在京局でアナウンサーを務めていた白石小百合さん。魅力的な笑顔と素直な人柄で視聴者の人気を集め、経済番組やスポーツ番組など幅広く担当した。現在はフリーアナウンサーとして活躍する一方、2017年4月に香りブランド『Whitte』(ウィッテ)をスタート。「言葉」と「香り」、人の感性に働きかける二つを操る白石さんに、フレグランスデザイナーとしての活動についてうかがった。
思い切ってアナウンサーから転身
――香水の世界に飛び込んだきっかけはなんですか?
実は、局アナの若手時代に、突然声が出なくなってしまったことがあったんです。たぶん、仕事がとても忙しかったからだと思うのですが、そのうち味覚も感じなくなってしまって、1週間くらい仕事を休むことになりました。本当につらかったですね…。
でも、もう一度香りの勉強を始めたら、自然と感覚が蘇ってきて、体調が戻ったんです。そのとき、香りの可能性を体感し、この世界へ飛び込む大きなきっかけになりました。
――そもそも、なぜ香水に興味を持ったのですか?
中学3年生の頃、学校の語学研修でニューヨークに行ったとき、五番街へ出かけました。たまたま、あるブランドショップに入ると、店員さんにこんなことを言われたんです。「ブランドもののバッグや靴を購入したがる日本人は多いけれど、まず、そのブランドに似合う女性になるべき。自分を高める努力をしてこそ、初めてそのブランドを身につけるのにふさわしい女性になれるのよ」。そして、「自分を高めるために、まずは香水をつけてみなさい」と。
まだ中学生でしたが、その言葉にとてもインパクトを受けて、人として、また、女性としての魅力を高めるものとして、香水にとても興味が湧いたんです。
――香りの調香をされるようになったのはいつ頃からでしょうか。
子どもの頃から真似ごとのようなことはしていましたが、本格的に学び始めたのは数年前からです。まだまだですが、「こんな香りを作りたいな」とイメージした通りのものが出来上がったときは、とてもうれしいですね!
でも、日本では香りの文化が根付いていなくて、香水ってあまり一般的ではないと感じます。もっと多くの方に香りの魅力を知ってほしいと思って、2017年に『Whitte』を立ち上げました。
ファーストフレグランスにも
――どんな方が購入されているのでしょうか。
『Whitte』は、香料をふんだんに使っているのに柔らかく、あまり頭が痛くなりにくいなどと言ってくださることが多い香水です。ですから、ファーストフレグランスに選ばれる方や、香水が苦手という方にも手に取っていただくことですね。また、思った以上に男性のお客様がほとんどで、私自身も驚いています。
ボトルもひとのボディをイメージしていてちょっとフェミニンなデザインなのですが、細いのでバッグの中にさっと入れられる大きさで、意外にも男性にも好評なんですよ。
――どの香りが人気ですか。
一番人気は「#05White Tea」ですね。ホワイトティーは作るのに大変手間のかかるお茶で、昔は皇帝や貴族しか飲めないとされていたそうです。香り立ちが華やかで、後から落ち着くような香りとほのかな甘み、ホワイトティーならではの高貴な気品を香りで表現しました。
実は、その香りをつけるようになってから、「仕事運が上がった」とご報告してくださるお客さまがとても多いんです。ここ一番という時の“勝負香水”としてじわじわ人気を集めています(笑)
――白石さんご自身は、日常で香りをどのように使っていますか?
大切な人に会うときや、お仕事をするとき、プライベートで寛ぐときですとか、シーンによって使い分けています。
普段、寝る前にはアロマオイルを炊くのですが、今、フリーアナウンサーとしての活動も並行して行なっているので、喉を大事にするため、ローズやユーカリの精油をブレンドして、オリジナルのオイルを炊いています。私にとって香りは生活の一部ですね。
香りでメッセージを伝えたい
――今、他業種とのコラボも積極的に行なっていらっしゃいますね。
今年6月はじめには、オペラコンサートとコラボして、“音と香りの饗宴”をお客さまに楽しんでいただくイベントを開催しました。4種類の香りをご用意して、その香りに合わせて歌を選曲していただいたんです。
――オペラと香りの饗宴とは、とてもユニークですね。
もともとオペラは人間の恋愛を喜怒哀楽モチーフにしたものが多く、ドラマチックですよね。演目中、歌にマッチする香りを漂わせたことで、歌手の方の表情がどんどん高揚していくのがわかり、とてもいい体験をさせていただきました。
もちろん、お客さまにもその香りが届くので、より一層、ダイナミックにオペラの魅力を感じていただくことができたと思っています。
――ほかにはどのようなコラボイベントを行なっていらっしゃるのですか。
フランス料理のシェフとコラボをして、香りに合わせてディナーコースを組んでいただいたり、バイオリニストの方と一緒に、演奏と香りを楽しめるコンサートを企画したり……。
香りの世界と普段はほとんど接点のない方と一緒にイベントを企画すると、私にとっても、とても良い刺激になるんです。シェフの方も、音楽家の方も、みなさん、ご自身の感性を大切にしてお仕事をしていらっしゃいます。だから、香りの感じ方や表現方法もとても個性的で、私自身、「そんな伝え方があったんだ!」って驚くことがあるんです。
以前、ワインのスペシャリストの方とイベントを行なったのですが、ワインのスペシャリストの方は普段、ワインのテイストを表現するとき、数十種類ほどの香り表現を中心にワインの魅力をとても魅力的に伝えていらっしゃいます。香水を表現するときも、ワインに関するご自身の知識や経験、ワインの香り表現とうまくリンクさせてくださって、私にとっても、知見が一層広がった経験になりました。今後もまたワインとのコラボレーションを考えています。
――商品でも面白い組み合わせをされていますね。
ご縁があって有田焼の職人さんと出会う機会があり、ディフューザーに採用させていただきました。ただ香りを作るための道具ではなく、インテリアとしてもふさわしい、デザイン性のあるものにしたい。そんな想いを形にできました。
今後も様々なコラボレーションを考えておりますし、商品や香りのバリエーションを広げていきたいです。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
現在はオンラインショップと首都圏の一部の店舗(伊勢丹新宿メンズ館、金谷リゾート箱根など)でしか、香水を販売していないので、もっとたくさんの人にお届けできるよう、販路を増やしていきたいですね。海外の方からもお問い合わせをいただくことが多いのですが、香水ひとつお送りすると送料がとても高額になってしまうんです。日本より海外のほうがフレグランスのニーズは高いですし、これからは海外での販売も視野に入れていきたいなと思っています。
香りは、とても感覚的なもの。だから、私の調合した香りが誰かに好んでいただけて、香りで誰かの毎日が彩豊かになったと感じていただけることが、この仕事の一番の面白さであり、やりがいです。
私はこれまでアナウンサーとして、言葉を使って想いや情報を届けるお仕事をしてきましたが、これからは、人間の感覚へダイレクトに伝わる「香り」というツールも使って、たくさんの方にメッセージを伝えていきたいと思っています。
(取材&文・鈴木博子 撮影・古本麻由未)
フレグランスデザイナー、フリーアナウンサー。法政大学国際文化学部卒業後、2010年4月にテレビ東京にアナウンサーとして入社。情報番組やスポーツ番組などでアナウンサーを務めたのち、2017年4月、香水ブランド《Whitte》を立ち上げる。香りのプロデュースやデザインだけではなく、みずから調香デザインも担当。料理や音楽などとのコラボも積極的に展開している。
Whitteホームページ:https://whitteinc.com/
instagram:@sayuri_whitte
Twitter:@sayurin1216