私はとんかつが好きで、激戦区では果たしてどれだけの時間並んだのか、わからないほどだ。ある時、これだけ想っていたはずのとんかつについて何一つ知らないことに気がついてしまい、早速そのルーツについて調べてみた。そしてたどり着いたのは「ミラノ風カツレツ」だった。ミラノ風カツレツとは、薄く叩いた仔牛肉に細かいパン粉をつけて、バターの香ばしい香りを移しながら揚げ焼きにしたイタリア料理である。

そもそも「ミラノ風」とは、かつて金融都市として栄えたミラノの金塊から連想したもので、黄金色の料理の枕詞のようなものである。この場合カツレツの茶色の衣を金色と捉えたのだろう。本場では仔牛で作られるが、日本では煉瓦亭がカツレツを初めて国内に紹介した際に使った肉が豚であったことから、豚肉のカツレツが浸透した。しかしレストランでは何枚ものカツレツを焼くのには手間がかかることから、次第にたくさんの油の中で、より多い数を調理できるとんかつが生まれたようだ。ミラノ風カツレツは、とんかつとは異なり、少量の油で火を通せることから、調理が手軽である。そして薄いのにも関わらず、御馳走感があるところが嬉しい。これまでに厚手の肉に細かいパン粉をまぶしてみたり、薄く叩いた肉に大きめのパン粉をつけたりもしてみた。決して悪くはなかったのだが…、やっぱり何かが違った。当たり前に思われているような組み合わせは先人の研究成果なのだとつくづく実感した。

さて、今回のミラノ風カツレツはミニトマトでフレッシュ感のあるソースを作り、香ばしいカツレツと組み合わせていただくようにした。ポイントは細かいパン粉を2度づけすることだ。

器はフランスの陶器ブランド、ジアンの中皿を使った。(メインの皿以外は別ブランド)フランス製アンティークの魅力は、レストランで使われることの多いかっちりした皿とは違う、柔らかさと素朴さにある。私はその特徴を生かして煮込み料理やカジュアルな前菜、それから米料理を盛り付けることが多い。総じて気張った料理よりも、肩の力が抜けたようなものが合うと思う。


<ミラノ風カツレツ>

材料 2人分

・豚ロース肉(とんかつ用) 2枚

・パン粉(細かいもの) 適宜

・卵 1個

・パルメザンチーズ 10g

・米油(オリーブオイル、サラダ油) 適宜

・バター 15g

<ソース>

・ミニトマト 10個

・塩 適宜

・醤油 2g

・レモン 適宜

・パセリ 適宜

①トマトソースを作る。ミニトマト10個を半分に切り、分量外の油で炒める。塩を加えたら、分量外の水をひたひたになるように足して煮詰める。皮がくたくたになり、全体的にとろみがついたら、ソースを漉して、塩ひとつまみと醤油でメリハリのある味付けにする。

②カツレツを作る。豚ロース肉の周りの脂があれば包丁で切り落とす。サランラップで上下を挟み、棒や肉叩きなどで均一に叩いて薄く伸ばす。両面にしっかりと塩を振る。

③パン粉に5gのパルメザンチーズを混ぜておく。別の器には、卵とパルメザンチーズ5gを混ぜておく。まず豚肉に、パン粉を叩き込むようにつける。これを卵液にくぐらせ、再度パン粉をつける。

④フライパンに、肉の高さの半分程度がかぶる量の油を入れて160度近くまで温度を上げる。ここへ豚肉を入れて、時々フライパンを揺すりながら焼き色をつける。側面で焼き上がりの色をイメージしながら、こんがりと色がついてきたら裏返して、バターを加える。泡立ったバターを肉にかけながら火を通す。裏面も香ばしく色づいたらフライパンから取り出す。

⑤皿に冷やしたトマトソースを広げて、上から温かいカツレツを乗せる。さらにパセリとレモン、好みでクレソンを飾る。

今年のクリスマスは自宅でゆっくりとミラノ風カツレツを作ってみてはいかがだろうか。


今回はフランスアンティークの食器や雑貨を扱っているお店をご紹介する。

所狭しと並ぶ魅力的な雑貨の数々。自宅ショップはまるでフランスでブロカント巡りをしているような気持ちになる空間で、きっと好みの物が掘り出せるはず。東京近郊の骨董、蚤の市に出展することも多いそうなので、お好きな方はぜひ足をお運びいただきたい。

粋気者(すきしゃ)

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料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。旅先で出会い、心に残った食べものを再現することが日々の愉しみ。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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