「Inspiration Life」では、さまざまな分野で活躍されている方のご自宅を訪ね、ルームツアーのように空間を巡りながら、暮らしと仕事のつながりを伺います。
今回ご登場いただくのは、レストランやカフェ、社員食堂など幅広い「食の空間」に携わるフードディレクター・浅本 充さん。 以前の記事では、手がけられた中目黒PIXにて、仕事への向き合い方についてインタビューをしました。
▶︎ 「旅先で得た感覚を重ねて、食の空間づくりへ」中目黒 PIXを手掛けるフードディレクター・浅本 充さん
今回は、自由が丘に暮らす浅本さんのご自宅へ。3層のスキップフロアになっており、1層目はバスルーム、2層目はダイニング、3層目を寝室として利用しています。

食を愉しむ暮らしが自然と仕事へ
――幅広く食のある空間づくりに関わるお仕事をされています。ご自身の食生活について教えていただけますか?
もともと食べることも、家を整えることも好きで、その延長に今の仕事があります。ジャンクフードも普通に食べますし、「自然なものだけ」とか「この産地じゃないと」みたいなこだわりもあまりなくて、今食べたいもの、気になっているものを食べていますね。
料理も好きで、レシピ本はたくさん持っています。この仕事をしていると、お付き合いのあるシェフの考え方を理解するために、そのシェフのレシピ本の料理をつくることは多いですね。家で食事をつくること自体が仕事にもつながることもあります。いただいた食材を試してみて、「ああ、こういう感じになるんだ」と新しい発見があったりして。だから外食はほぼしないですね。

――SNSに掲載されている朝ごはんもとても素敵です。
丁寧な生活をしているように思われがちなんですけど、よく見ていただくとわかりますが実際はトースターでパンを焼いただけ、みたいなことがほとんどですよ。コーヒーだって高級なグラインダーを使ったり、ハンドドリップで丁寧に淹れたりするのももちろん好きなんですけど、家ではもっと肩の力を抜いていて。音楽を聴きながらコーヒーメーカーで適当に淹れたコーヒーが美味しかったら、それが一番いいなと思うんです。

――ご自宅の空間づくりで意識していることを教えてください。
流行っているものや誰かが持っているものに左右されることはなくて、好きなものを有名無名、新品中古に関わらず持って帰ってくる癖があります。ただ、欲しいだけで買ってしまうと、連れて帰ってきた時に“先住の子”たちと合わないことが結構ある。だから大前提として、今ある家具や食器、今の生活の空気に馴染むかどうかを必ず考えます。ポスターひとつでも、買ってきて合わずにしまい込むとか、それに引っ張られて部屋全体が変わってしまう、ということはありません。もう十年前からそこにあったんじゃないかと思えるようなものを連れて帰ってきて置くことが多いので、物が増えても自然とまとまるのかなと思います。

――「好きなもの」は具体的に言うとどんなものですか?
神戸育ちなのですが、神戸って本当にいろんな文化が混ざり合っているんです。ヨーロッパやアメリカのものがあって、もちろん日本のものもある。中古家具店や雑貨店にも、そのミックスカルチャーがすごく良い形で表れている街なんですよね。
そんな環境で育ったからか、神戸らしいミックス感がとても好きで、ものを選ぶときも自然とその感覚が基準になっています。だから家にあるものも、ほとんどが神戸で買ったものばかり。仲のいいインテリア雑貨店があって、そこで買うことが多いです。食器棚もそのお店にお願いして、アメリカで買い付けてもらった百年くらい前のもの。本当にセンスが良くて信頼しています。
旅先で買い集めるヴィンテージ食器

――食器はどういった観点で選んでいますか?
食器も、もちろん自分の気に入ったものばかりで、ほとんどがユーズドなんです。ヴィンテージの食器が大好きで、旅先でも、海外でも日本でも、必ずフリーマーケットのような場所に行って食器を探します。なかでもアメリカのRussel Wrightの食器を集めています。様々な素材で作られているのですが統一感があるのが魅力ですね。

ほかに、塩コショウの容器や、ワインのコルクを集めるのが好きで、見つけたら買っています。

――旅先でいろいろと買い集めているんですね。
旅先で絶対買うと決めているのは、コーヒー豆とお菓子と食器。家に帰ってからも、どこで買ったとか、誰から買ったとか、そういう記憶がちゃんと残るのが良いんです。
最近では、釜山でコーヒーと熊本でハーブティーを買いました。人にプレゼントするのにも、ストーリーと一緒に渡せるのがいいんです。

――ご自宅での空間づくりが、仕事にも生きていると感じますか?
アーティストの方だと、自分が表現したいものや置きたいものを優先すると思うんですけど、僕はどちらかというと、クライアントの要望や空間にいちばん馴染むものを選んで置いていくタイプです。その意味では、仕事の空間づくりも自分の家と同じかもしれません。
仕事で「こうあるべきだ」という自分のこだわりを出しすぎるとどうしてもクライアントのみなさんに負荷をかけてしまうんですよね。だから、普段からできるだけ力を抜いて“ベストな美味しさ”とか“ベストな空間づくり”を自然にやるようにしていて、それはみなさんにも伝えています。「無理しないのが一番いいですよ」って。

余白のある暮らしが心地よさにつながる
――現在のご自宅で暮らすようになった経緯を教えてください。
僕のキャリアの最初のクライアントが自由が丘のIDÉEだったんです。だから自由が丘には本当に何度も通っていました。ずっと思い入れのある街で、いつか住みたいなと思いながらも、実際には一度も住んだことがなかった。今は一人だし、少し余裕もあるし、「じゃあ自由が丘でちょっといい家に住んでみようかな」と思って探していたら、ちょうどこの部屋が出てきたんです。不動産屋さん曰く、二人暮らしには収納が少ないし、一人には少し広いし、階段もあって、いい部屋なんだけど使える人が限られるということで空いていました。
僕は荷物を置くだけなので、それならむしろ合うかもと思って。
スキップフロアになっているので、ワンルームでもシチュエーションを作りやすいんですよね。フロアごとに雰囲気を変えられるし、よく模様替えもして楽しんでいます。

――家選びで重視されるのはどういう点ですか?
一番大事にしているのは、何もないこと。ここもそうで、壁は打ちっぱなし、ステンレスがあって、床は白。僕は床が濃い色の空間がちょっと苦手で。持っているものが、白い床に合うものが多いので、床が濃いと全体が重たく見えてしまうんです。だから床は白いこと、そして家に色がないことがすごく大事。わかりやすく言うと無機質な感じでしょうか。PIXの空間が好きなのも、たぶんその延長にあります。その無機質な空間に、お花を1輪飾るとか温かみのあるものを置く。そのコントラストがすごく好きなんです。
――ご自宅ではどのように過ごしていますか?
日中はダイニングに座って、レコードを聴きながらぼーっとしたり、仕事をしたり。
上のフロアは、リラックス空間なので、行くとついテレビを見てしまってだめなんですよ。寝る前に映画を観て寝落ちすることはありますが。あとは暖かくなるとベランダに椅子を出してコーヒーを飲んだりもしていますね。

――心地良く暮らすために大切にされていることはありますか?
余白を持つことです。7時に起きて、朝ごはんを食べてコーヒーを飲みながら仕事をして8時半に家を出る。毎日22時には寝る、土日祝は休む。もちろんくずれることもありますが、心がけています。クリエイターとして余白が無いクリエイションが苦手で。レシピなんかも細かく決めこまないんですよ。だから生活にもなるべく余白をつくるようにしています。3時間あったら、2時間だらだらして、残り1時間で仕上げるという人が多いかもしれないのですが、僕は最初の1時間で終わらせて、残りの2時間でゆっくりする。そんなふうに余白をつくるようにしています。すごくこだわりがあるわけでもないので、周りの人の居心地が良ければいいなって。それが空間にもつながっているのかなと思います。

(取材・文/SUMAU編集部 撮影/古本麻由未)

浅本 充 (あさもと・まこと)さん
2009年 株式会社ユニテを設立。フランスやニューヨークでの海外経験を生かしたライフスタイルの提案やフードカルチ ャーの表現を得意とする。 企業の飲食部門のコンサルティングやカフェ監修、メニュー開発等、食に関わる分野を幅 広く手がける。近年では、『LACOSTE』『Agnes b』『GAP』『Saturdays』『MARNI FLOWE CAFE』など様々なファッションブランドや企業のフードプレイスづくりをディレクションしている。












