友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛される店こそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のお店を紹介しています。今回の街は静かで環境がいいのが特徴の石神井公園。街の人気イタリアンが手がける姉妹店をご紹介します。
紹介する街●石神井公園
【イタリアン】
イタリアの郷土愛に熱い
ピッツェリアから生まれた待望のバーカロ
店名のバーカロとは、イタリア北部・ベネチア独特の酒場のこと。レストランやトラットリアよりもう少し気安く、食堂のように地元で愛される存在だ。ワインを飲んで、つまみを食べてワイワイできるベネチアの文化そのものなのだそう。かの地では朝から開いていることも多く、小さなグラスでワインを飲みながら、おしゃべりに興じる地元民が集っているのだとか。

そんなバーカロが石神井公園にできている。実はここ、都内でも有数の美味しいピッツァで知られる『PIZZERIA GITALIA DA FILIPPO(ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ)』が出した2号店。本店向かいの場所が空いたのをきっかけに、それじゃあと始まったのだった。
同じ通りの斜め向かいという立地は、文字通り“スープの冷めない距離”。そこでパスタやメインディッシュは、本店から運ぶことができるという。逆にバーカロから運ばれていくのはデザート。実はこの『フィリッポ・バーカロ』を任されているのが、料理人でもあり、パティシエでもある野澤圭吾さんなのだ。

ここでちょっと野澤さんの熱いストリーをご紹介しよう。元々お菓子作りに興味があったという野澤さんは、学生時代のイタリア旅行ですっかりイタリアの郷土菓子に魅せられた。そこで東京のイタリア菓子店で働いていたが、どうしても本場に行きたいという思いが募り、イタリアへと飛んだのであった。その目的というのが、ナポリの郷土菓子『スフォリアテッラ』を学びたいというものだった。
ナポリの中でも街によって少しずつ違うという『スフォリアテッラ』だが、野澤さんが学んだのは、ソレント近くの小さな町。ここで『スフォリアテッラ』が有名な店に巡り合うことができたという。

北海道のデュラムセモリナ粉で作る。バターではなくラードを使うので生地はカリッとしている。
『スフォリアテッラ』は、パイ生地に包まれた貝のような形をした菓子。材料はセモリナ粉、リコッタチーズ、オレンジピールなど。素朴な見た目だが、実は作るのにとても手間がかかる。生地だけで丸一日がかり、成形して焼き上げるまでにまた1日半ほどかかるというもの。
野澤さんはオレンジピールの代わりに、季節によって旬のフルーツなどを取り入れていて、国産の小麦を使っているのも特徴だ。本店の『ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ』は、地元練馬の農産物やワイン、そして国産の小麦や食材にこだわり、生産者とのつながりも強い。そんなところはバーカロにも受け継がれているのだ。

『フィリッポ バーカロ』では、ランチのピザ生地のパニーニサンドも人気。イチオシは店頭で焼いているロティスリーチキンを挟んだ『バーカロチキン』だという。
おつまみは簡単なものが中心だが、ここらしいのは『フィリッポ特性 練馬焼きそば』880円。これは大根が特産の練馬のソウルフードで、給食にも出るという大根パスタを焼きそばにアレンジしたもの。切り干し大根と、ソースには大根おろしを加えているというからぜひ食べてみたい。

フィリッポ自慢の国産小麦の軽やかなピッツァ生地は、焼くとふんわりモチモチ。葉野菜とパルミジャーノチーズも入っている。

23区内ながらも、どこか郊外ののんびりした空気感が漂う石神井公園。こんなところで、イタリア郷土のマニアックなお菓子に出会えるなんてちょっと面白い。ちなみにこの日は、イタリアのイースターのお菓子『トルタ・パスティエラ』が焼かれていた。ワインや料理はもちろんだが、なかなか出会えないイタリア郷土菓子に出会いにこの街を訪ねてみるのも楽しそうだ。

Filippo Bacaro
フィリッポ バーカロ
住所:東京都練馬区石神井町2-8-26
電話:090-5693-2068
営業時間:11:30~14:30(14:00LO)、17:30~24:00(23:00LO)
定休日:水曜、木曜
※掲載価格は税別価格です(2025年4月現在)
(取材&文・岡本ジュン 撮影・貝塚 隆 )
