昨年4月、まさに世界的な感染症流行が始まった真っ只中に、敢えて開業に踏み切ったホテルが、この4月に元気に1周年を迎えました。JR東日本グループオリジナルのホテルブランドは、かつて自社グループ内にはなかった高級感を纏い、日本流の繊細なディテールを追求し、デザインにも手を抜かないこだわりのホテルとしてデビューしました。

 東京ベイエリアの高層階から見るパノラミックな情景は、眼下に緑美しい特別名勝・特別史跡指定「浜離宮恩賜庭園」を望み、ホテル周囲を東京湾に注ぐ運河に囲まれた爽快なアーバンリゾートの様相を見せています。この環境を知れば、メインのコンセプト「TOKYO WAVES」と「五感を魅了する」という言葉には誰もが納得するでしょう。ところでメズムの語源をご存知でしょうか?英語に「メズマライズ」という言葉があります。意味は‘魔法をかける、魅了する’という意味があるといいます。まさにその通り、この館内にいると、なんだか意味もなくワクワクし、気持ちが高鳴ってくるから不思議です。


16階のロビー。高い天井に飾られているのがたゆたう水面と揺らぐ光をイメージしたアートワーク。


ロビーにあるフロントデスク。両端のアートは折り紙アートで‘ミウラ折り’の「Water Wings」。ミウラ折りは1970年に東京大学宇宙航空研究所(現・宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)の三浦公亮(現・東京大学名誉教授)が考案した折り畳み方。


 開業初年度には、『ミシュランガイド東京2021』において「極めて快適(Top class comfort)」を示す「4パビリオン」に選ばれ、それをきっかけに、ホテルの快適さがあっという間に広く知られるところとなりました。ホテルは、26階建ての複合タワー内に入り、16階から26階までを占有しています。客室数は全265室、大き過ぎないホテルのお陰か、ゲストとスターサービスクルー(接客部門のスタッフ)との距離感にも温かみを感じます。

 一見すると一般のスタイリッシュなデザインホテルにも見えますが、実は、デザインは私たちのライフスタイルすべてにあるように、このホテルもひとつひとつのこだわりに満ちています。すべてをここに書き記すのは難しいですが、そのディテールについて幾つかご紹介しましょう。総支配人の生沼久氏を筆頭に、様々な分野のアーティストや専門家、キュレーターらが関わり、「メズム東京、オートグラフ コレクション」は、日本のホテルらしいアートワーク満載のホテルとなっています。

 まずはクルーです。彼らは男女ともに同じ黒を基調としたヨウジヤマモト社 のブランド「Y’s BANG ON!(ワイズ バングオン)」とコラボレーションしたオリジナルユニフォームを纏っています。そして着こなし方、髪形、髪の色、メイクに至るまで、一人一人にカスタマイズされ、それぞれにプロのアーティストによって監修されたスタイルで働いています。たとえば、総支配人の髪形は、日本のホテルでは見かけないポンパドールヘア(これは総支配人独自のスタイルでもあります)、他にも金髪の女性クルーや、また副総支配人の丸刈りスタイルと顎鬚、中には長髪のクルーもみかけます。開業以来、トータルにデザインされたホテルの方針のひとつが、クルーのスタイルのこだわりなのです。


ガーデンビューからの景色。眼下の緑の庭園は「浜離宮恩賜庭園」、ウォーターフロントの情景と共に快適な景色が楽しめる。


客室「チャプター3 スイート キング」からの夜景。


 館内の意匠デザインは、1階のエントランスから‘水’や‛波’に終始し、あれも、これも…とほとんどが‘水’や‘波’に起因しています。ロビー階では、フロントデスク両側の大きなアートワークが印象的ですが、これらはホテルコンセプト「TOKYO WAVES(東京の波長)」を表現した「ミウラ折り」の飾りで、伝統と革新の融合を感じます。ロビーの一角には、波を表現した大画面のデジタルアートがあり、人が前を通るたびに感知し、画面モニターには不思議な波模様が変化して現れます。そしてロビー階の天井一面には、たゆたう波のきらめく水面をイメージしたアートワーク‘SURFACE’が表現されています。

 一方、ロビーに流れる心地いい音楽はBGMではなく、FGM(フォアグラウンドミュージック)と、ここにもこだわります。「聞き流すのではなく、聴き入る音楽を」とデザインされ、ゾーニングを施し、時間帯や場所によって刻々と変化する多様なジャンルの音楽を、音が邪魔をせずに楽しんで聴いてもらえるよう、専門的な音響設計が成されました。


すべての客室内にデジタルピアノ「Privia(プリヴィア)」が置かれ、周囲を気にせず自由に演奏が楽しめる。


数日間かけて作り出される、シェフ渾身のチキンブイヨンは絶品。


コース料理のスタートを飾る‘アミューズ’の一例。彩もプレゼンテーションも美しく、そして香り高く美味しい。


メインダイニング「Chef’s Theatre」の内観、天井からはカッパー製のアートワーク‘YAGASURI’が飾られている。本格的なフレンチを「ビストロミ―」スタイルとして提供する好評のダイニング。


 ライブ感はホテル自慢のレストランにもデザインされています。広いオープンキッチンでアクティブに調理されるのは、本物志向を貫くキュリナリーマイスター(総料理長)のフランス料理が独創的なスタイルで提供される「シェフズ・シアター」です。‘ビストロノミー’というカジュアルなビストロ料理と美食を意味するガストロノミーを融合させた美味しい料理が楽しめます。フランス料理の基本は変えず、新しさを加えたオリジナル料理は、時に繊細で時にダイナミックな新しさを感じさせてくれます。また、シェフ渾身のコンソメスープは絶品で、感動的なほど。朝食「メズム・ブレックファスト」には定番としてこのスープが並ぶそう、狙いは朝食です。


会員制のプライベートサロン「Club mesm」内観。ジャパンクオリティにこだわったアルコールのラインナップは多彩。ペアリングで楽しめる自家製スイーツやおつまみ、ソフトドリンクも多数用意。


 一方、開業1周年を迎えたホテルでは、25階に会員制のプライベートサロン「クラブメズム」が新たに誕生しました。「JAPAN FLOW」をコンセプトにしたサロンでは、ジャパンメイドにこだわった数々の貴重なアルコール類のフリーフロー、自家製スイーツやおつまみ、ハンドドリップでいただく日本茶をはじめとしたノンアルコール等を楽しむことができ、さらにこのサロンを利用できる特典付きの宿泊プランもあるとのこと。開業以来、進化し続けている「メズム東京、オートグラフ コレクション」では、多くのこだわりのお陰で、すでに顧客人気に火が付いているようです。


取材・文/せきねきょうこ

Photo:メズム東京、オートグラフ コレクション


せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。

http://www.kyokosekine.com

DATA

メズム東京、オートグラフ コレクション

東京都港区海岸1丁目10-30

📞 03-5777-1111

https://www.mesm.jp/

料金:1泊朝食付き

館内施設:レストラン、バー&ラウンジ、プライベートサロン、フィットネス、バンケット他

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