと訪れる街だからこそ、食カルチャーも奥深いのだろう。

『ムーグルモン』の店主中森隆司さんは、都心ではなく、少し落ち着いた場所で店を開きたかったという。そして家からも通いやすい場所がいいなと考えた。そうして出会ったのがこの場所だった。ターミナル駅のように人は多くないが、渋谷、新宿、下北沢、吉祥寺とどこからも1本で来れるアクセスのよさもあって、地元だけでなく、この店の味を求めてわざわざやって来る人も少なくない。
誰もが来るような街ではないから、通りすがりにではなく、おいしいものを求めた人だけがたどりつく場所でもあるのだ。

イタリア産ブラータチーズはミルクの味が濃くクリーミー。トマトの甘みや酸味がアクセントに。
看板料理はビストロの王道をいくスティックフリット。つまりステーキとポテトフライだ。
この他のメニューもごくシンプルにして、ストレートに食材の美味しさが届くものばかり。黒板に並ぶのはブッラータチーズとトマト、生のマッシュルームのサラダ、目玉焼きとカラスミ、そしてパスタ。ここに時折、季節のメニューが差し込まれる。誰もがメニュー名を見てパッとおいしさをイメージできるのがうれしい。

この日の肉は、サカエヤの鹿児島産黒毛和牛330g。塊で焼き上げるからしっとりジューシーだ。
『本日のお肉』に書き込まれている肉の銘柄は3種類。牛肉は肉の旨みがしっかり感じられるものを提供してもらうため、仕入れ先はどこも一流店のシェフ御用達の肉のプロばかり。その日によって銘柄は変わるがどれも中森シェフの焼き方にあった肉を目利きが調整している。

中森さんの肉の焼き方には独自のスタイルがある。前職は、スティックフリットで有名な六本木のワインバー『祥瑞』のシェフとして活躍しただけに、祥瑞スタイルを踏襲しながら、独自のスタイルを編み出している。まずこだわっているのは肉の厚み。指3~4本ほどあればよいという。それを軽くオーブンで温め、それから表面をフライパンで焼いていく。

「最初にオーブンに入れるのは、温めるというよりも肉を緩めるようなイメージですね。
厚みがあるのでゆっくりと火を入れてあげます」と中森さん。
オーブンで緩めた後はフライパンで焼くが、その時は表面に米油をザザッと大胆にかけながら焼いていく。肉に油をかけ始めると、店中になんともいえない“おいしい”香りが充満し、これだけでワインがグビグビすすみそうだ。香ばしい肉が焼ける香りに包まれて、オープンキッチンを眺めながら料理を待つ時間はまさに極上の瞬間。
美しいロゼ色に焼き上がった肉は、シンプルに塩でいただく。付け合わせのじゃがいものフリットも見るからにいい色合いで食欲をかきたてる。合わせるのは中森さんが選ぶナチュラルワイン。優しい飲み口はシンプルな料理とも相性がよく、ゆったりと食事を楽しむにはまさにぴったり。

ここ『ムーグルモン』は、キッチンを見渡すコの字カウンターの落ち着いた空間。住宅街の店らしく、通ってくる常連も多い。そんな食べ慣れた大人たちは食事を楽しみながら、店を育てるのも実に上手だ。住宅街のステーキとワインの名店は、こうして街の人々に見守られ、街に愛される店に育っていくのだろう。

meuglement
ムーグルモン
住所:東京都杉並区永福3-57-16 創和ビル1F
電話:080-2117-5863
営業時間:18:00~24:00 ( food L.O.22:00 / wine L.O.23:00)
定休日: 不定休
完全予約制
※掲載価格は税込み価格です(2023年4月現在)
取材&文/岡本ジュン 写真/マツナガナオコ
