刺身や干物、フライからオーブン焼きまで数え切れないほどのバリエーションで私たちを楽しませてくれる鯵。干物は典型的な朝ご飯の定番だし、なめろうはお酒のあてとして申し分なく、フライが並んだ日はご馳走だと食卓が盛り上がる。日本人にとって鯵は、食べる頻度の高い魚の上位に入るであろう。

 新井白石曰く、

「アジとは味なり その味の美をいうなり」

またある人は、魚の味が美味しくて参ってしまうほどであるというところからその漢字の成り立ちを解き明かし、鯵(魚+参)と呼ぶとか、鯵の名前の由来についての考察がなされてきた。いずれにせよ、味が良いから「あじ」という意見に反対する人はいないのではないか。

さて、今回は鯵の散らし寿司をご紹介する。ちょうどハウスの新生姜と旬が重なるので、新生姜の甘酢漬けと一緒にさっぱりといただけるようにした。レモンの皮、花穂紫蘇、ディルと合わせて爽やかな一皿を楽しんでいただきたい。

鯵のちらし寿司

―材料(2人分)

・鯵 2尾

・塩 適宜

・米酢 適宜

・炊いた米 2膳分

・胡麻 2g

・ろく助白塩(なければ普通の塩) 2つまみ

・ディル 適宜

・レモンの皮 適宜

・花穂紫蘇 適宜

○寿司酢

・米酢 25g

・砂糖 12g

・塩 5g

○新生姜の甘酢漬け

・新生姜 1個

・米酢 50g

・砂糖 25g

①鯵を3枚おろしにする。


まず、ぜいごの処理をする。尾から包丁を入れて、前後に動かしながら取る。


次に頭を落として内臓を取り出し、丁寧に中を洗う。


包丁を背中側から入れて、骨に当たったらお腹側からも切れ目を入れる。


尾の少し手前に包丁を貫通させ、包丁の向きを変えて尾と逆の方向に包丁を滑らせて卸す。


両面に塩をしっかりと振って、表面に水分が浮いてくるまで15分〜30分を目安に冷蔵庫で休ませる。

②骨を抜いて、水洗いをして、水分を拭き取る。皮側を下にして、分量外の米酢をひたひたに注いで1時間ほど冷蔵庫へ。酢から上げて、皮側を合わせてクッキングペーパーで包んで使うまで休ませる。

※アニサキスが心配な場合には、ブラックライトを当てて確認すると安心。


③鯵は使うタイミングで、皮を剥いて、2センチ幅に切る。

④寿司酢を作る。分量の米酢、砂糖、塩を温めて溶かしておく。


⑤新生姜の甘酢漬けを作る。分量の米酢と砂糖を温め、漬け汁とする。スプーンで新生姜の皮を剥いてから薄くスライスし、沸騰した湯で1〜2分ほど茹でてから、ザルに上げて自然に冷ます。冷めたら、先に用意しておいた漬け汁で保存する。

⑥酢飯を作る。温かい米に、寿司酢の半分程度を回しかけ、胡麻と、ろく助白塩を加える。味見をして好みの味に整える。

⑦器に、酢飯を盛り、その上にガリを満遍なく広げる。さらに鯵、ディル、レモンの皮、花穂を散らす。好みで醤油をたらしても。


器はマルガレーテンヘーエ工房(ドイツ)の石岡祥子さんによるもの。

2009年に主人が日本人スタッフとして働いている石岡さんを現地に尋ねた際に頂戴したお皿だ。そのままドイツから、イタリア、ニューヨークと旅したが、エアーパックでぐるぐるに梱包して無事日本に持ち帰ったそうだ。

マルガレーテンヘーエ工房は、エッセンの世界遺産ツォルフェアアイン炭鉱業遺跡のすぐ横に位置する陶芸工房で、20世紀初頭クルップ財閥の3代目当主フリードリヒ・アルフレート・クルップの妻、マルガレーテによって設立されたアーティストコロニーに始まりを持つ。モダンデザインの先駆けとなったバウハウスの機能主義的な理念をもとに、1987年には韓国出身の李英才(リー・ヨンツェ)氏がディレクターに就任し、食器を中心に制作している。


今回使った平鉢はどんな料理もすんなり受け入れてくれるので、何も考えずに手を伸ばすと、この器であることが多い。作者の意図の強い器は、時にうるさく盛り付けるものを選ぶことがあるが、マルガレーテンヘーエ工房のものはそれとは対極にある。手の込んだ料理も合えば、果物をそのまま置くだけでも様になるように思う。

Keramische Werkstatt Margaretenhohe(マルガレーテンヘーエ工房)

http://www.kwm-1924.de


料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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