星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。
滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。
この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。
雄大な阿蘇の山麓には、幾重にも連なるなだらかな草原地帯のみならず、「界 阿蘇」が佇む九重町のような起伏のある山肌が続く光景も広がっています。春になると、鮮やかな黄緑色の草原がより生き生きと輝き、4月中旬~6月上旬にかけてはミヤマキリシマの温かな花の色が山肌を色鮮やかに染め、まるで絵葉書のような情景を魅せてくれます。
阿蘇くじゅう国立公園に指定されたこの地域は、世界最大級のカルデラ地形を成し、火山地形が織りなすみごとな景観にため息が出るほどです。そんな大自然の中に、「界 阿蘇」の客室棟は‘離れ’として点在、それぞれに木漏れ日に包まれひっそりと佇んでいます。この「界 阿蘇」があるのは国立公園内に位置する‘瀬の本高原’の一角。約8,000坪(26,400平米)もの敷地を有する傾斜地「界」シリーズの原点となった始まりの温泉旅館です。
「界 阿蘇」は2006年6月に「界 ASO」として前身の宿開業しました。その後、2011年10月1日、「界ASO」の名を改め「界 阿蘇」へと一新し、星野リゾートによりこの温泉旅館の運営が始まりました。以来、すでに14年、標高1,000m近い天空の地で清々しい空気とダイナミックな情景の中でゲストを迎えています。温泉がプライベートに各客室に設えてあることから、滞在者は時間を気にせず、いつでも温泉に浸かることのできる贅沢があります。全身宿の開業直後の15年ほど前、チェックイン後にそそくさと、森にせり出し緑に包まれたオープンエアの湯船に浸かり、まだ日の高い午後、キラキラとお湯に反射する木漏れ日に感動した贅沢な思い出は、今も尚、忘れることができません。


客室は開業以来変わらずに全12棟、傾斜地に立つ離れはすべてがヴィラタイプのラグジュアリーな一軒家です。寒い時期、厳寒の引き戸を開けて室内へ入ると、クラシックな外観が印象的な日本家屋とは異なり、シンプルモダンで贅沢な内装に驚きます。高い天井、充分に広い室内には大きめの家具、ゆとりあるベッド、外の緑が映り込み森との一体感が快適な大きな窓など、一度客室内に入ると、外に出たくなくなるほどの寛ぎ感に満たされます。
ご当地部屋として大地の息吹を感じるようにと造られたのはご当地部屋「カルデラの間」です。広大な阿蘇の原野に育つ草木や溶岩を釉薬として用い、独特の風合いを表現した「溶岩茶器」や草木染めのクッションが置かれ、温かな印象の風合いが独自の魅力を醸す「小国杉のテーブル」などからも、この大地の自然を存分に感じることでしょう。
敷地の最高地に立つメイン棟には、寛ぎの暖炉が燃えるロビーの他、トラベルライブラリー、ショップ、大きな窓からは絶景を見渡せる食事処、そして絶景テラスと呼ぶアウトドアテラスが揃っています。ここで楽しめるひとつに、界独自の「ご当地楽」があります。例えば「マイカルデラづくり」では、カルデラBAR でバーテンダーとなったスタッフが、阿蘇カルデラの魅力を語り、阿蘇の天然水で作った「焼酎モヒート」やご当地カクテルと共に、赤牛のジャーキーを味わう体験が待っています。また、朝の7時からは、原野の広がる阿蘇の大地で「界 阿蘇」オリジナルの体操プログラムが実施され、朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで大地のエネルギーを感じるひとときは1日の元気を誘ってくれます。



九州では食事も大いに楽しみです。もともと食の大地と言われるグルメな土地柄。山海の幸も農産物も、そして牛肉も、名産物の馬肉も加わり、工夫された独自の会席料理として提供されています。味付けにはフレッシュな山葵、大分を代表する柑橘類のかぼす、九州ならではの甘みのある醤油、柚子胡椒など、阿蘇の大地を感じながら贅沢な食材をいただく満足感に、景色や温泉だけでなく、食事に魅了されリピーターとなるファンも多くいるのです。




取材・文/せきねきょうこ
Photo/界 阿蘇
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。
Instagram: @ksekine_official
DATA
星野リゾート「界 阿蘇」
大分県玖珠郡九重町湯坪瀬の本628-6
界予約センター:050-3134-8092(9:00~20:00)