寒い季節、我が家の食卓には牛ほほ肉が欠かせない。箸で触るだけで、ほろっと崩れるほほ肉は体だけでなく心まで温かくしてくれる。


ほほ肉は、文字通りほっぺたの肉である。顔の表にあるにも関わらず、肝臓や胃などと同類の内臓に分類されており、咀嚼をする度に動かすので筋肉が発達しスジが多いためにちょっと加熱するくらいでは硬くて食べにくい。

ところが、この部位は時間をかけてゆっくり火を入れることで、コラーゲンがゼラチンに変性しトロトロの食感に生まれ変わる。口に嬉しく、さらに食べた翌日は肌艶が良くなるのだ。


赤ワイン煮込みと耳にすると、手間がかかり厄介に感じてしまいがちだ。かつての自分がそうであった。3日かけて作ろうと思うと大層でやる気も失せてしまいそうだが、実のところ子育てで時間に余裕のなくなった今こそ、むしろ作りやすい料理となった。初日は、肉をワインにつけるだけ。翌日は蓋をして煮込むだけ。最終日はソースをさらに煮詰め、味の調整をするだけ。

鍋に張り付いていなければならない時間は短い。忙しい年末に仕込んでおいて、ゆっくり過ごしたいときに温めるだけの状態にしても良いだろう。





今回の器はダンスクのチボリ。

コペンハーゲンにあるチボリガーデンがモチーフになっており、

蔦と花が落ち着いた青い色彩で表されている。装飾的だが、落ち着きもあり上品な器だ。ダンスクといえば、カラフルなホーロー鍋のイメージがあるが、北欧のアーティストたちによるデザイン性の高い器は食卓をより一層華やかなものにしてくれる。


牛ほほ肉の赤ワイン煮込み




材料(2〜3人分)

煮込み用

・牛頬肉 400-500g

・玉ねぎ 1個

・人参 1本

・ニンニク 1片

・赤ワイン 1本(600ml程度あれば良い)

・塩 適宜

・小麦粉 適宜

・フォンドボー 150ml

・ポルト酒 50ml

・バター 10g程度


付け合わせ用

ほうれん草のソテー

・ほうれん草 1袋

・ニンニク(微塵切り) 5g

・バター 適宜

・塩 ひとつまみ


じゃがいものピュレ

・じゃがいも 2個

・バター 10g

・牛乳 50ml

・塩 適宜


人参のグラッセ

・人参 1本

・塩 ひとつまみ

・砂糖 ひとつまみ

・バター ひとつまみ




1、玉ねぎと人参をざく切りにする。ニンニクを半分に切る。これらを牛肉と一緒にジップロックに入れて、赤ワインを1本注ぎ入れて一晩冷蔵庫で休ませる。






2、袋から汁と具材を分けて取り出す。牛肉は表面の水分を拭きとって、ばっちり塩をする。さらに小麦粉を全面に均一にはたく。鍋に分量外の油をひき、牛肉を両面色がつくように焼く。一度取り出す。同じ鍋に、玉ねぎ、人参、ニンニクを入れて炒める。この時、鍋の下にこびりついた旨味も一緒にこそげ取りながら。全体的にしんなりしたら、野菜の上に肉を戻入れ、赤ワインを加える。強火にして、アクを引いてから、火を弱めて蓋をして2時間。


3、フォンドボーを加えて、再び蓋をして2時間。肉と汁を別々の容器に入れて、それぞれ冷蔵庫で休ませる。




4、一晩冷やすと汁の表面に脂が浮かんでいるので、これを丁寧にスプーンなどでこそげ取り捨てる。残った下の部分を鍋に入れて火にかける。ポルト酒を加えて、元の量から半分程度になるまで火にかけ続ける。途中味見をして、塩で味を整える。




5、コクとテリを出すために、バターをちょっとずつ加えながらソースに溶かす。もし味が決まっても、とろみが足りなければここで水溶き片栗粉で少し濃度をつけても良い。肉を戻し入れて温める。


6、付け合わせを作る。ほうれん草は茹でて、冷水にとり、水分をしっかりと切る。これをバター、ニンニクと塩で軽くソテーする。


7、じゃがいものピュレを作る。皮を剥いて半分に切ったじゃがいもを、水から茹でて、柔らかくなったら濾す。バターと牛乳を加えて火にかけながら混ぜ、好みのテクスチャーになったら、塩で味を整える。




8、人参のグラッセを作る。皮を剥いて2センチの輪切りにし、面取りをする。片手鍋に、人参とひとつまみの砂糖と、塩、バター、半分程度の水を入れて落とし蓋をし、柔らかくなるまで火を入れる。柔らかくなる前に水が足りなくなったら足す。


9、器に、じゃがいものピュレを盛り、その上からほほ肉を乗せる。奥に人参と縮みほうれん草を盛り付ける。




なかなか見かけない部位だが、スーパーやデパートの肉売り場で尋ねると思いのほか手に入れやすい。もし手に入らなくても、牛バラ肉やスネ肉でも美味しく作ることができるので、ぜひお試しを。




料理家 千 麻子
学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、フランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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