今年も残すところ3ヶ月。厳しかった夏が終わり、過ごしやすく物事がはかどる季節となった。読書や美術館巡り、美容にエクササイズと本腰を入れてやりたいことが目白押しの秋。栗に秋刀魚に松茸に、と今年も食欲の秋になることは間違いないが、中でもきのこは私の秋の定番中の定番だ。

きのこはその名の通り、切り株や朽ちた木に子どものように発生するので「木の子」と呼ばれている。きのこといえば、野菜のようなイメージだけれど、実際のところは植物ではなく微生物の真菌類に属する。菌といってもウイルスなど人体にネガティブなものばかりではなく、食と密接な関係の菌がいくつも存在している。たとえばチーズのアオカビとか、日本の発酵調味料を作るのに欠かせない麹菌なども同じ菌類だ。

そもそもきのことは、菌糸という白い線状のものが集まって塊になったもの。菌糸体は地中と地面を覆うように存在しており、表面から分泌した酵素で有機物を分解しながら栄養として取り込んでどんどん成長することができる。湿った場所はもちろんのこと、上空や砂漠、それに南極など生存が難しそうな場所でも発見されているということは、つまりどこにでもいるということだし、世界最大の生き物がきのこであるというのも不思議ではない。

菌糸体が、自らの繁栄のために胞子を飛ばすべく揚力が働きやすい形をとって地表に現れたものが、食卓でもお馴染みのきのこで、私たちはいわば菌糸体の生殖器官を食しているわけだ。菌だからこそ、植物とは比べられないほどの食物繊維やビタミンが豊富で、からだに良い影響を与えてくれることが嬉しい。

またきのこの働きは、自然界でも突出しており、分解者として生態系の循環に欠かせない存在だ。きのこが存在しなければ、化石燃料が枯渇する心配はなかったかもしれないけれど、今ある景色は全く別の様相であっただろう。約12億年前まで遡れば人間と共通の祖先をもつというきのこ。菌なのに、目に見える形体を伴い、しかもそれを食べることができる。知れば知るほど謎が多くこれほど魅力的な食材はなかなか見つからないだろう。

今回はきのこのライスコロッケをご紹介する。ケチャップライスが残ると、丸めて中にチーズをたっぷり入れて衣をつけてアランチーニのようにして食べるのが好きなのだが、これを秋らしくするとどうなるかしらと考えた一品だ。きのこのうま味が出た出汁をベースにした海苔ソースと一緒にいただく。

今回はぶなしめじと霜降りひらたけの二種を使った。きのこは一種類で使うよりも、いくつかの種類を組み合わせると相乗効果で美味しさが増す。椎茸やマッシュルームなどお好きな組み合わせでどうぞ。

器は、陶工房斿の伊部火襷(ひだすき)皿。備前焼といえば釉薬をかけずに焼きしめられた土と火の表情が魅力的な焼き物であるが、どうかするとちょっと重たくなってしまうことがある。この器は薄造りで綺麗に重ねることができるので使いやすく、モダンな料理とも相性が良い。

我が家の2枚を並べてみると、それぞれに異なる景色を楽しむことができ、焼き物が火の力を借りてできていることを思い出させられる。

きのこのライスコロッケ

―材料(作りやすい量)

  • 霜降りひらたけ 1パック
  • ぶなしめじ 1パック
  • ごはん 300g
  • 海苔 2g
  • 水 100ml
  • 白出汁 10g
  • 醤油 3g
  • 薄口醤油 7g
  • 砂糖 1つまみ
  • 塩 3つまみ
  • 小麦粉 適宜
  • 卵 1個
  • パン粉 適宜
  • 水溶き片栗粉 適宜
  • 米油 適宜

①ひらたけとぶなしめじを食べやすいサイズに切って 水100ml、白出汁10g、醤油3gと一緒に片手鍋に入れて15-20分ほど煮る。あまり大きいサイズに切るとごはんと一緒に握りづらくなるので注意する。

② ①を具と出汁に分ける。ご飯と①の具を混ぜ合わせて丸く形成し、冷蔵庫で30分ほど休ませる。

③  ①の出汁を濾して、薄口醤油7g、砂糖ひとつまみと火にかけ、海苔をちぎって加えてよく混ぜる。海苔の形がなくなったら、塩3つまみほどで濃いめの味にととのえる。水溶き片栗粉でしっかりと濃度がつくようにとろみをつける。

④  ②に小麦粉、卵、パン粉の順に衣をつけて160〜170度でからりと揚げる。

⑤ 器に海苔ソースを乗せて、ライスコロッケを中央に置く。お好みで上から菊を散らす。

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、フランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。

Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/

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