冬から春にかけて、日本では風邪や花粉症の季節ということもあって「マスク」をつけることが多くなる。街なかでのマスク姿も、この国ではあたりまえの光景だ。

それが欧米では事情が違ってくる。人が日常生活でマスクをつける機会はほとんどなく、病院内などかなり特別な場合に限られる。通りでマスクをしていれば、むしろ「あの人はよほどの重病かしら?」と思わせるほど違和感が漂う。というより、時に咳き込むような状況があっても人前でマスクをつける人はほぼ誰一人いない。

こうした習慣の違いがあるところに、新型コロナウィルスの感染は起きた。

ふだんマスクをしない国では、マスクを着用すること自体のハードルが高いうえに、そもそも薬局などでもマスクの扱いがほとんどない。しかし、感染を防ぐために口や鼻を覆うのが望ましいのは世界どこでも同じ。そんななかヨーロッパの人々のあいだでは、自前でマスクを用意する動きが活発になっている。



バンダナやスカーフで口元を覆う人もいれば、ともかく顔を包もうと被り物をする人も。またどうせ身につけるなら、かわいい、かっこいいマスクをしようと、気に入った布や身近な材料を使って自ら作り出す人が増加。クチュリエ(裁縫職人)やクリエイターを中心に、マスクづくりのノウハウや裁断パターンをSNSで公開したり、「売ります・あげます」系のウェブサイト、あるいはアプリを利用した独自の流通も始まってきた。

インスタグラムを使ってマスクの作り方を伝授する人も。@our.vie.en.rose/

日本人ならマスクがどういう構造かがだいたいわかるが、彼らにはその予備知識もない。手探りで作り方や工夫を交換しあうSNSのやりとりも、なかなか興味深いものがある。たとえば「アジアからきたマスクには鼻のカタチに合わせるために細い針金が入っている」と聞けば、「普通の針金を入れたけど、痛いからパン屋でもらう留め金のほうがいい」。「耳に掛けるゴムがない」の声には「使わなくなったTシャツを切って使うと伸び縮みするので割といける」など。こうしたノウハウ伝達の早さは、SNSの時代ならではだ。

鼻の部分にはパン袋の留め金が入れられるように工夫。

フランス人はマスクにもセンスが光る。男性で花柄が似合うのも彼の地ならでは。

強力な外出制限が敷かれて、フランス、イタリア、スペインを中心としたヨーロッパの国では、人々は家にいることを義務づけられている。テレワークで仕事をする大人も多いが、やはり家族でいれば一緒に映画やドラマを見て時間を過ごしたり、料理やクリエイションをしながら「想定外のライフスタイル」を工夫する。TVやラジオでは旅行やスポーツ番組の代わりに、手軽で美味しいクッキングや家でできるレクリエーションを伝授する番組も増えた。

顔の上に顔、マスクの上に口、などお茶目なスタイルもたくさん。

いつもなら、外でピクニックをしたり、レストランやカフェのテラスで友人と楽しいひとときを過ごしたり、ドライブに出かけたりしたい季節。家での時間を少しでも明るい気持ちで過ごしたい・・・。そうした思いも、人をかわいい手作りマスクに向かわせるのかもしれない。

縫製の得意な人は家族や友人のぶんを作ったり、必要なところに寄付したりも。

慣れないマスクをしながらも、子供たちは家族一緒のおうち時間を楽しでいるかのようだ。

ほかにも、新型コロナウィルス感染防止の啓蒙も兼ねたマスクのデザインコンクールが行われたり、SNSの世界ではたとえばインスタグラムで「#mask」が1000万投稿を超えるなど、「マスク」は早くもあたらしい日常の一部になりつつある。日本でも手作りマスクを手がける人が増えているという。

非常時にあっても、デザインやアートの発想で暮らしに工夫を加え、それを乗り越えていこうとする人間のパワー。ウィルスに打ち勝つ科学の力と、それに負けない世界の人々のマインドが、この状況に光を見いだしていくことを願ってやまない。

文・杉浦岳史

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