2021年もあっという間に終わりに近づいている今日この頃。幼い頃に比べて、時の流れが早く感じられるようになり、年の瀬が訪れる度に来年こそは一瞬一瞬を確実に掴みながら過ごさなければと決意するのだが、やはり今年も1年がそそくさと過ぎてしまった。

この時期になると、フランスのビストロの混み合った店内で老夫婦が小さなテーブルに向かい合って座っていた姿が目に浮かんでくる。寒い真冬のある日、店員がストウブの鍋をテーブルの中央に置いて蓋を開けた瞬間に、もわっと湯気が立ち込める。横の窓硝子から差し込む光を背景に本当に神々しかった。その時一人で食事をしていた私は、家族と美味しいものを分かち合えることを羨ましく思った。その光景に出会ってからというもの、熱々の鍋や耐熱皿の縁がグツグツ湧いているのを見ると、そこに人の幸せが凝縮していると感じられるようになった。そういう瞬間の積み重ねがこれからの長い人生をより豊かにしてくれるに違いない。

時短に重きが置かれることの多い昨今、それとは別のベクトルで、時間をかけることで生まれるゆとりが好きだ。そして一朝一夕では生まれない味というものが確かにある。何度も鍋の中を覗いては味見を繰り返し、そこからの音の変化に耳を傾けながら読書をするような時間、日常生活でこれほど五感を豊かに使う機会が果たしてあるだろうか。今回は、家族や友人たちと年末年始だからこそいただきたいラザニアをご紹介する。

ラザニアとはボロネーゼソース、ベシャメルソースと横長の薄いパスタを交互に重ねて焼き上げたイタリア料理で、私たちに馴染みがあるのはこのボローニャ風ラザニア。一方、同じイタリアでもベシャメルソースの代わりにリコッタチーズに卵、サラミなどを使ったナポリ風ラザニアという趣の異なるものも存在している。

ラザニアの語源は、古代ローマ人が使っていたラヌサムという浅い鍋から来ており、ラヌサムを使って作るパスタ料理をラザニアと呼ぶという説のほか、ラテン語のラガヌムつまり薄くて四角い形状のものに由来するという説も有力だ。14世紀にはすでに料理本の中に登場するが、とはいえ当時から現在イメージされるラザニアがあったわけではなく、そもそもトマトはまだイタリアにもたらされていないし、今のように何層にも重ねたというものでもなかったようだ。そう考えると、現在のスタイルのラザニアは18世紀から19世紀という比較的最近完成したものといえよう。



今回のお皿(手前のもの)は、2020年に惜しまれつつ幕を閉じた芝のフランス料理の名店クレッセントで使用されていた大倉陶園のディナープレート。金の縁取りがあることで、シンプルながら華やかで年末年始にぴったりの特別感のある食器である。



ラザニア(2〜3人分)

材料

○ソフリット

・玉ねぎ(みじん切り) 1個

・人参(みじん切り) 2分の1本

・セロリ(みじん切り) 2分の1本

・オリーブオイル 適宜

○ボロネーゼソース

・牛挽肉 300g

・合い挽き肉 200g

・ニンニク(みじん切り) 2個

・赤ワイン 150ml

・トマト缶 1個

・トマトペースト 20g

・ローリエ 1枚

・オリーブオイル 適宜

・塩 適宜

○ベシャメルソース

・小麦粉 50g

・バター 50g

・牛乳 500ml

――――――

・ラザニア 6枚程度(使う型に合わせた枚数)

・シュレッドチーズ 適宜



①ソフリットを作る。鍋の全体に広がるくらいたっぷりのオイルを広げ、玉ねぎ、人参、セロリの微塵切りを飴色になるまでゆっくり30分ほど炒めて取り出しておく。油の中で揚げ焼きするようなイメージで。



②ボロネーゼソースを作る。鍋底一面に広がるくらいたっぷりのオイルを広げ、挽肉を一気に入れて触らずにしっかりと焼き色をつけて、裏返す。裏面も同様に焼き色をつける。全体にしっかり火がまわったらニンニクを加え、赤ワイン(カベルネ)を加えてアルコールを飛ばす。ここへ、①のソフリットを加えて、トマト缶、トマトペーストを入れる。空いたトマト缶に水(分量外)を入れて、水の分量がヒタヒタより少し多いくらいになるよう鍋に加える。ローリエを入れて、そのまま火に1時間から1時間半程度かける。途中で水分が減りすぎると焦げてしまうので、随時水を加えながら調整する。分量外の塩で随時味を整える。





③ベシャメルソースを作る。鍋にバターを入れて溶けたら、小麦粉を加えて木べらで混ぜる。最初は硬いテクスチャーだが、段々とろみのある質感に変化し、クッキーを焼いた時のような香ばしい香りになったら(決して焦がさないように)




分量の牛乳を3回に分けて加える。この時は、泡立て器で手を絶えず動かしながら、ダマができないように混ぜ続ける。できあがったら、素早く別の容器に移して表面にぴったりとラップをかける。温かいうちにすぐに使うようにする。






④ラザニアを茹でる。たっぷりの湯を沸かし、分量外のオイルを加えて指定の時間茹でる。茹で上がったら、鍋から取り出して一枚一枚に丁寧にオイルをかけておくと、くっつかずに使いやすい。

※茹でずに使えるラザニアも売っているので、これを使えば手間を省くことができる

⑤耐熱皿に分量外のバターを塗っておく。ラザニアを耐熱皿に満遍なく広げるが、サイズが合わなければ生地をちょうど良い大きさにカットして一面が埋まるように工夫する。





ラザニア→ボロネーゼ→ベシャメル→ラザニア→ボロネーゼ→ベシャメル→ラザニア→ボロネーゼ→ベシャメルの順に3層になるように盛り込む。




たっぷりとシュレッドチーズを広げて200度のオーブンで20分程度焼く。




⑥焼き上がったら、食べやすい大きさに切って盛り付ける。葉野菜やパセリ等を添えても。







手間暇かかるラザニアだが、事前にソフリットとボロネーゼソースは作っておく事ができるので、一度の作業量は減らすことができる。また、型に詰めた状態まで作っておけば、一晩は全く問題がない。お客様の来る当日はチーズを乗せてオーブンに入れるだけということもできるので、ぜひお試しあれ。


料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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