自分の部屋の中に好きな色や、見ると気持ちがほぐれたり、ときめかせてくれるものがあると、それだけで暮らしが素敵になる。

シンプルなのに心惹きつけるデザイン、その機能性と美しさで、日本はもちろん、世界中から愛されつづける北欧フィンランドのライフスタイルブランド「イッタラ」。140年におよぶ歴史の中で、つねに新しいカタチや色で人々を魅了してきたその創造性と歩みを紹介する展覧会「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」が、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催されている。

オイバ・トイッカによる《バード バイ トイッカ》コレクション ©Iittala


磨きあげられた技術と、有数のデザイナーや建築家などとのコラボレーションの中で培われてきた「イッタラ」のプロダクトは、近現代デザインの歴史や工芸の発展を語る上でも欠かせない。日本のクリエイターとのつながりも多く、展覧会を見たあとには、今までなにげなく素敵と思っていたアイテムたちがさらに親しく、奥深く感じられるはずだ。

「イッタラ」のガラス工場は1881年、まだロシアの支配が続いていたフィンランド南部、ヘルシンキの北約120kmにあるイッタラ村の湖畔に創設された。当時は家庭用のグラスやボトル、薬品用ガラス器を生産する一方で、クリスタルガラスを装飾的にカットしたプロダクトなども制作していたという。


《アメリコンスカ》プレスガラス、1913年 ©Design Museum Finland, Photo: Johnny Korkman


イッタラにひとつの転機をもたらしたのは、1932年に行われたガラスデザインコンペティション。その頃すでにインテリアデザイナー・建築家として知られていたアイノとアルヴァ・アアルト夫妻によるデザインが大きく評価され、世界から注目された。これは現在でも「アイノ・アアルト タンブラー」として知られる、イッタラプロダクトの代表作のひとつだ。さらに夫のアルヴァ・アアルトとコラボレーションで、イッタラは1936年に《アアルト ベース》を発表。機能的でありながら、有機的で生命を感じさせる作風が話題を呼んだ。


《アアルト ベース》アルヴァ・アアルト、1936年 ©Design Museum Finland, Photo: Johnny Korkman


会場では、この作品のためにアアルトが描いた青いモノクロームのスケッチが展示され、シンプルでありながら心に響くラインが斬新さを物語る。さらに1946年にもデザインコンペが行われ、タピオ・ヴィルカラ、カイ・フランクというその後のイッタラの製品に関わることになる名デザイナーが1位、2位を獲得。優れたクリエイターの活躍によって、イッタラは国際的に名声を高めていくことになる。

それを支えたのは、まぎれもなくガラスを扱う職人の技だろう。イッタラではガラスによる表現を可能にするさまざまな技術が開発され、受け継がれてきた。伝統的な吹きガラスのほか、上記のアアルト ベースは吹きガラスと型ガラスの製法を組み合わせて作られる。木型を使った当時の製法から生まれる、味わいのある表面のゆがみと質感を、現代のプロダクトと比べてみるのもいい。


(左)アアルト ベースの木型、ガラスの吹き竿、職人のベンチ (右)アアルト ベースの制作風景 ともに©Iittala


イッタラを読み解く13の視点

展覧会はさらに、イッタラを貫く哲学や、それを読み解く13の重要な視点について触れていく。プロダクトに込められた想いやフィンランドという独特の風土、そしてそのオリジナリティやアイデンティティをどう形成し、世界に伝えてきたかまでが語られる。これらの視点はただイッタラの軌跡を知るばかりでなく、プロダクトデザインのあり方を考えるうえでも興味深い。主なものをご紹介しよう。

まず最初は「気候と文化」。イッタラが生まれたフィンランドを象徴する森と湖、雪や氷の風景は、つねにこの国のデザインのインスピレーションの源になってきた。鋭い感性で自然のかたちを抽出し表現したフィンランドの独自性が際立つデザインは、20世紀半ばの国際舞台で注目を浴びたという。代表的なのはタピオ・ヴィルカラ。人里離れた山奥で孤独を愛した変わり種のデザイナーは、氷の溶ける様子から生みだした《ウルティマ ツーレ》シリーズなど、自然をモチーフに多くの作品をデザインした。


《パーダリンヤー(パーダル湖の氷)》タピオ・ヴィルカラ、1960年 ©Design Museum Finland, Photo:Johnny Korkman


もうひとつは「カラー」。優れた色ガラスの製造技術で評価されるイッタラ。古い透明ガラスに見られる薄く緑がかったような色合いは、実はフィンランドの砂に含まれる鉄の成分によって生まれたもの。イッタラのカラーバリエーションはデザインコンセプトの中核をなしていて、その数は200種もあり、毎年平均20種の色が製品化される。色選びが楽しいゆえんだ。


イッタラの色ガラスのサンプル、2020年 ©Design Museum Finland, Photo: Johnny Korkman


そして「マジック・リアリズム 自然や精霊との対話」。イッタラのデザインには、神々や精霊との対話といったフィンランドならではの精神世界をものづくりに反映した、いわゆるマジックリアリズムも見られる。イッタラのプロダクトに独特の世界観を与えたティモ・サルパネヴァの《ヒーデンニュルッキ》(悪魔のこぶし)はまさにその代表作といえるだろう。


《ヒーデンニュルッキ(悪魔のこぶし)》 と《ヒーデンケフト(悪魔のゆりかご)》ティモ・サルパネヴァ、1951年 ©Design Museum Finland, Photo: Pietinen


そして「連ねる、重ねる」は、イッタラの特徴でもある美しさと機能性を表現した視点といえる。ひとつひとつのプロダクトはもちろん、連ね、重ねる、いわゆるスタッキングした時にも美しい。それは使い手にとっての有用性、そして大きな喜びにつながる。自由な組み合わせを可能にしたデザインは、食卓のバリエーションや風景を豊かにし、積み重ねることを前提としたことで彫刻的なデザインも生みだした。


左:《マルセル》ティモ・サルパネヴァ、1993年 ©Design Museum Finland, Photo: Johnny Korkman
右:《フォレスト》タピオ・ヴィルカラ、1962年 ©Design Museum Finland, Photo: Ounamo


そして「広告イメージ 世界観を伝える」。そう、広告表現の独自性も注目したい点のひとつだ。1917年にロシアから独立した小国のフィンランドは、特に第二次世界大戦後、戦略として「デザインのフィンランド」を打ち出し、世界でのプレゼンスを高めていこうと試みた。イッタラもまた、メディアや広報活動を通じて独自の絵画的な広告表現を生みだしていく。視覚的に製品の形を見せるだけでなく、デザインに込められた抽象的な精神性をも表現しようとした広告イメージは、世界でも高い評価を得てきた。


広告イメージ、1953年 ©Design Museum Finland, Photo: Pietinen


さらに展覧会では、イッタラと日本の関係にも触れる。ブランドを代表するデザイナーのカイ・フランクは1950年〜60年代に3回来日し、日本文化に影響を受けた作品を生みだした。また21世紀に入ってからは、イッセイ ミヤケやミナ ペルホネンなど日本のブランドとのコラボレーションも実現。用の美を究めたふたつの文化が描く新しいスタイルにも注目が集まる。

フィンランドデザインを代表するイッタラの軌跡を、450点以上におよぶ作品と映像やインスタレーションを交えて紹介するこの展覧会。シンプルなデザインに込められた哲学や美学、数々の想いや技術に触れることで、あらためて北欧デザインの良さが実感できる機会になりそうだ。

《i-ライン》コレクション、ティモ・サルパネヴァ、1956年 ©Design Museum Finland, Photo: Rauno Träskelin


イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき

会場:Bunkamura ザ・ミュージアム

会期:2022年11月10日(木)まで

開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)、毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)

※状況により、会期・開館時間等が変更となる可能性があります。

※会期中すべての日程で【オンラインによる事前予約】が可能です。予約なしでもご入場いただけますが、混雑時にはお待ちいただく場合がございます。

お問合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

観覧料その他の情報は展覧会公式HPへ

https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_iittala/

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