京都で迎える新年は、白味噌雑煮で始まる。嫁ぎ先では初日の出の前に食卓に家族が集い、白味噌がたっぷり溶かれた雑煮をいただく。頭芋と小芋、そして祝だいこんが入った汁の上から一つかみの鰹節をのせる。ぼんやりした頭で、湯気で踊る鰹節を眺める。お腹は空いていないはずなのに、甘くて透き通った味が寝起きの身体に染み渡り、思いのほかさらさらと食べられてしまう。実際のところ、溶かれた味噌の量は多くて口当たりは一般的な味噌汁よりもったりしているのに不思議なものである。

京都で身近な甘い白味噌は、関東ではさほど馴染みがないかもしれない。私は料理好きの母の影響だろうか、もともと好きだったから3日間も続けて白味噌の雑煮がいただける京都の年明けは、慌ただしい年末年始のご褒美のように思えて楽しみになってしまった。三が日を過ぎても、しばらく正月気分が抜けずにかなりの頻度で白味噌汁を作ってしまうのだが、ある時豚肉を入れてみたら、これが上品な味わいでしみじみ美味しく、はまってしまった。まったりとした味わいの汁に、春らしく菜の花の苦味を加えることで全体が程よく引き締まる。

白味噌は、色も味わいも異なるためわかりにくいが、信州味噌や仙台味噌と同じ米味噌に分類される。米麹を使うことに共通点があるものの、白味噌は大豆を茹でてメイラード反応を抑えることで他の味噌との色の違いを生んでおり、味に関しては、大豆に対して麹の割合を多くするほど甘くなる。この時、どのような米麹を使うのか、そして塩分をどのくらいにするか、作り手の考えによって違いが出るので、好みのものを見つけると日々の食卓に登場する機会が増えそうだ。

今回の器は室瀬和美さんの黒漆夫婦椀で、結婚祝いに頂戴したもの。シンプルで飽きが来ず、手の平にしっくり収まる。そしてきりっとしているので、日常でありながら使う度に背筋が伸びる。温かいものが冷めにくいのに、手で持ってもさほど熱さを感じることがなく、なんて理に叶っている器なのだろうか。

食べ物を盛る器の中で唯一、直接口をつけるのが漆のお椀だ。木地が土台になっていて、その上から漆の木の樹液を塗り重ねており、他の材質の食器に比べて随分と軽い。漆の樹液は、木に負担をかけて取り出していて、人間にとっての血液のような樹液が使われていることを思うと、まるで木の魂が形を変えて器に宿っているように感じる。

漆の椀と言えば、だいぶ前のこと、憧れの方の使っていたお椀を形見分けにいただいたことがある。気に入って毎日使っているうちに遂に漆が剥がれてしまった。塗り直しをしていただいて、見栄えは新しくなってしまったけれど、私が覚えている限り、前の持ち主の記憶がそこには刻まれていて、それをまた誰かが引き継いでいくのだろうかと先々の器の行方が楽しみである。


【白味噌豚汁】材料 2人分

・水 500ml

・昆布5g

・鰹節10g

・白味噌 80〜100g

・薄口醤油 小さじ1

・塩 2つまみ

・豚肉(しゃぶしゃぶ用) 100〜150g

・大根 4分の1本

・菜の花 適宜

・柚子の皮 適宜

・山椒粉 適宜


1、出汁をとる。水に昆布を入れて極弱火で火にかけ60〜70度を30分程維持する。火をつけたり止めたりしながら温度を維持するか、目安の温度に達したら火を止めてそのまま置いても良い。

※高温になるとぬめりが出るので気をつける

2、昆布を取り出して、再び火にかけ沸騰させる。火を止めて、鰹節を入れる。1〜2分経ったら、キッチンペーパーの上から静かに濾す。

3、具材に火を通す。大根は皮を厚めに剥いて、輪切りにして水から茹でる。すっと串が刺さる柔らかさになったら冷ます。菜の花は、茹でて冷水に取る。

4、茹でた大根は、スプーンで1口大になるように切る。

5、出汁に、塩、薄口醤油を加え、白味噌を溶く。味見をしながら好みの濃さに調整する。

6、上の出汁に1口大にカットした大根を入れて火にかけ、豚肉を加えてさっと火を通す。

7、器に大根と豚肉を入れてから汁を張り、菜の花を添える。山椒と柚子の皮を散らす。

身体が温まる甘くて濃厚な白味噌豚汁。特に寒い日にはぜひお試しいただきたい一品だ。

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。 Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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