なかなか帰る時間がなくなってしまったが、実家を思い出すとき、時折脳裏に浮かぶのはダイニングルームである。そこで1日を過ごし、その時の気分に合わせて好きな食器を手に取っていた。飾り棚の中にいくつかのブランドの洋食器が積み重ねられていて、それを見ているだけで豊かな気持ちになったものだ。どの食器も美しいけれど、中でもロイヤルコペンハーゲンの器は格別だった。はっきりとしたコバルトブルーの優雅な線描と、繊細に形づくられた器は料理を盛らずとも、そこにただあるだけでその存在感が空間を支配しているようにも思えた。




器からそういう品格のようなものを感じとっていたのも、あながち間違いではなかったようだ。ロイヤルコペンハーゲンはデンマークが誇る食器メーカーで、1775年に王太后ユリアーネ・マリー・フォン・ブラウンシュヴァイクによって支援され、その前身となるデンマーク磁器製作所が誕生した。16世紀初頭、白磁の焼成に成功したマイセンを皮切りに磁器の黎明期となり、各地で競い合うように磁器製作が行われた。王太后はこの製作所を、国が誇るブランドにしようと王室公認の印である王冠と、デンマークを囲む3つの海峡を器に記すことを提案した。さらには工房の作品であるにも関わらず、手書きをした製作者のサインも入れることも付け加えた。




王太后のアイディアのおかげで、器の裏側を見ると今でもその詳細がわかるようになっている。例えば、私の手元にあるものを見てみよう。

最近は海外でも作られているロイヤルコペンハーゲンの器だが、この器は「DENMARK」とあるのでデンマーク製であることがわかる。次に手書きで3本の波線があり、これはデンマークを囲む3つの海峡「スンド海峡」「大ベルト海峡」「小ベルト海峡」を示している。その直ぐ右手にローマ字があるが、これが作者のサインである。

さらに上の王冠のマークを囲むようにROYAL COPENHAGENとあるが、よく見るとRとOの上部に横線が引かれている。実はこの線の位置によって器の製作年代を知ることができる。この器は1985-1991年の間に作られたもののようだ。

そして最後に1079分の1とあるが、この1079というのは器の型番号を示し、上の1というのがデザインの番号である。ブルーフルーテッドは、ロイヤルコペンハーゲンができて最初に考案されたことからデザイン番号の1が付けられているのだ。




ブルーフルーテッドは、菊とバラ科のキジムシロがモチーフとされており、このデザインが考案された当時は、中国陶磁への憧れから東洋的なデザインが取り入れられていた。見事にシノワズリを昇華し、キシムジロは北欧原産の植物に変化した。さらに器の縁のデザインは3つのパターンが生まれた。シンプルなプレイン、レースのように飾り孔が開けられたフルレース、そしてこの2つの中間的な立ち位置のハーフレースがある。今回使っているのは華やかなフルレースタイプである。手の込んだ作りでありながらも、磁器であるから強度があり、安心して使える食器なのである。


今回は深さのあるディーププレートにミネストローネを合わせた。ミネストローネとは簡単にいえば、具沢山の野菜スープのことである。滋味深くしみじみ美味なスープであるが、今回は器の格調高さに合わせて、グルメなスープにしたいと考えた。そこでモッツアレラチーズとバジルベーストを加えて、メインにもなるような食べ応えのある一品とした。



【ミネストローネ】



材料(作りやすい量)

・人参 1本

・セロリ 1本

・じゃがいも 2個

・ネギ 1本

・トマト 3-5個

・ズッキーニ 1本


・ベーコン 1パック

・ひよこ豆 200g

・モッツアレラチーズ 適宜


・バジル 20g

・オリーブオイル 80ml

・松の実 15g

・バルミジャーノレジャーノ 15g

・ニンニク 2g

・塩 適宜




①人参はいちょう切り、ネギは小口切り、セロリは輪切り、じゃがいもは角切りにする。ベーコンは1センチ幅にカットし、使いやすいように並べておく。




②鍋に分量外の油をひいて、人参とセロリを入れる。全体に油がまわったら、野菜の全面に塩をしっかりとふりかけて2−3分炒める。ベーコンを加えて少し炒める。




③ここへじゃがいも、ネギを加えて、さらにしっかりと塩を入れて炒める。全体的に馴染んできたら、ひよこ豆を加えて水をひたひたに入れて蓋をして50分待つ。火加減は弱めの中火。




④トマトを湯むきする。トマトのヘタを包丁でくり抜き、お尻の部分にバッテンの切れ目を入れ沸騰した湯に軽く、くぐらせる。すぐに冷水に取ると、皮がスルッと剥ける。これを6等分に切ったら、スプーンで中の種を取り出す。ざく切りにする。


⑤ズッキーニはいちょう切りにし、沸騰した湯で軽く茹でておく。




⑥所定の時間が経ったら、③の蓋を開けて、④のトマトと⑤のズッキーニを加えて15分程度火を入れる。適宜味見をしながら塩を加える。この時ちょっと薄いかな、程度がちょうど良い塩梅。




⑦バジルベーストを作る。松の実をフライパンで炒る。バジル、松の実、オリーブオイル、パルミジャーノ、ニンニク、塩をミキサーにかける。パルミジャーノがごろごろ残るくらいが美味しい。


⑧熱々のスープを器に流し、角切りにしたモッツアレラチーズ、バジルペーストをのせる。お好みで黒胡椒と、粉チーズをかけても。




今回はブイヨンを使わないため、できるだけ野菜の旨みを引き出すことがポイントとなる。そこで、鍋に野菜を投入するたびに塩をしっかりと加えて、野菜に汗をかかせて旨みを引き出してあげることを意識すると良い。また今回はアクも旨みと捉えて、アク取りの必要はない。ズッキーニは長く煮ると色がくすんだり煮崩れしやすいので、別に茹でて最後に加えたが、このことが気にならなければ、③の野菜を炒める時に茹でずに一緒に加えてしまっても良い。


体に優しく毎日食べても飽きないスープ、ぜひお試しあれ。




料理家 千 麻子
学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、フランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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