19世紀にフランスで活躍したエドゥアール・マネ。それまで裸体を描くのは、神話画もしくは歴史画でというのがお約束だった時代に《草上の昼食》と題し、ピクニックの場面に現実の女性のヌードを描いたことでセンセーショナルな話題をもたらした人物だ。

彼は50歳手前で体調を崩し、片手に収まるほどの小さな静物画を手がけるようになる。その中に、アスパラガスを描いたものが2枚ある。1枚は20本ほどのアスパラの束がテーブルの上に置かれた絵。この絵を手に入れたコレクターは、余程気に入ったのか、800フランの値が付けられた作品に対して、1000フランを支払った。すると、マネからもう1枚、別の絵が届けられた。それは、テーブルから落ちそうな位置に1本だけ置かれているアスパラの絵だった。そして、こんな言葉が添えられていた。「あなたのアスパラの束から、1本抜け落ちていました」と。

アスパラガスにまつわるストーリーは尽きない。太陽王と呼ばれ、権力をほしいままにしたルイ14世が望んだものは、ほかでもない、ホワイトアスパラガスだった。ヴェルサイユにある王の菜園の責任者に命じて、いつでも食べられるようにと栽培させたのだ。春の象徴のようで、この季節だからこそいただきたいものだが、そのことを思うと、ルイ14世は相当にお好きだったのだろう。


ところでホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガスの違いを、ご存知だろうか?この2つは同じ品種で、単に育て方が違う。グリーンは太陽の光を浴びて成長し、ホワイトは遮光して育てる。このことにより、ホワイトは口当たりも香りも柔らかくなる。一方でグリーンは、独特の緑っぽい香りと、シャキッとした食感に。日本で生まれ育った私は、グリーンの方が馴染みがあるし、嬉しいことに栄養価もこちらの方が高い。栄養ドリンクでもお馴染みのアスパラギン酸も豊富なので、疲労回復などの効能も期待できる。

さて、今回は私の好きなグリーンアスパラガスの食べ方をご紹介する。カリカリのパルメザンチップスと、生ハム、それからレモンを効かせた軽めのオランデーズソースで、あっさりとした一皿に。


お皿はリチャード ジノリのべッキオジノリホワイト。18世紀から作られている最古のシリーズの一つとあって、流れるような格調高いデザインが、料理をアップグレードさせてくれる。イタリア生まれの真っ白のパレットに、絵を描くような気持ちで自由に盛り付けたい。


グリーンアスパラガスのソテー


―材料(2人分)

・アスパラガス 4~5本

・バター 5g

・塩 1つまみ

・生ハム 好みの量

【オランデーズソース】

・卵黄 1個

・レモン汁 5g

・水 5g

・バター 15g

・塩 1つまみ

【チップス】

・小麦粉 3g

・パルメザンチーズ 3g

・水 20g

・オリーブオイル 5g

① チップスを作る。チップスの材料を全て合わせて、よく混ぜてからフライパンに広げる。中火で焼く。火が通ると自然と浮いてくるので、フライパンから剥がして冷ます。



②アスパラガスの下処理をする。両手でアスパラガスを持って、しならせると折れる。先の方が柔らかくて食べられる部分。包丁をあてて、はかま(三角の葉)を取る。食べやすいように1本を2等分に切る。


③沸騰した湯に分量外の塩を入れ、アスパラガスを2分程度茹でる。冷水にとって、水気を拭き取る。それから5gのバターでさっと炒め、塩で味付けする。

④オランデーズソースを作る。バターをレンジで溶かしておく。ボウルに、卵黄、水、レモン汁、塩を入れて混ぜる。これを65~70度くらいの湯煎にかけて泡立て器でひたすら混ぜる。はじめのうちはフワッとしてから、次第にもったりしてくる。テクスチャーがリボン状に変わったら湯煎から外して、溶かしたバターを少しずつ加え、乳化するようにしっかりと混ぜる。
※温度が高すぎると卵が固まってしまうので、もしボウルの内側がカサついてきたら湯煎から外して混ぜるように。また、冷めると固まるソースなので、食べる直前に作るようにしたい。



⑤盛り付ける。器にソースを乗せ、ソテーしたアスパラ、生ハム、チップスを散らす。写真には、生のアスパラのスライスとレモンの皮の細切りも乗せている。
アスパラの一皿で春の爽やかな香りを楽しんでいただきたい。


リチャード ジノリ
https://richardginori.co.jp




料理家 千 麻子

美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。その後美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。旅先で出会い、心に残った食べものを再現することが日々の愉しみ。
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