ちょうど4年前の今頃、新婚旅行でスリランカに行った。新婚旅行っぽく海辺のリゾート?それとも行き慣れている国?など意見が出たが最終的には自然と文化を満喫できる場所にしようと意見が一致した。


北海道よりも小さな国土に世界遺産が8つもあり、インフィニティープールの生みの親でもあるジェフリー・バワの建築が沿岸を中心に点在しているスリランカ。さらに世界の輸出量2位を誇る紅茶の産地であり、医食同源アーユルヴェーダも楽しむことができる。

私たちの目的地はスリランカ全土に広がっていたので10日間旅の案内をしてくれる運転手を手配した。空港にはスリランカ人のバンドゥが出迎えてくれた。どんな人と一緒に過ごすのかと緊張していたものの、出迎えてくれた柔和な笑顔を一目見て彼のことが好きになった。物腰柔らかであまりお喋りじゃないけれど、旅の長い時間の中で興味深そうな情報をちょこちょこと教えてくれた。スリランカには首相と大統領がいることや満月の日は休日になること、さらには日本の「おしん」が人気であることも。またスリランカの王様はインドのお姫様を娶ることが多かったためヒンドゥー寺院も作られたことなど。


この旅について語り尽くすには文字数が足りないのが残念だけれどバワ建築の1つ「ヘリタンスカンダラマ」は特に印象深い。セキュリティゲートの横にチョッキを着た男性が立っている検問所のような建物の前でホテルに着いたと言われた時は、「ここはどこ?!」というのが正直な感想だった。離れて見ると、蔦が全体を覆う無機質で巨大な建造物で、熱帯特有の根元がいくつにも分かれた木や、剥き出しになった岩がダイナミックにそびえるエントランスは一般的なホテルのイメージとはかけ離れていた。だがひとたび中へ足を踏み入れてみると、どこも屋内と屋外が繋がっているような開放感と不思議な安心感があり、時間が経つほど居心地の良さを感じた。シーギリヤロックに登って、疲れた体でお風呂の中から眺めたカンダラマ湖は現実のものとは思えないほど美しく、またガラス越しにリスが横切ったりする光景に御伽の世界に入り込んでしまったかと錯覚するほどであった。


また、ヌワラエリアからさらに50キロほど山道を進んだ先にある「セイロンティートレイル」も素晴らしかった。ここは紅茶のディルマ社の経営しているコロニアル様式の5つの邸宅で、かつては農園の領主が暮らしていたところ。専用のバトラーがいて、紅茶が飲みたくなったらいつでもお願いすることができた。目覚めの一杯はミルクティーでスタートし、朝食、昼食、アフタヌーンティー、夕食、寝る前のリラックスティ。ここでは茶葉の収穫から紅茶になるまでの一連の流れを学び、実際にその地で体験することのできる、ひたすら紅茶漬けの贅沢な時間だった。


旅の終盤には、バンドゥの上司で旅行会社Blue Lotus社を経営する安東玲子さんのお宅にお招きいただいた。風光明媚なゴールから30分ほど離れたリゾート地にあるご自宅で、スリランカ人の旦那さまと可愛い2人のお子さんが出迎えてくださり、手料理でもてなしていただいた。これまでもホテルのバイキングや観光客向けのローカルフードを食べさせてくれるお店でスリランカ料理を経験してきたが、中でも特に忘れられないのは玲子さんの手料理だった。

スリランカの主食は粘り気のない細長い米で、これに合わせて香辛料やココナッツミルクを使って調理されたカレーやおかずを複数盛り合わせていただく。だいたい一つのおかずが一種類の材料で作られているのは品数が多いからこそ可能なのだろう。玲子さんのお宅でも円形のテーブルにずらっと料理が並べられていた。おかずの数にも圧倒されたが、なにより味付けがどれも日本人の自分にも馴染み、素直にまたいただきたいと思う美味しいスリランカ料理だった。

ある秋スリランカを思い出した折、無性に玲子さんの手料理が懐かしくなり、いくつかレシピを教えていただいた。同じ食材が手に入らないこともあり、今回は日本風にアレンジした茄子のモージュをご紹介したい。






盛り付けた器は絵高麗鉢。白い化粧土に鉄絵で紋様が描かれた中国磁州窯の焼物だ。




この絵高麗の技法は京焼にも影響を与えた。写真のように比べてみると、雑器として作られた絵高麗は自由でのびやかな様子だが、京焼のほうは装飾性が高まり、美術品と言っても過言ではない風格を湛えている。



茄子のモージュ



-材料(作りやすい量)

  • 茄子 3本
  • 玉ねぎ 2分の1個
  • ニンニク 1かけ
  • 生姜 1かけ
  • ターメリック 小1+小4分の1
  • カレーパウダー 小2分の1
  • チリパウダー 小4分の1
  • 米酢 小2
  • 鮎魚醤(なければ醤油) 小1
  • 塩 適宜
  • 米油 適宜






1、茄子を2センチ幅の輪切りにする。ビニール袋に小1のターメリックを入れておき、ここへ茄子を加え、袋を閉じてよく混ぜる。鍋に油を入れて、ターメリックをまぶした茄子を150度でじっくり素揚げする。箸で触って柔らかくなった時が引き上げどき。


2、ニンニクと生姜はすりおろす。玉ねぎは薄切りにする。






3、フライパンに1の揚げ油の残りの一部を広げて熱する。ここにターメリック小4分の1、カレーパウダー小2分の1、チリパウダー小4分の1を入れて馴染ませて香りが出てきたら、玉ねぎを加えて火を入れる。途中しっかりと塩を振り、玉ねぎがしんなりするまで炒める。




4、ここにすりおろしたニンニクと生姜を入れてさっと混ぜたら、素揚げした茄子を加えてバッチリ塩を振る。全体が馴染んできたら、鮎魚醤、米酢を加え、さらに塩で味を整える。味がぼけないように塩は都度しっかり入れた方が良いが、冷めるとさらに塩味を感じるので入れすぎに注意。




5、器にこんもりと盛り、お好みでパクチーを散らしても。


ご飯にはもちろん、素麺や冷やし中華など夏らしい料理との相性が良いのでぜひお試しいただきたい。




料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、フランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。

Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/

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