南太平洋タヒチと聞けば、その響きだけで誰もがため息まじりになるかもしれません。中でも、ここにご紹介する小さな離島「テティアロア島」に造られたウルトラ・ラグジュアリーリゾート「ザ・ブランド」は、驚きのストーリーを讃える特別なリゾートと言えるでしょう。2014年7月1日の開業以来、このリゾートの存在は、世界の一流メディアがこぞって書きたてました。同時に、世界のセレブリティの間にも話題が駆け巡りました。

このリゾートがなぜそれほどに注目されたのか、そこには熱いストーリーが隠されていたからです。この島は、かつてハリウッドの世界的俳優、マーロン・ブランドが所有していた無人の島だったのです。名俳優となったマーロン・ブランドは、この美しいハート型の島を所有し、本格的なエコリゾートの拠点として造り上げ、将来的に次世代にタヒチの美しい環境や歴史を引き継ぎたいと考えていたと言われています。そして1999年、彼は友人であるパシフィック・ビーチコマ-社(ポール・ゴーギャン・クルーズ親会社)CEOのリチャード・ベレーに、その思いを告げ開発を託しました(現在は売却されオーナーが違っています)。そして周知のとおり、残念ながら2004年に亡くなったマーロン・ブランドは、生涯にわたりこの島の自然環境や生態系を愛し、文化の伝承に情熱を費やしたと言われています。



飛行機を降りるとリゾートのエントランス前でお出迎え。ゲスト到着の度にスタッフが歓迎の歌と踊りを披露、一気にリゾートの世界へ。


 私は幸運にも、この稀に見るラグジュアリーリゾート‘The Brando”(ザ・ブランド)に滞在する機会を得ました。すでに世界的に注目度の高かったリゾートは、想像をはるかに超え、何から何まで規格外の贅を秘め、すべてが最上級でした。しかし、ただ豪華なヴィラ造りや料金の高さを競うのではないこともすぐに理解ができました。リゾートが果たす社会的な役割や、背景に隠された環境保護対策、エコフレンドリーリゾートとしての様々な取り組みに、未来に向けた真のラグジュアリーの価値が見えたのです。贅を極め、ゆったりと寛げる滞在と共に、リゾートとしての存在意義は高く、その活動も今に継がれています。

 プライベート・アイランド「The Brando」へ行くには、フランス領ポリネシア、タヒチ島の首都パペーテから、ザ・ブランド専用のセスナで、50kmほど離れた海洋上に浮かぶテティアロア島まで飛ぶことになります。空から見る島の形は、聞いてはいましたが、本当にハート形でした。地元の言葉で小さな島を「モツ」と呼び、テティアロア島は13のモツで構成され、それらのモツのひとつ「モツ・オネタヒ」が目指す「ザ・ブランド」でした。

いざ島に降り立つと、まずはエントランス前の広場で、民族衣装のスタッフが歓迎のダンスと音楽を披露してくれ、一気にムードはタヒチアンです。ここからそれぞれのゲストはカートに乗って自分たちのヴィラへと移動しチェックイン。ヴィラは全35棟が点々と建ち、全てのヴィラがプライベート感たっぷりに造られています。ヴィラの庭には広いデッキや、食事の出来るカバナやプライベートプールも設置されています。

暑い午後はスパで過ごすのが最高でした。ジャングルの中に、まるで小鳥の巣を大きくしたようなスパ棟が点在し、古代ポリネシア伝来の施術や、海洋深層水による独自のトリートメントを提供しています。また、ビーチサイドには人気の「Bob’s Bar」があり、とっておきのオリジナル・メニューでゲストを魅了しています。特に夕暮れ時のバーでは、美しく輝く夕陽を見ながら、一生に一度かと思うほどのロマンチックな時を過ごすことに…。



それぞれのゲストがカートに乗ってヴィラに向かう、ワクワク感がたまらない。ヴィラには人数分の自転車も。



ヴィラのひとつ。中央がリビングエリア、左が2階建てのベッドルーム、右は食事ができるカバナ。ビーチにアクセス可能な広い庭にはプライベートなプール、デッキが設置されている。



ヴィラの内部、リビングエリア。風が通る快適なリビングルーム。



時間を見つけて海へ探索、貴重なサンゴ礁やマングローブ、南の島ならではの魚、中にはベビーシャークやベビーマンタも。



椰子の森の中にはスパが作られ、まるで鳥の巣のようなトリートメントルームが点在。これも自然環境に合わせて景観を壊さぬように配慮。


メインとなるファインダイニングには、フランス人シェフ、ジャン・アンベールが新たに就任し、ポリネシアの味とフランスの古典的なテクニックを融合させ、彼のシグネチャースタイルで料理を監修しています。世界一流のレストランで研鑽を積んだシェフはテティロア島の地元食材にこだわるメニューや、定番の人気メニュー、を通して食文化を伝えるなど新たな体験を生み出しています。

一方、ゲストが踏み入ることのないリゾートの裏側にはエコステーションがしっかりと造られ、環境専門家が常駐し日々の環境保全対策に取り組んでいます。こうしてリゾートのすべてを知ると、今さらながら、真のラグジュジュアリーとは…に思いを馳せます。存在感があるだけにそれ以上の社会的責任を負い、可能な限りの贅沢と、見えない努力で環境を守る姿に頭の下がる思いがしました。島の持ち主であったマーロン・ブランドの遺志を継ぎ、リゾートでは環境対策やタヒチ文化の後継が、スタッフやゲスト、地元の子供たちにも浸透していました。



ファインダイニングでの食事は新鮮な食材を使ったフレンチのコース。料理は若くして才能を開花させているジャン・アンベールが監修。パリの最高級ホテル「プラザ・アテネ」に、アラン・ヂュカスの後任として2022年から総料理長に就任、新風をふかせるミシュランの星保有者。オリエントエクスプレスのシェフも。



夜はタヒチアンダンスのショーも。激しくもどこか温かい民族ダンスは見ているだけでも楽しい。



美しいサンゴ礁の海を残すこともかつてのオーナーであったマーロン・ブランドの強い思い。この大自然がいつまでもタヒチに残ることを祈るばかり。



取材・文/せきねきょうこ

Photo: The Brand



せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。

http://www.kyokosekine.com


DATA

The Brando

Teti’aroa Private Island, Arue Tahiti
P.O. Box 6014 Faa’a, 98702 Tahiti, French Polynesia

📞 +689 40 866 366

https://thebrando.com/

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