この時期に近所のスーパーに寄ると必ずと言って良いほどホタルイカが並んでいる。昨年に続き、今年も豊漁らしい。つい買って帰り、お酒のあてにと酢味噌を作りながら、まだタレのかかっていないホタルイカを素手でぱくぱく食べる。手で持った時のぷっくりした感じが好きで、思わず手で摘んでしまうのだ。

そもそもホタルイカは、体に発光器を持っていて蛍のように光ることから、この名前がつけられた。光る目的は敵を惑わすためらしい。ここにいるよ、とピカッと光って敵がその場所を狙ってくる間に素早く別の場所に移動する。体にそんなシステムが組み込まれているなんて、ホタルイカの祖先はどれだけ危険な目に遭ってきたのだろうか。

春になると富山では、新月に近い夜に方向感覚を失ったホタルイカが一斉に海岸に打ち上がることがある。ホタルイカの身投げと呼ばれていれるが、暗闇で波に揺れながら光る姿を想像すると、美しいには違いないけれど、本意でないホタルイカのことを思えば切ないような。

ホタルイカといえば、やはり定番は酢味噌和えなのだが今回は中華風に寄せてみた。というのも器は中国から渡ってきた「古染付(こそめつけ)」だから。

私は器好きであるが、多分我が家でもっとも使用頻度が高いのは古染付だ。和洋中なんでも合うし、新しいものにはない風格があって、古染付に料理を盛り付けるだけで料理のランクが上がるように感じる。とはいえ、器が作られた当時はそういった立派なものを作るという意識は全くなかった。古染付は、明時代終わりから清時代初期の16世紀後半から17世紀初頭にかけて景徳鎮の民窯で焼かれた磁器で、日本からの注文で我が国に舶載されたものを指す。
当時の中国では国内で宮廷用食器の注文が大量にあり、質の良い土はそちらへ流れ、一般に民窯に流通した土は質の良くないものだった。

古染付の魅力の1つには「虫食い」がある。器の口縁部に目をやるとところどころに釉薬の剥落があり、地の土がそのままの状態で現れている。その姿がまるで、虫食いのようであるからこのように呼ばれているのだが、この虫食いは劣悪な土を使ったがためにできたものなのである。

器を裏返してみると、高台のあたりには焼成時に下に敷いていた砂が付着しているし、完璧に整ったものではないことがわかる。そうは言っても、勢いがあって伸びやかな筆の運びの絵付けとか、表面を撫でた時の釉薬の柔らかく溶けた感じとか、磁器でありながら陶器のような柔らかさを兼ね備えた古染付には不思議な魅力がある。

今回ご紹介している染付山水図割山椒小鉢は、2人の人物が囲碁を打っている場面が描かれた山水画が中央にある。そしてその周りを囲むように吉祥文の蝶と花が添えられており、割山椒の形と相俟って華やかな器である。


【ホタルイカと空豆の唐和え】

―材料 3〜4人分

・ホタルイカ(ボイル) 1パック

・空豆 6莢(さや)

・米油 10g

・にんにく(みじん切り) 3g

・茗荷(みじん切り) 1本

・豆板醤 2g

・中国黒酢 5g

・中国醤油 1g

・醤油 5g

・砂糖 1g

①ホタルイカの下処理をする。目と口を外す。次にエンペラ側の線の下からピンセットを入れて上の方をつまむようにして軟骨を取り除く。

②空豆は莢から出し、薄皮を剥く。写真のように包丁を当ててきっかけを作り、そこから指を使うと楽に皮が剥ける。

③お湯を沸かして分量外の塩を1つまみ入れる。ここで皮を剥いた空豆を2分程度茹でる。硬いと美味しくないので十分に火を入れる。火が通ったらすぐに団扇などで冷ます。冷水で冷ましてもよい。

④米油を180〜200度まで上げる。(温度が上がりすぎると危ないので、目を離さないように注意)

⑤にんにく、茗荷、豆板醤をボウルに入れておき、ここに④の熱々の油をジュワッとかけ、よく混ぜる。次に中国黒酢、中国醤油、醤油、砂糖を加えて、さらに混ぜる。

⑥⑤のタレにホタルイカと空豆を加えて味を染み込ませる。

今回の器は、洋の東西を問わず幅広い古美術を扱っているShow Kawai Oriental Fine Artさんからお分けいただいた。インスタグラムで随時商品を紹介されているので、古いものに興味のある方にぜひご覧いただきたい。

Instagram:  @show_kawai_oriental_fine_art

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。

Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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