ユカタン半島のジャングルに憩う

スペイン植民地時代を体感するアシエンダ


メキシコには「アシエンダ」と呼ばれる数え切れない荘園ホテルがあります。歴史の背景をみると納得するのですが、歴史はメキシコが16世紀から300年もの間スペインに統治されていた植民地時代に遡ります。広大な荘園を造ったスペイン人は、現地のメキシコ人を労働者として雇い入れ、サイザル麻やサトウキビ、フルーツ、コーヒー豆など、農場やプランテーション、繊維工場などを経営し、実に巨万の富を築いた時代がありました。

特に、ユカタン半島にはその名残が今も残され、多くの魅力的なアシエンダがヨーロッパ人やアメリカ人の手により、荘園ホテルとして蘇っているのです。

敷地は常に広大で、生産性のある工場だけでなく、数々の店舗、病院、教会など、ライフスタイルに欠かせない施設やモノが揃っていて、現地の語り部によれば、まるで栄華を極めたひとつの村のようであったと伝えられています。しかしながらやがてスペイン人は戦いに破れ、メキシコが国家として再び立ち上がると、アシエンダは祭りの後のようにいずれも放置され、労働者と共に置き去りにされたといいます。つらい過去も残る中、1980年代に入ると、徐々に現地の投資家やホテル運営企業、外資系ホテルグループなどの手が少しずつ入り始め、残された贅沢なアシエンダを徐々に荘園ホテル「アシエンダ」として復興させ、思い切りラグジュアリーなリゾートに造り変えました。ここ「アシエンダ・ウアヤモン」も同様の道を通り、今や人気のアシエンダの一つとなっています。

ウアヤモンに2度ほど訪れた私は、熱帯のジャングルに残された贅沢な邸で夢のように過ごした経験があります。ここは1685年に建築された荘園です。スペイン去りし後、当時のオーナーはここで豊かな牧場を経営していたといいます。そんなある日、盗賊団が押し入り、このアシエンダを壊滅的に破壊。価値のある美術品や工芸品など、ほとんどすべてを盗み去ってしまいました。

そして時は19世紀。メキシコも含め、中南米では、需要の高まったサイザル麻の生産に再び成功し、活気に満ちたアシエンダが再度復活しました。現在のアシエンダ・ウアヤモンの敷地にも、遺跡となっている素晴らしい教会や工場跡があり、当時の繁栄を物語っています。



スイートのエントランス、内部は美しくリニューアルされている。


私が初めて訪れたのは2001年のことでした。当時、フランス人女性の総支配人、マリー・アンヌが責任者でした。彼女は、「オーナーがここを買った時は、現在のメイン棟も宿泊棟も、ボロボロのお化け屋敷のようだった」と、改修前の秘蔵写真を見せてくれました。アシエンダ・ウアヤモンは高度な功績を残したマヤ文化発祥の地であるユカタン半島のエズナという村にあり、ジャングルの中にひっそりと輝く秘宝のように佇んでいます。200ヘクタール(2,000,000㎡)もの土地に、レセプション、レストラン、ライブラリ、サロン、プールなどがメイン棟を中心にあり、宿泊用のヴィラ‘カシータス’が木々に包まれて別途、点在しているのです。

リゾートとしてのアシエンダをより個性的に、マヤの歴史や、メキシコのアートにも敬意を払い美しいデザインに取り組んだのが、なんと、インドネシア気鋭のデザイナー、ジャヤ・イブラハムでした。ジャヤは2015年、不慮の事故で他界しましたが、マヤの世界(ムンド・マヤ)を見事に表現しています。現在に通じるスタイリッシュさと、スペイン時代の栄華を融合させエキゾチックなリゾートが創られました。



パブリックスペースのサロン。自由に使えるスペースで読書やアフタヌーンティーなどにも。時にはチェックイン・アウトもここで。



レストランのテラス席。ジャングルは夕暮れ時から急に涼しくなり、気温の快適な朝食やディナーもアウトドアで。



ウアヤモンの客室はカシータス(1軒のヴィラ)と呼び、全11棟。他にスィート仕様のヴィラが1棟、全12棟の客室の贅沢なアシエンダです。飛行場のあるカンペチェの町までは21km、東にはオーシャンリゾート地カンクン、西へ向かえば、メキシコ最大級の「チチェンイツァのピラミッド遺跡群」へと到達します。旅をしたことで歴史の栄枯盛衰に触れ、ジャングルの朝の爽やかさや昼の熱波を知り、周辺に広がるマヤの末裔の住む村を訪れ、知らない現実に触れました。旅は楽しみの他に、文化の多様性や歴史の奥深さ、アカデミックな人々、文化人などとの出会いや土地のグルメなど、数え切れない学びや気づきがあるという感動に震えました。



客室の一つ、それぞれすべての客室がデザインも広さも色彩も異なり、滑画がコロニアルで美しく贅沢な作り。



コロニアルな客室のバスルーム。どの部屋にも常に花が添えられカラフルな色調がメキシコのコロニアル様式を華やかに。



グルメレストランではメキシコ伝統料理やカンペチェ料理(マヤ伝統)、地元の漁師が運ぶ新鮮魚介類の料理も楽しめる。



ナチュラルなプロダクツで様々なトリートメントを提供。メキシコ伝統トリートメントも試してみる価値あり。



スパに隣接するプランジプール。



コロニアルな柱と外壁を残し遺跡となったチャペル、そのままメインプールとして利用。




取材・文/せきねきょうこ

Photo: Hacienda Uayamon




せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。

http://www.kyokosekine.com


DATA

Hacienda Uayamon

Domicilio Conocido, Municipio de Campeche,

KM 20 Carretera、Uayamon-China-Edzna Camp. Mexico

📞:(52)(981) 813 0530

**現在はIHG HOTELS & RESORTS のメンバー

https://www.ihg.com/spnd/hotels/jp/ja/uayamon/cpesi/hoteldetail



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