今年も残すところ、あと2ヶ月ほど。毎年この時期になるとカレンダーをめくっては1年の残りを実感する。そしてやり残したことはないか、これからできることはないかと検討することが習慣となっている。月・年という区切りが存在するおかげで、心に折り合いをつけることができるし、暦(こよみ)があるからこそ、私のような怠け者でもメリハリをつけながら生活できていると思う。




さて今回ご紹介する器は三島の平鉢。この器はまさに暦に縁があるもの。14世紀から16世紀にかけて朝鮮半島で作られた陶器で、鼠色の渋い発色の素地に、象嵌で白泥を埋め込んだ実に味わいのある焼き物だ。じっくり見ると、スタンプで押された花柄や、放射状に引かれた細かく波打つような線が飽きない見どころとなっている。

私たちは太陽暦(新暦)で生活しているが、長い歴史の中のほんの150年ほど前までは月の満ち欠けをベースに作られた太陰太陽暦を使っていた。この2つの暦は、大まかにいうなら一ヶ月ほどタイミングがずれている。たとえば私たちの知っている七夕は梅雨の時期に重なって織姫と彦星はなかなか出会えないが、旧暦の七夕は梅雨が明けた初秋の頃合いなので雨になる確率が低く二人の逢瀬は成就しやすい。

その旧い暦でよく知られているものの1つに、静岡県の三嶋大社が独自に発行した「三島暦(みしまごよみ)」がある。かつて中国から渡ってきた暦は漢文で書かれていたが、三島暦はより多くの人がわかるようにと、仮名文字で印刷された日本で最も古い暦として知られている。東西をつなぐ要所にある神社の発行する暦が、東海道を行き来する人々の手土産として各地に広まることは自然な流れであり、時の権力者たちも重宝していたようだ。




三島暦は崩し字が縦書きで書かれており、そのうねうねとした線が焼き物の細い装飾とよく似ているということから、「三島」さらには「暦手(こよみで)」と呼ばれることとなった。

 今回の料理は野菜の揚げ浸し。野菜の揚げ浸しといえば夏のイメージが強いが、私は秋だからこそ!と思っている一品である。秋の茄子は皮が柔らかく美味しいし、旬を迎えたカボチャはほっこり甘く、栄養価も高い。慌ただしく時間に余裕がない日々でも、3〜4日ほど日持ちしてくれる上、何より作りたてよりも時間が美味しさを増してくれることが嬉しい。十分にボリューム感のある一皿なので、動物性の食材が入らずともメインとしても満足していただける。

【野菜の揚げ浸し】




―作りやすい量

・茄子 3本

・カボチャ 4分の1個

・インゲン 10本

・茗荷 1個

・米油 適宜

・醤油 45g

・砂糖 25g

・みりん 30g

・米酢 10g

・水 75g




① 漬け地を作る。醤油、砂糖、みりん、米酢、水を合わせてしっかりと混ぜる。




② 茄子はヘタの部分を落とし、縦に二等分にし、表面に鹿の子状に切れ目を入れる。カボチャは皮付きのまま薄切りにし、食べやすい大きさに切る。インゲンは筋がなければヘタを切って、さらに二等分する。それぞれの野菜の水気を十分に拭き取っておく。








③ 鍋に油を入れて、160度で茄子、カボチャ、インゲンの順に揚げる。温度の目安は箸を入れて、泡がゆっくりと出てくる状態。揚げあがりの目安は、箸で掴んでじりじりという振動を感じたら。油汚れが気になる場合は、このような網を使うと調理後の掃除が楽になる。






④ 揚げ上がった順に、油を切り、温かいうちに①の漬け地に2分程度つける。漬けたものはバットなどの容器に平らに並べる。これを繰り返す。浸した汁は最後にバットに流し入れる。野菜全体が浸らなくて問題ない。余熱が取れたら冷蔵庫で休ませ、6時間からが食べごろ。

※野菜を極端に少ない量で作ると、漬け地が薄まらず味が濃くなってしまうので注意。




お米が美味しい季節、お供に野菜の揚げ浸しがあれば箸がなかなか止まらないはず。抗菌作用の高い茗荷を合わせて冬本番に備えたいものだ。



料理家 千 麻子
学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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